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光の中
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家に着くと、母が珍しくいなかった。
がらんとした部屋の中に、書き置きの紙が一枚、テーブルの上に置いてあった。
「幸人へ。お母さんは川嶋さんの短歌の発表会に行ってきます。テーブルの上のカツ丼食べてね」
川嶋さんというのは、友人の少ない母親の数少ない親しい友達の一人だ。
カツ丼のラップが、汗をかいている。
僕は、テレビを付けて、暗い部屋に腰かけた。
ねぇ、高梨君。この世界――。
急に、有紀の声がよみがえった。
北上大学、森島明、そして冬の札幌――。
僕は一体どこにいるのだろうか。
「長谷川有紀」は、元の新見高校へと戻って来た。
そして、僕の親友の広人は、マンガ家の夢を諦めつつあるという。
僕は、母の置いて行ったカツ丼を、もそもそと食べ始めた。
夏の光が、鈍く夕方になっても滲んでいる。
どこからか、蝉の声が聞こえるのだ。
僕が、ずっとまだ幼かったとき、父親もいたはずなのだ。
僕は、新見高校をしばらくしたら卒業するだろう。
有紀もどこか進学して別れ別れになるだろう。
そして、広人も色々な夢に挫折して、どこかに進んでいくかも知れない。
僕は、箸をテーブルにことりと置いた。
そしてため息をつく。
ずっとこの体験は「秘密」にしておこう。
そして、僕も新見高校を卒業していくのだ。
そんなことを、僕は静かに思っていた。
夏の光は、まだ色濃く滲んでいる。
がらんとした部屋の中に、書き置きの紙が一枚、テーブルの上に置いてあった。
「幸人へ。お母さんは川嶋さんの短歌の発表会に行ってきます。テーブルの上のカツ丼食べてね」
川嶋さんというのは、友人の少ない母親の数少ない親しい友達の一人だ。
カツ丼のラップが、汗をかいている。
僕は、テレビを付けて、暗い部屋に腰かけた。
ねぇ、高梨君。この世界――。
急に、有紀の声がよみがえった。
北上大学、森島明、そして冬の札幌――。
僕は一体どこにいるのだろうか。
「長谷川有紀」は、元の新見高校へと戻って来た。
そして、僕の親友の広人は、マンガ家の夢を諦めつつあるという。
僕は、母の置いて行ったカツ丼を、もそもそと食べ始めた。
夏の光が、鈍く夕方になっても滲んでいる。
どこからか、蝉の声が聞こえるのだ。
僕が、ずっとまだ幼かったとき、父親もいたはずなのだ。
僕は、新見高校をしばらくしたら卒業するだろう。
有紀もどこか進学して別れ別れになるだろう。
そして、広人も色々な夢に挫折して、どこかに進んでいくかも知れない。
僕は、箸をテーブルにことりと置いた。
そしてため息をつく。
ずっとこの体験は「秘密」にしておこう。
そして、僕も新見高校を卒業していくのだ。
そんなことを、僕は静かに思っていた。
夏の光は、まだ色濃く滲んでいる。
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