海辺の光、時の手前

夢野とわ

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この世界

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初めて、有紀と二人でゆっくりと話しをしながら散歩をしたのは、真夏の季節で、その時僕らは、まだ高校生だった。
僕らの通う、新見高校は、都会の中でも、気持ちの良い場所に、建っていた。
学校の門を出ると、ゆっくりと歩いて、道を下って行く。
春には、桜の木が、花をつけて、その先周りには、コンビニエンスストアもそろっている。

都会の中でも、空気が良く、町の中の公園には、噴水も見ることができた。
噴水の周りでは、いつも子連れの親たちが、子どもの手をひき、近所の図書館で借りた本を、読み聞かせる様子が見えた。
夏の日差しがとてもまぶしくて、僕と有紀は、何度もまぶしいことに笑った。

「ねぇ、高梨君」と、有紀が言って笑う。
有紀の白い肌に、夏の汗が光っている。
「うん」と、僕が言う。
「私のこと、ずっと記憶しているわよね?」と、有紀が続けて言う。
「どうしてかな?」と、僕が聞くと、有紀が笑った。
「あたし、ひょっこりといなくなるかもしれないわよ。この世界から」と、有紀が言う。
その時、僕は有紀が言ったことが、冗談だと思っていた。
その日の、夕暮れの景色は、とてもきれいだった。
それも、とてもきれい過ぎるくらいだった。

僕は、冗談めかして、続けてこう言った。
「僕のほうが、先にいなくなるかもよ。この世界からね」と、僕が言った。
「ええ、それでも良いわ」と、有紀が言って、また笑う。
僕らは、ゆっくりと、街の下り坂を、下って行った。
それから、線路の前で立ち止まり、お互いの姿を確認しあって、別れた。
「この世界から、いなくなるからね。必ず――」と、有紀が確信したように、言う。
夕暮れの、空気は、もわっとしていて、息がつまるようだった。
線路を走る、電車の音が、カンカンカンと響く。
僕は、ゆっくりと町の道を歩いた。
そして、有紀は翌日、行方不明になった。
この世界から、本当に姿を消してしまったのだ。
あの白い肌も、透き通るような笑みも、全部この町と世界から、消えてしまった。
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