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継鬼
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*虎之介side*
元気から受け取った赤ちゃんの柔らかさに驚いた。
僕は、赤ちゃんと接する事が、ほとんどなかったから。
壊れそうで、壊してしまいそうで怖い。
すると、僕の向いに大輝が立って、微かに震えてた僕の手にその大きな手を重ねてくれた。
「可愛いな」
大輝の笑顔。
僕はもう何も怖くなくなって、心底から笑みが零れた。
「可愛いに決まってる! 僕に似てるらしいからね」
可愛い甥っ子を優しく抱き締めて、まるで僕が褒められたみたいに嬉しくなった。
この子は未来だ。
“鬼の子”として生まれて来た桃太郎。
どんな能力が在るかはまだ判らないけれど、どんな子でも、龍太郎と樹利亜なら受け留めてくれる。
僕みたいに寂しい思いをしなくてすむ。
思わず感傷的になってしまっていた。
「ほゃぁ」
桃太郎が小さく泣いて、我に返る。
「あらやだ。そうそう! 写真撮ろうと思って来たのよ」
桃太郎を樹利亜に返すと、持って来てた古いカメラを袋から取り出す。
「そう言えば、生まれたってよく判ったね?」
元気が不思議そうに訊く。
「それなら、道彩兄さんが“予知”して居たの。その通りに飛んで来たらナイスタイミングだった訳」
カメラを構えて桃太郎にピントを合わせて、一枚。
それから母子と親子、元気も入れて撮り、タイマーを合わせて部屋に居た皆で撮った。
「道彩は、元気で居るのか?」
龍太郎が、何故か顔を赤らめて訊いて来た。
別に、大好きな兄の事何だから遠慮なく訊けば良いのにね。
「元気も元気。あちらの跡継ぎ問題も解決したしね」
跡継ぎの鬼としてあちらに行った道彩。
「解決した? ならこちらに帰れるのか?」
期待に満ちた笑顔には悪いんだけど。
「帰らないわよ」
「帰れない?」
「帰らない。よ。道彩はあちらで幸せを見つけたから」
元学園長は驚きの早さで成長していて、見た目は二十歳くらいかな。
傍から見てても解る程に、道彩と完全なるカップルになったみたい。
「そして僕もやりたい事を見つけた」
居場所を見つけた。
もちろん帰る場所はずっと大輝の所だけど。
“居場所”はあの学園。
少し通うつもりだった。
それがどんどん楽しくなって、卒業したいと思い始めた。
それで、大輝に相談したら、彼は簡単に答えてくれた。
「行けば良い」って。
それに、大輝も学園に来てくれた。そこで警備の仕事を任され、教員の宿舎を一室頂いた……僕は入寮。恋人なのに一緒に暮すのはNGってのが不満なんだけど。学生だから我慢。
お店の事も気掛かりだったけど、そちらは人を雇って続ける事にした。
あの場所を必要としている人も居るからね。
まほろばとライは、新しい生活を始めたし……。
「あれ? まほろばくんとライくんは?」
「あの二人なら……」
元気の言葉に耳を傾けてたら、大きな音を立てて襖が開いた。
「ここに居るから!」
ライが真っ赤な顔をして入って来た。
「あら~。真っ赤。お久し振りね。ライくん」
後ろからまほろばが笑顔で入って来て……あら?
「まほろばくん。雰囲気変わった?」
僕の言葉に目を回したまほろばが、
「もうその姿にあったしゃべり方でいいんじゃないか?」
言いながら、僕の頬を撫でた。「―――!!!」そして、野性的な笑顔!
「まほろば!!」
まほろばの魅力的で素敵な笑顔にヤられて、ぼおっと体を預けてしまってた。
大輝とライの焦る顔。
皆のどよめき。
大声に驚いた桃太郎が泣き出して、何とも賑やかな再会に笑顔が溢れた。
*元気side*
明人の実家から配達された夕飯は、すこぶる美味くて。
それぞれが会話をしながらの食事。
まほろばが食べる姿はひとしお皆の視線が集まった。
それは豪快で大量。
さっき、虎之介をくどくみたいな感じになって、皆一同に驚いた。
ライ曰く、意識せずにするから困っているとか。
男女問わずまほろばに夢中になられるから一つ所での仕事が続けられないとか。
食事が出来る様になって、何故だか魅力的になってしまったまほろば。
いや。見た目なら前から魅力的だったけど、今みたいに人目を魅き付け過ぎる何て事はなかったかな。
「ライは大変だな」
ぼそりと呟いた。
「何。何か言った? 元気?」
向かいに座ってたライが俺を見る。
「いや。まほろば、よく食べるなぁ」
ライの隣りに座るまほろばは箸を口に咥えて、目だけで笑った。
おいおい。
それだけでもドキッと来ちゃうよ。おじいちゃん。
「う~ん。今日はおよばれだからこれでも遠慮してるって言うか……ここまで食べなくても普通の量でも充分なんだけど。楽しいから食べ過ぎちゃってるんだね」
何だか、ライが保護者に見える。
もしかしてまほろば、ライに甘えてるんじゃないか?
ちらりとまほろばを見ると、こちらに視線を寄越してウィンクされた。
そんな事するなんて予想外!
そんでもって魅力的。
どうなってるんだっ。
でも、図星。
まほろばはライに甘えてる。
何だか嬉しくなった。
まほろばの傍には、やっぱりライが居ないとな。
くつろいだまほろばに笑みが零れる。
二人は幸せなんだな。
すごく。俺まで幸せな気分になった。
小さな泣き声と、樹利亜の声が聞こえた。
隣りの襖越しに子守歌を歌いながら授乳して居た。
俺は樹利亜の妊娠で出産について勉強していた。
何故なら、樹利亜は病院に行けず、だから自然と俺が診る事になって、自分の“癒し能力”を最大限に使うには?
そう考える様になった。
「俺。医者になる!」
口に出して居た。
言葉にして初めてそれが形になった。
「何?」
樹利亜が驚いて聞き返す。
「俺。ちゃんとした医者を目指す。
それで産婦人科医に成るんだ!
まほろばと俺の能力は、確かにほいほい使える様な代物じゃない。
人目についたら、とんでもない事になるのは考えなくても判る。
だからさ。
産まれて来る赤ちゃんなら、その母親共に守れるんじゃないかな?」
て。一気に話してから、周りが静まり返ってる事に気付いた。
俺、変な事言ったかな?
「スゴい。元気!」
「お前なら出来る!」
樹利亜の、龍太郎の、
「それは良い考えだ」
「お医者さん。元気に似合ってるかも!」
まほろばの、ライの。
「開業する時はボクのマンションを使うといいよ。あそこなら羅刹島もそんなに遠くないからね」
虎之介の有難い申出にココロ浮き立つ。
「うおっし! 頑張るぞぉ!」
やる気も満タン。
頑張れば出来ない事はないんだから!
“羅刹島”
虎之介に言われた言葉が胸を動かす。
空羅寿。羅刹。二人に会いたいな。
どうにか自由に行き来出来る術が見つからないかな。
俺にも虎之介の能力が備わってたら良かったのにさ!
「あら、その顔。婚約者殿に会いたくなったんだね。今から連れて行こうか?」
「え! 良いの?? なら用意しないと」
準備をしようと席を立った俺の肩に飛び乗って来た虎之介が、
「さっそく行くよ!」
有無を言わせず飛んだ。
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