鬼に成る者

なぁ恋

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画伯鬼

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濡れた筆先が紙の上を滑る。

ただ、描く事が好きで。
ただ、描いていたくて。

描く事でココロ落ち着いて、
描く事が自我を保つ術。


何故?
何故居なくなったの?

僕は、
ただ、描いただけ。

命をかけて、
描いて居るだけ。


止まらない創作意欲は、貪欲で、僕を蝕む。


「はぁ……はぁ―――」

いつも息が苦しくて、
意識が朦朧として来る。

「描かなきゃ」

そうしないと、
僕を保てない。
 
 
 
画伯鬼~がはくおに~
 
 
***

 
*ライside*


思ってもみなかった事が起こるものだとつくづく思う。

帰って来たのはゆっくりとしたかったから。
なのに、何だよ。

古い家に落ち着いて一週間。
まさか、まさかの出来事。



父親が、訪ねて来たのだ。

目の前に座る男は、紛れもなく、幼い頃に別れた父さんだ。

髪は白いものがちらほら見えて、目尻に薄くシワが出来てる。

その他は、まったく変わってない様に思える。



「その。大きくなったな」

その言葉が間抜けに聞こえる。

「貴方は変わっていませんね」

嫌味なく言ったつもりだけど。

「ふむ。その。……髪はどうした?」

溜め息混じりに訊く。

「地毛だよ」

「そんな筈は……生まれた時は黒かったよ。
試す様な事を言うんだな」

嫌味はないんだけど。

「つい最近青くなったんだよ」

何だかアホらしくなって来た。

「ほら、まほろばの赤い髪も地毛だよ」

視線をボクの隣りに座るまほろばに向けて、

「彼は、外国の人だろう?」

ぷっ
と、吹き出してしまった。
言われたらそうなのかも。凛々しい眉に、切れ長の金の瞳。しかも、燃える様な赤い髪。

うん。
次に訊かれたらそう答えたらいいかも。


くすくすと含み笑っていたら、父さんが、小さく咳払い。言葉を続ける。

「その。実はな。
父さんの再婚でお前には弟が出来た」

全然知らなかったし想像すらしてなかった。

「その臣咲みさきが、お前に会いたがってる」


何が起こるか判らない。
それが人生だと唐突に思った。
“人の生”だと。

 
 




結局どうしてもと諭され、父さんに着いて行く事になった。

後日行くから。と言っても譲らず、仕方なくまほろばも行くならと、渋々承知して車に乗った。


「何で今頃なのさ?」

そう言ってすねてみる。

だって、おかしくない?
今更だよ。
連絡も何も無かったのに。

「すまない。
お前は、特別な子だったからな。母さんの」

「それは……孫だから」

運転席から溜め息が聞こえた。

「お前は……いや」

言葉を濁す。

ココロを読んでも良いんだけど。
何だか嫌で。
溜め息を呑み込んで座席に体を沈める

それに、どう言う事だろう?

父さんの背後に朱色の鬼の気配を感じてた。

「まほろば」


*まほろばside*


呼ばれて頷く。



ライは本人が思うより動揺して居た。

俺は玄関に影を作った時から気配を感じて居た。

何より、家の守護者がいつもの穏やかさを無くしどこかへ消えた。

普通なら息子が訪ねて来たら喜んで良い筈。
それがその気配を消してしまった。

ライの父親の姿を見た時頷けた。
強い鬼気を感じて、眉根を寄せる。





ライが怪訝な顔をしてこちらを見て居る。

「そうだな。感じた通りだ」

ライの考えに同意し頷く。

父親の背後に居るのは、恐らくはライの弟。

それに、何か意図があって会いに来たであろう事は、見るからに明らか。


ライは俺と再会して、“封じていた感情”が表に出て居た。


だから平静にならなければ視えなかったのだ。
 
 
*ライside*
 
ボクの街を過ぎて隣り街に入ってから更に人里離れた山に近い場所に、立派な門構えの大きな洋館が見えて来た。

車は当然の様にその場所に向かい、門は自動で開いて、車はゆっくりと邸内に入ると、母屋とは別の車庫に停まった。

「私は、ここの婿養子に入ったんだ。
今の姓は琴原ことはらそして、一週間前に妻が失踪した。
臣咲が、不憫でな」

涙ぐんで居る?

「病気なんだ。 
それも、原因不明の病で、酷い頭痛に悩まされている」

弟。自分と血の繋がった兄弟。
言われても、ぴんと来なかった。けど、病気?

「すまない。お前に会いに行ったと言うよりは、臣咲の為にお前を連れて来た。
臣咲が望んだんだ、兄に会いたいと」

言いながら外へ出る。
それに習ってボク達も出て、ゆっくりとした動作で歩き出した父さんの後に続く。

「奥さんは、どうして居なくなったの?」

「判らない……臣咲の事でココロ痛めて居たからな。もしかしたら現実逃避かもしれない。
その内帰って来ると思ってはいる」

楽観的な見解。
何よりも病気である臣咲の事の心配が先だっているから?

「会ってやってくれ」

その声色は心配する父親のもの。交差する様に思い出すのは、ばぁちゃん家の玄関先に置いて行かれた自分。

ぐっと拳を握る。

今更、こんな感情が現れるなんて。

ココロに広がるのは置いて行かれた孤独。

“礼”は、寂しがって居たんだ。


「ライ」

まほろばの優しい声に、我に返る。
今更。今更、だ。

「大丈夫だよ。ありがとう」

まほろばの傍に擦り寄って、父さんが招く大きく開けた玄関ドアをくぐる。
 
 
静かで人の気配の無い家の中。

「臣咲! 帰ったぞ」

父さんの声が家に響く。

弟。
ボクの弟。臣咲。

ギィと、ドアのきしむ音が聞こえ、玄関から突き当たりの階段下にあるドアが開き、線の細い少年が姿を現す。

淡い茶の前髪で目を隠した臣咲が、ゆっくりと近付いて来た。

鬼の気配等微塵もない、ごく普通の少年。

「初め……まし……て」

どもりながら、言葉を発する。

「臣咲くん。ボクは礼だ」

「はい……兄……さん」

臣咲は小さく頷いた。
その隣りに父さんが着くと、

「居間で話そう」

促され、全員で移動する。


ソファに向かい合わせで座る。
紅茶を出した父さんが臣咲の隣りに座るも、沈黙が室内を覆う。

「頭痛は大丈夫?」

沈黙に耐えられなくて訊いた。

「大……丈夫。今は、落ち……着いてる」

「以前はどもる事はなかったんだが、病気になってから、こう言うしゃべり方になった」

父さんの言葉に臣咲が頭を下げる。

「そう。大変だったね。
ボクと会いたいと言ってくれたんだね」

小さく頷いた臣咲が口を開く。

「父さんに、聞いて……会い……たくて」

握った拳を落ちつかげに擦っていた。

「ありがとう」

その言葉が自然と口を出た。

「んっ。あ!」

突然悲鳴を上げて頭を抱えた臣咲が体を丸める。


「まほろば!」

言うまでもなくまほろばは臣咲の側に居て、その頭に手を伸ばす。


バチッ!


まほろばの手を電流が弾いた。
淡い白い光が臣咲を包んでいて、それは目には見えてなくて驚いた。

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