鬼に成る者

なぁ恋

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地獄鬼

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****




*元気side*


夢。
千里眼で視た事実。




まほろばの腕の事は聞いて居た。
でも、帰って来た時にその腕は普通に在ったし、違和感なく、
あぁ、怪我したんだな。くらいにしか感じていなかった。


あの生き物は何だ?
まほろばに似た鬼。

最初にライから視たあの地上に現れた鬼の誕生を、それを造った者の視点から夢に視た。

答えは、
まほろばの一部から造られた鬼。
まほろばの分身。と言っていいだろう。


あの“まほろば”はライが感じて居る通り、ライと出逢えなかったまほろばの姿だ。

まほろばと言う魂の負の一部。

金と銀の鬼は、自在に魂を操れる。それはこう言う事も出来得ると言う事なのか?

ライと道彩が二人揃うと魂に関する事なら何でも出来る。と言う事?


それは恐ろしい事だ。


溜め息が出た。

“元気”として生まれ、まほろばに再会し、ライとの関係とその愛情を見て来た。

普通に、

幸せに暮らしました。
終わり。

何て物語の締めくくりみたいなハッピーエンドにはならないのかな?

二人には、幸せになって貰いたい。

前世からひたすらに感じてた気持ち。

それを逆撫でする様な今回の出来事。

ライが弱るのが理解出来る。あのまほろばを感じて居たらそれだけでおかしくなる。
耐えられるのは傍にオリジナルのまほろばが居るから。
  
あのは、ライを探して居る。

今は市松の護りに隠れて居るライも、あの分身なら、見つけてしまうかもしれない。


皆にこの事実を話さなければ。
 
 




****


朝、皆の集まる朝食時に夢の話をした。
弱ってまだ眠って居るライを除いて、まほろばは話を聞く為にテーブルに着いていた。


皆一応に溜め息を吐く。

「それで、どうして地獄からここへ現れたんだ?」

龍太郎の訊きたい事は解る。
地獄から地上へは出る事は出来ない。と晶嶺が言った事は事実。

良く考えれば、これまでの地獄の経過を見れば力を求めて地上に出て来る輩が居たかもしれない。
生死に係わる事なら、地上に居て地獄に戻らなければ良い話で、地獄何て居て楽しいものじゃないんだから。

でも、出来なかった。
理由は混血の者の封印はそれだけで強かった。外から施した封印は、完璧で強靭。
違う捕らえ方をすれば、人間は弱く、鬼は強いけれど、そのどちらの血も持つ者はどちらの種よりも強かった。

そう言った結論になる。

俺の話に頷いた皆の中でまほろばが口を開く。

「“奴”が封印を破る程の力を持ち得たのはどうしてだ?」

「それは……」

「求める想いが強かった」
樹利亜が代弁した。

まほろばの顔が曇る。
「“想い”は無くなる事はない」

実感の籠った言葉。

「それで、その鬼は危険なのか?」
随喜が訊く。

「今の所、動きはない様だ」
視えたのは、地獄から這い出て来た所。

それからの動きはなく。何等かの被害が出たと言う報告もない。

「被害がない限り放置して良いんじゃないか?」
才覚が更に付け足した様に言ったのは、
「問題は赤鬼青鬼二人の事で、他のもんには関係ないんじゃないか?
人間には。か……」
 
 
「そんなっ……人情味ない事言うなよ!」
堪らず叫ぶ。

「そうだ。才覚。彼らが市松の為にしてくれた事を忘れたか!?」

龍太郎の叱咤に、才覚はばつの悪い顔をして座り直す。

「主様、許してやって下さい。この者は57と相当の年ですが、見た目の若さよりもまだ精神年齢は更に幼く、言葉を知らないのです」

随喜が深々と頭を下げた。

「いや。
確かに俺の問題だ。俺自身の失敗が起こした事」

まほろばは立ち上がると、考え深げに頭を下げて、思い立った様に口を開く。

「ライを、匿ってやってくれ。
隠れて居ても意味がない。俺自身で決着をつけて来る」

上向いたその瞳は強い光りを放っていた。

何かを決意した、そんな感情が会間見えた。

「奴は朱色の鬼。ならば、どの道放っては置けない」

「なら、俺が助太刀する」

龍太郎の言葉にまほろばは静かに答えた。

「一人が良い」
「じゃあ俺が行く」
俺の顔を一瞥して、
       
「お前はライをてやってくれ」

まだ話してないのに能力が増えたのが判るのか?

「お前の変化は何であれ、すぐに解る」
俺を見たまほろばが小さくほほ笑んだ。

「俺は、俺を許さない。“まほろば”の名は、ライから貰った大切な名だ。
自分だけのモノだ。
ライも名も、俺の手で守る」

開いた拳をまた強く握ったまほろばが、こちらに背を向けて出口に向かう。

「居場所が判らないだろう?」
慌てて声を掛けるが、軽く左手を上げて、

「俺の事は俺が一番解っている」
一度も振り向く事なくまほろばは出て行った。
 
 
 
****


*まほろばside*

  
そのに気付いてしまえば解る。

外気に触れ流れる風に肌を晒すと、その存在を感じられた。
俺が感じていると言う事は奴も気付いている筈だ。

をこんな風に感じる事はある筈のない事。

高く跳躍し、屋根伝いを走る。民家を、更に街中のビルを、奴の気配を辿って、山へ、鬼神山へ向かう。

奴は、地獄から出て、何故かあの場所に留まって居る。

風に乗って、ただそこに存在するだけで、濃く感じる禍々しい気配。

俺がそう成ったかもしれない。
そう思うだけで、心底から恐怖を感じた。

ライに再会出来なかったら、俺は―――。

何度も考える。
嫌になるほど……。

は俺の脅威。



俺に“千里眼”の能力はない。
なのに、その姿が視えた気がする。


奴は、視たくない俺の姿なんだ。

は俺の鏡像。



解る。

左拳を握る。
奴は生まれてずっと共に居た俺の一部。

は俺の全てを記憶して居る。

俺の“切なさ”“想い”“痛み”

何より、ライへの“執着”“独占欲”
そして、ライへの……“恨み辛み”


ライは、
愛しくて憎い。

俺の全て。
それが奴も同じなら……。



同じだろう。

山に近付くにつれて、
その禍々しさが肌に直接触れて来た時、

気付いた。

それは、奴も同じ。

ライが、全て。
 
 


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