鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
上 下
163 / 210
夢乱鬼

18

しおりを挟む
 
「「ここにも、金と銀が居るのか?」」
奴が髪を揺らし、暗い雰囲気が全身を包む。
「「一つに成れば良いのだ。互いに闘って、負けた者は大人しく喰われる。そうすれば強い個体に成る」」

それは、鬼の禁忌。
「何を!?」
「「お前も喰うたでわないか? “愛しい”等と言う者を。同胞を……。そもそも“愛情”とは何だ?」」
赤い眼が細まり、胸に在る母体を見下ろす。
「「人間の“母性”。なる程。これは昔から変わらず在る。
この感情は我らには不要。なのに、お前の中に在るのだな。青鬼に対する“愛”が」」
放さない腕にさらに力が籠り、肩からはみ出た骨が完全に折れた。
それを見て口端で笑んだ朱色の鬼が片手を離す。その指を噛み切り、血が、赤い血が滴り落ちる。手を移動させ、その滴りを俺の傷口へ垂らした。

朱色の鬼の邪心の籠った血。それが躰内部に浸透し、心臓が沸騰する。
そこから全身に血流し、原始の血が目覚める。

「「そうだ。面倒な感情に囚われるな。
覚えて居るだろう? 肉の味を。今度は青鬼の能力を取り込む為に、喰え」」
“言霊”の籠った囁き。

躰の奥底から沸き上がる欲望は、残酷な負の感情。

ダメだっ! 理性が叫ぶ。だが、囚われた躰は言う事を聞かない。

盛り上がる肩。
角が熱く、熱を発する。

奴の毒々しい笑顔が目端に見えたが、意識が薄れ悪意に呑み込まれる。



自身の咆哮が耳に木霊する。
 




 
  
*ライside*


道彩の手の中に三つの“魂の珠”が熱く光る。

後は、それぞれの身体に戻すだけ。
風の牢獄をなくせば彼等はすぐにでも襲いかかる。

意識を集中して居た。
足元が大きな音を立て、揺れる。
崩れかけていた床下がさらに大きく口を開けた。


まほろば??
彼なら一人でも大丈夫だと思っていた。

この地下には、地獄の入口が在ると。ここの住人が言っていた。
封印してあるのも感じられる。
なのに、胸騒ぎがして。同時に邪悪な鬼気が煙の様に上がり目の前に霞みを作る。

まほろばに意識を飛ばすと左肩に痛み。続く不安感と膨らむ鬼気。

彼が危ない!
気付いたら風が止んで居た。

唸り声と駆ける足音。
が、次の瞬間には無音になる。
振り向くと、能力者が二人“束縛”し“言霊”で捕らえて居た。

「俺達も手伝える!!」

「ライ。主様が気になるのか?」
道彩に訊かれ、震える手を抑える様に握り締める。
「行かなきゃ!」
「気を付けろ!」道彩に頷き、床の空間に飛び込む。同時に、まほろばの悲痛な叫びが木霊する。

まほろば。
まほろば!!





*道彩side*

咆哮が空洞と崩れかけた部屋を振動させる。
これは、まほろばのもの?
まるで目の前に居る彼等の様な、獣の気配。膨らむ鬼気は一同を震え上がらせた。三兄弟も同様に。
むしろ本能で生きて居る彼等の方が私達よりも恐れて居る。
今の内だ。助けには、この魂を返してから向かう。

束縛され、身動き取れない彼等の頭上に魂の珠を投げる。珠は揺れ動き、ぴたりとそれぞれの頭上に留まる。

『魂よ。自身に返れ』
シンプルな言葉で良い。それは言霊と成り、光りが爆発した様に室内を照らす。
次に目を開けた時、呆然と立ち尽くす三兄弟が居た。
  
三兄弟が瞬きをする。
瞳が綺麗な色彩を取り戻し、思考が働き出すのが分かる。

「ここは?」美しい金の長髪の女性が口を開く。
「上弦!」咲夜が叫び彼女を抱き締める。

「何が起こったんだ?」真っ直ぐな金の短髪の男性に、無言で抱き着く奈留。

「沙弓は?」ウェーブ掛かった金髪の紫の瞳が周囲を見渡す。

沙弓。悪鬼の母体。

「朔、上弦。下弦!」
華子が子どもの元へ走ると、三兄弟は彼女を見て息を呑む。
「母さん!」瞬時に理解し、親子が抱き締め合う。

「僕達は……死んだと思った。」
朔が疑問をぶつける。
「奈留が躰を再生したのよ」
母の言葉に溜め息と賞賛を称えた朔が愛しい人を抱き締める。
「僕の為に?」
「貴方を失いたくなかった。簡単に出来るとは思わなかった。皆が協力したのよ」
「だから取り戻せた。沙弓も、頑張ったんだよ。下弦。」
上弦を抱き寄せた咲夜が下弦に視線を向ける。

「沙弓は?」不安げな息子の問いに、傍らに居た華子が答える。

「悪鬼に成ったの」
それを聞いた紫の瞳が見開く。
「……この手が、彼女を襲った?」
指先に付いた血液が、沙弓の匂いを発しているのだ。
彼は瞬き、床の空間を見る。
「そこに、沙弓が居るんだな?」

「何かが起こっている」
私の言葉に、初めてこちらに視線を移す。

「誰だ?」
「道彩。お前達の魂を返した者。
簡単に言えば、お前達は私と共に生きるんだよ」
私の存在が彼等の身体と魂を固定させる。
生き返らせる行為は使役するのと同等。
それを使おうとは思わないが。
「私が死ぬ時が、お前達の最期になる。
それは、随分先の話しだが」
華子が傍に来て、私の手の甲に口付けた。
「ありがとう」
潤んだ瞳に指を這わせ拭き取る。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白鬼

藤田 秋
キャラ文芸
 ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。  普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?  田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!  草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。  少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。  二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。  コメディとシリアスの温度差にご注意を。  他サイト様でも掲載中です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

戦国姫 (せんごくき)

メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈ 不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。 虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。 鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。 虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。 旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。 天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!

新説 桃太郎

本来タケル
大衆娯楽
山奥でお爺さんお婆さんに拾われた桃太郎。10年近く鬼退治の決意を胸に秘め、とうとう桃太郎は鬼退治へ旅立つ。人族とサル族と犬族とキジ族の仲間を連れて。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

HEAD.HUNTER

佐々木鴻
ファンタジー
 科学と魔導と超常能力が混在する世界。巨大な結界に覆われた都市〝ドラゴンズ・ヘッド〟――通称〝結界都市〟。  其処で生きる〝ハンター〟の物語。  残酷な描写やグロいと思われる表現が多々ある様です(私はそうは思わないけど)。 ※英文は訳さなくても問題ありません。むしろ訳さないで下さい。  大したことは言っていません。然も間違っている可能性大です。。。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...