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夢乱鬼
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しおりを挟む「「ここにも、金と銀が居るのか?」」
奴が髪を揺らし、暗い雰囲気が全身を包む。
「「一つに成れば良いのだ。互いに闘って、負けた者は大人しく喰われる。そうすれば強い個体に成る」」
それは、鬼の禁忌。
「何を!?」
「「お前も喰うたでわないか? “愛しい”等と言う者を。同胞を……。そもそも“愛情”とは何だ?」」
赤い眼が細まり、胸に在る母体を見下ろす。
「「人間の“母性”。なる程。これは昔から変わらず在る。
この感情は我らには不要。なのに、お前の中に在るのだな。青鬼に対する“愛”が」」
放さない腕にさらに力が籠り、肩からはみ出た骨が完全に折れた。
それを見て口端で笑んだ朱色の鬼が片手を離す。その指を噛み切り、血が、赤い血が滴り落ちる。手を移動させ、その滴りを俺の傷口へ垂らした。
朱色の鬼の邪心の籠った血。それが躰内部に浸透し、心臓が沸騰する。
そこから全身に血流し、原始の血が目覚める。
「「そうだ。面倒な感情に囚われるな。
覚えて居るだろう? 肉の味を。今度は青鬼の能力を取り込む為に、喰え」」
“言霊”の籠った囁き。
躰の奥底から沸き上がる欲望は、残酷な負の感情。
ダメだっ! 理性が叫ぶ。だが、囚われた躰は言う事を聞かない。
盛り上がる肩。
角が熱く、熱を発する。
奴の毒々しい笑顔が目端に見えたが、意識が薄れ悪意に呑み込まれる。
自身の咆哮が耳に木霊する。
*
*ライside*
道彩の手の中に三つの“魂の珠”が熱く光る。
後は、それぞれの身体に戻すだけ。
風の牢獄をなくせば彼等はすぐにでも襲いかかる。
意識を集中して居た。
足元が大きな音を立て、揺れる。
崩れかけていた床下がさらに大きく口を開けた。
まほろば??
彼なら一人でも大丈夫だと思っていた。
この地下には、地獄の入口が在ると。ここの住人が言っていた。
封印してあるのも感じられる。
なのに、胸騒ぎがして。同時に邪悪な鬼気が煙の様に上がり目の前に霞みを作る。
まほろばに意識を飛ばすと左肩に痛み。続く不安感と膨らむ鬼気。
彼が危ない!
気付いたら風が止んで居た。
唸り声と駆ける足音。
が、次の瞬間には無音になる。
振り向くと、能力者が二人“束縛”し“言霊”で捕らえて居た。
「俺達も手伝える!!」
「ライ。主様が気になるのか?」
道彩に訊かれ、震える手を抑える様に握り締める。
「行かなきゃ!」
「気を付けろ!」道彩に頷き、床の空間に飛び込む。同時に、まほろばの悲痛な叫びが木霊する。
まほろば。
まほろば!!
*
*道彩side*
咆哮が空洞と崩れかけた部屋を振動させる。
これは、まほろばのもの?
まるで目の前に居る彼等の様な、獣の気配。膨らむ鬼気は一同を震え上がらせた。三兄弟も同様に。
むしろ本能で生きて居る彼等の方が私達よりも恐れて居る。
今の内だ。助けには、この魂を返してから向かう。
束縛され、身動き取れない彼等の頭上に魂の珠を投げる。珠は揺れ動き、ぴたりとそれぞれの頭上に留まる。
『魂よ。自身に返れ』
シンプルな言葉で良い。それは言霊と成り、光りが爆発した様に室内を照らす。
次に目を開けた時、呆然と立ち尽くす三兄弟が居た。
三兄弟が瞬きをする。
瞳が綺麗な色彩を取り戻し、思考が働き出すのが分かる。
「ここは?」美しい金の長髪の女性が口を開く。
「上弦!」咲夜が叫び彼女を抱き締める。
「何が起こったんだ?」真っ直ぐな金の短髪の男性に、無言で抱き着く奈留。
「沙弓は?」ウェーブ掛かった金髪の紫の瞳が周囲を見渡す。
沙弓。悪鬼の母体。
「朔、上弦。下弦!」
華子が子どもの元へ走ると、三兄弟は彼女を見て息を呑む。
「母さん!」瞬時に理解し、親子が抱き締め合う。
「僕達は……死んだと思った。」
朔が疑問をぶつける。
「奈留が躰を再生したのよ」
母の言葉に溜め息と賞賛を称えた朔が愛しい人を抱き締める。
「僕の為に?」
「貴方を失いたくなかった。簡単に出来るとは思わなかった。皆が協力したのよ」
「だから取り戻せた。沙弓も、頑張ったんだよ。下弦。」
上弦を抱き寄せた咲夜が下弦に視線を向ける。
「沙弓は?」不安げな息子の問いに、傍らに居た華子が答える。
「悪鬼に成ったの」
それを聞いた紫の瞳が見開く。
「……この手が、彼女を襲った?」
指先に付いた血液が、沙弓の匂いを発しているのだ。
彼は瞬き、床の空間を見る。
「そこに、沙弓が居るんだな?」
「何かが起こっている」
私の言葉に、初めてこちらに視線を移す。
「誰だ?」
「道彩。お前達の魂を返した者。
簡単に言えば、お前達は私と共に生きるんだよ」
私の存在が彼等の身体と魂を固定させる。
生き返らせる行為は使役するのと同等。
それを使おうとは思わないが。
「私が死ぬ時が、お前達の最期になる。
それは、随分先の話しだが」
華子が傍に来て、私の手の甲に口付けた。
「ありがとう」
潤んだ瞳に指を這わせ拭き取る。
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