157 / 210
夢乱鬼
12
しおりを挟む「離して下さい」
なかなか手を緩めない道彩に苛立ち言葉強く言うが、離そうとはしない。
「貴女の震えが治まったら離しましょう」
言われて小刻み震えて居る事に気付いた。
大きく溜め息を吐く。
「貴女は“鬼気”に囚われて居た」
驚いて彼を見上げる。
「鬼気? 鬼が居るのですか?!」
そんな筈はない。
ちゃんと管理された学園で悪鬼に成る者は出ない。今までは出て居ない。
「私も、そう考えた。だが、鬼の残り香が在った。普通ここまで気配を残すのは珍しい。
気配を辿って居たら貴女の悲鳴が聞こえた」
だから私をあやして居た?
「鬼気を取り除いて居ました」
そう言って、もう大丈夫ですね。と離れる身体。もう少し。と想ってしまった自分に驚いた。
「鬼らしき影を見ました。金色の影を」
私の髪を撫で付けながら道彩が言う。
「金色?」
息子達は皆私と同じ髪の色をしている。
母が、西洋人だった為に私の髪は金の色をして居た。
首を振る。
夢を見たからか、息子の姿がちらついて。
哀しみがココロを暗くする。
「では、私は行きます……華子様?」
道彩の訪ねる様な瞳に、彼を掴んだままの手に気付き慌てて離す。
思わず顔を背ける。熱くなった頬を隠したくて……。
「用心するに越した事はありません。月を呼んでおきましょう」
立ち上がって遠ざかる彼の熱は、離れた筈なのにこの身体を温める。
「おやすみなさい」
低音の道彩の声は、私の耳に長く余韻を残した。
****
*?side*
「下弦!」
窓から裸体の愛しい人が帰って来た。
目を離したすきに居なくなって、気が気じゃなかった。
まだ朔や上弦よりも完全体ではないのに……。
「心配しないで」
腕を開くと冷えた身体が飛び込んで来た。
支えられずに床に倒れ込む。
「貴方は誰よりも賢く、好奇心が強かった」
男性一人分の重みに打ち付けた背中が少し痛む。
身体の痛みは、ココロの痛みよりも軽い。
下弦を抱き締めて、安堵の溜め息を吐く。
「もう少し……もう少しで完全に復活出来る。だから大人しくして居て?」
愛しい下弦。柔らかく笑った瞳は紫色。まるで宝石みたいに光っている。
その唇に触れる。そっと顔を引き寄せて軽く唇を重ね、離す。
「ねぇ? 下弦。私の中に、確かに育って居るの」
彼の手の平を私のお腹に触れさせる。
下弦は首を傾げてほほ笑んで、彼から唇を寄せて来た。
触れた唇は温かい。
彼は生きてる。
生きて居る。
叫んで叫んで彼の名を呼んだ。
死んだと言われて納得出来る筈もなく、
だから呼び戻す術を手に入れた時、迷い無く飛び付いた。
立ち上がった下弦が、部屋の隅に置いた姿見に映る自分を見て小さく笑った。
近付いて鏡に手を置く。
不思議そうに見つめて。
鏡の中の自分に口付ける。
鏡に映る美しい貴方。
金のウェーブかかった短い髪が月光で煌めいて、身体全体をも闇に浮かび上がらせる。この世のものと思えない。
貴方は私のものよ。
今までも、これからも、ずっと。
「下弦。愛してる」
この言葉が解る様になるには、もう少し時間がいる。
背中に抱き着いて彼の香りを吸う。
もう離さない。
もう離れない。
****
*道彩side*
「おっはよう!」
虎之介の明るい挨拶に笑みを返す。
「おはよう」
苦しいのは一睡も出来なかったからだろうか?
「顔色悪いよ?」
心配気に顔を寄せて額を重ねる。
「熱はないし……」
「寝不足なんだ」
この言葉に驚いた様に目を見開いた虎之介が、
「鬼も眠るの?」
その問いには笑った。
「眠るさ」
「まほろばくんは眠らないのよ」本性が顔を覗かせた虎之介が饒舌に語る。
それは呪いなのか? 愛なのか? 長く、純粋で歪んだまほろばとライの物語。
恋人だと理解して居た。だが、これは……。
「だから二人、これからはずっと幸せに暮らしましたとさ。ってハッピーエンドでなきゃいけないのよ!」
虎之介は力説して、「あらやだ」と襟を正す。
鬼の恋愛は幸せに程遠いのだろうか?
「僕は思うんだ。人を好きになるってそれだけで幸せな事だって。」
虎之介の言葉は一々もっともで、それは彼がすこぶる幸せで居るからだろう事は見るからに明らか。
「うん。会いたくなっちゃった! 朝ご飯は大輝と食べて来る」言うが早いか、消えた。
羨ましい。心底そう思う。
私はかなり、ひねくれた生き方をして来た。
今世は素直に真っ直ぐ生きて行きたいと願う。
両手の平を見ると、昨晩の名残が。
震えおののく華子から立ち上ぼる鬼気。
彼女を見た時、それは三つの揺れる炎に取り囲まれて居た。
それらを払い除けると、華子は低体温になって目を見開いて居た。彼女に触れるとその手が刺された様に痺れ傷を作った。両手の傷は星型。
弁慶の額にあった傷痕に似て居る。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
白鬼
藤田 秋
キャラ文芸
ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。
普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?
田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!
草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。
少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。
二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。
コメディとシリアスの温度差にご注意を。
他サイト様でも掲載中です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ハヤトロク
白崎ぼたん
BL
中条隼人、高校二年生。
ぽっちゃりで天然パーマな外見を、クラスの人気者一ノ瀬にからかわれ、孤立してしまっている。
「ようし、今年の俺は悪役令息だ!」
しかし隼人は持ち前の前向きさと、あふれ出る創作力で日々を乗り切っていた。自分を主役にして小説を書くと、気もちが明るくなり、いじめも跳ね返せる気がする。――だから友達がいなくても大丈夫、と。
そんなある日、隼人は同学年の龍堂太一にピンチを救われる。龍堂は、一ノ瀬達ですら一目置く、一匹狼と噂の生徒だ。
「すごい、かっこいいなあ……」
隼人は、龍堂と友達になりたいと思い、彼に近づくが……!?
クーデレ一匹狼×マイペースいじめられっこの青春BL!
戦国姫 (せんごくき)
メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈
不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。
虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。
鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。
虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。
旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。
天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
HEAD.HUNTER
佐々木鴻
ファンタジー
科学と魔導と超常能力が混在する世界。巨大な結界に覆われた都市〝ドラゴンズ・ヘッド〟――通称〝結界都市〟。
其処で生きる〝ハンター〟の物語。
残酷な描写やグロいと思われる表現が多々ある様です(私はそうは思わないけど)。
※英文は訳さなくても問題ありません。むしろ訳さないで下さい。
大したことは言っていません。然も間違っている可能性大です。。。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる