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夢乱鬼
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しおりを挟む*道彩side*
貰った手紙から幼い少女が脳裏に浮かんだ。
そこから少女は鬼だと解って、先走ってその教育係だと思ってしまったが、教育は“学園”を現していた。
少女はこの地の護り主。そしてココロ痛めた母親。
護る立場の頂点に立つ女性。
だが、弱々しく守られて当たり前の子どもに見える。
確かに見姿はそうだが、実際は私よりもかなり年上。
何故か気になる。
彼女は女性。
だが、上に立つ者としての凛々しさと強さを持ち合わせていた。
「兄さん? 用意出来てる?」
虎之介の声に思考から現実に呼び戻される。
新品の制服を着て嬉しそうにこちらを見ている。
「ああ、おかしくは無いか?」
「似合ってるよぉ」
無難な黒のスーツ。
「でも、サングラスは掛けない方が良いと思うけど。自然のままで居れば良いんじゃない?」
角は隠せても、瞳の色は変える事が出来ない。
「そうだな」
ここで生きて行くなら自然でいよう。
トントン。と扉のノック音に返事をすると、月が顔を覗かせる。
「お支度は出来ましたでしょうか?」
二つ返事で立ち上がると、「こちらへ」促されて部屋を出る。
階段を上がり、華子の部屋の前を通ってその奥の黄色の扉を開ける。
そこは、学園へ続く通路になっていた。
「学園の地下になります」
屋敷は学園より下側に在り、二館を繋ぐなだらかな階段が学園の地下に在った。
屋敷に教師は下宿して居る、この通路が学園への通い道になって居ると分かった。
15分も登ると、入った時と同じ黄色の扉と青色の扉が現れ、月が黄色の扉を開ける。
「こちらが学園長室です。隣りの青の扉は直接職員室へ続くもの。この部屋の右側の扉が職員室へ繋がっております。」
古い形の金の鍵を手渡される。学園長室の鍵。
学園長室。左側には大きな窓があり、近付くと中庭が見えた。
そこから丸い屋根の体育館が見える。
その窓際に華子の部屋にあった物と同じ、黒い長机と座り心地良さそうな椅子が置いてあった。
「こちらへ」
月が職員室への扉を開ける。
入ると、白い机の並ぶ陽当たりの良い部屋。三ヶ所の机に花が生けてあった。
月頭兄弟の机なのだろう。
「道彩さん。おはようございます!」
奈留が勢い良く立ち上がる。
「皆さんおはようございます」
それぞれが立ち上がり会釈が返る。
「今日からよろしくお願いします。判らない事だらけですから、ご指導願います」
「はい。こちらこそ」
ゆっくりほほ笑んだ一之瀬が疑問をぶつけて来た。
「貴方も隠せるのですね?」
「角ならば。だが瞳は隠せない」
「気になさらないで良いと思います。ここの生徒は皆個性的ですから」
にこりと笑顔のまま、視線は虎之介へ。
「虎之介くんも、今日からよろしくね」
「よろしくお願いします!」
興奮と緊張で赤らんだ顔の虎之介が元気に答える。
「虎之介くんは、私のクラスだからね」
奈留がにこやかに知らせると、
「担任の先生になるんですね! よろしくお願いします」
やたらとテンションが高い虎之介。
「さぁ、皆。出陣しましょう!」
万頭が体育教師らしく気合いを入れた。
ざわつく体育館内、若人の熱気が湯気だって居た。
ピー……ガガ。
マイクの音が響き、月乃江が一言。
「おはようございます」微弱な言霊の混じった挨拶をすると、生徒達は静まり挨拶が返って来た。
「この度、学園長が変わる事になりました。
月頭学園長の甥にあたる方です」
舞台の真ん中の机に向かい、マイクを通して自己紹介をする。
「市松 道彩。と言います。よろしくお願いします」
至って平凡な挨拶をする。月乃江がそのまま朝礼へと流した。
どうも人前は慣れない。
舞台の端に姿を潜める。
「ご苦労様でした」
隣りに立つ奈由良が苦笑と共に声をかけて来た。
無言で頷いて舞台下の生徒を盗み見る。
男女に別れて学年毎に並んで居た。二クラスの三学年の構成。
体育館はまだ余裕がある程に生徒数はそれ程多くはない。
『市松先生。何歳なの?』
不意に脳内に響く声。
女生徒の一人がこちらを見て笑っていた。
「皐月さん。ダメですよ」
一之瀬がやんわりとその生徒を注意する。
『判りました~』
小さく舌を出し、手を振って視線を離す。
テレパシー。はっきりと声を届けられるのか。
ふと目に留まる虎之介の姿。一年の最後尾に立っていた。
気付いたのかこちらを見てほほ笑んだ。
大丈夫そうだ。
月乃江の言葉を聞く生徒達は静かで、皐月と言う生徒以外は無言で朝礼は終わった。
人間の言霊。月乃江の言葉はさすが教師と言うべきか、能力が強い。
職員室に帰った時、一之瀬が教えてくれた。
「皐月さんは耳が聞こえないの。
でも周囲も両親さえそれに気付かなかった。
生まれながらの“テレパス”で、人の発する言葉を受信し、テレパシーでそれに答えていたから」
皐月 緑。 15歳。
虎之介と同じクラスだ。
「だからもちろん、月乃江先生の“言葉の力”は彼女には通じないの」
「言葉が届かないから通じない? 聞きたい事だけ聞く事が出来る。と言う事か」
「そうですね。だから自分を抑える事が苦手で、わがままな所があります。ちなみに私も少しその力が在るらしく、彼女が特定の一人に発した声を捉える事が出来るみたいです。その近くに居れば、ですけど」
「皐月の能力は、周りの声を皆拾い、自らの考えを周囲すべてに伝える事が出来る。耳が聞こえる聞こえないは、障害にもなっていないのですね」
一之瀬は頷いて、「素晴らしい事です」と、締めくくった。
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