鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
上 下
154 / 210
夢乱鬼

しおりを挟む
 
*道彩side*

貰った手紙から幼い少女が脳裏に浮かんだ。
そこから少女は鬼だと解って、先走ってその教育係だと思ってしまったが、教育は“学園”を現していた。
少女はこの地の護り主。そしてココロ痛めた母親。
護る立場の頂点に立つ女性。
だが、弱々しく守られて当たり前の子どもに見える。
確かに見姿はそうだが、実際は私よりもかなり年上。
何故か気になる。

彼女は女性。
だが、上に立つ者としての凛々しさと強さを持ち合わせていた。


「兄さん? 用意出来てる?」
虎之介の声に思考から現実に呼び戻される。

新品の制服を着て嬉しそうにこちらを見ている。

「ああ、おかしくは無いか?」
「似合ってるよぉ」

無難な黒のスーツ。

「でも、サングラスは掛けない方が良いと思うけど。自然のままで居れば良いんじゃない?」

角は隠せても、瞳の色は変える事が出来ない。

「そうだな」
ここで生きて行くなら自然でいよう。

トントン。と扉のノック音に返事をすると、月が顔を覗かせる。

「お支度は出来ましたでしょうか?」

二つ返事で立ち上がると、「こちらへ」促されて部屋を出る。
階段を上がり、華子の部屋の前を通ってその奥の黄色の扉を開ける。
そこは、学園へ続く通路になっていた。

「学園の地下になります」

屋敷は学園より下側に在り、二館を繋ぐなだらかな階段が学園の地下に在った。
屋敷に教師は下宿して居る、この通路が学園への通い道になって居ると分かった。
15分も登ると、入った時と同じ黄色の扉と青色の扉が現れ、月が黄色の扉を開ける。

「こちらが学園長室です。隣りの青の扉は直接職員室へ続くもの。この部屋の右側の扉が職員室へ繋がっております。」

古い形の金の鍵を手渡される。学園長室の鍵。
  
学園長室。左側には大きな窓があり、近付くと中庭が見えた。
そこから丸い屋根の体育館が見える。
その窓際に華子の部屋にあった物と同じ、黒い長机と座り心地良さそうな椅子が置いてあった。

「こちらへ」
月が職員室への扉を開ける。
入ると、白い机の並ぶ陽当たりの良い部屋。三ヶ所の机に花が生けてあった。
月頭兄弟の机なのだろう。

「道彩さん。おはようございます!」
奈留が勢い良く立ち上がる。
「皆さんおはようございます」

それぞれが立ち上がり会釈が返る。

「今日からよろしくお願いします。判らない事だらけですから、ご指導願います」
「はい。こちらこそ」
ゆっくりほほ笑んだ一之瀬が疑問をぶつけて来た。
「貴方も隠せるのですね?」
「角ならば。だが瞳は隠せない」
「気になさらないで良いと思います。ここの生徒は皆個性的ですから」
にこりと笑顔のまま、視線は虎之介へ。
「虎之介くんも、今日からよろしくね」
「よろしくお願いします!」
興奮と緊張で赤らんだ顔の虎之介が元気に答える。

「虎之介くんは、私のクラスだからね」
奈留がにこやかに知らせると、
「担任の先生になるんですね! よろしくお願いします」
やたらとテンションが高い虎之介。

「さぁ、皆。出陣しましょう!」
万頭が体育教師らしく気合いを入れた。



ざわつく体育館内、若人の熱気が湯気だって居た。

ピー……ガガ。
マイクの音が響き、月乃江が一言。
「おはようございます」微弱な言霊の混じった挨拶をすると、生徒達は静まり挨拶が返って来た。 
  
「この度、学園長が変わる事になりました。
月頭学園長の甥にあたる方です」

舞台の真ん中の机に向かい、マイクを通して自己紹介をする。

「市松 道彩。と言います。よろしくお願いします」
至って平凡な挨拶をする。月乃江がそのまま朝礼へと流した。

どうも人前は慣れない。

舞台の端に姿を潜める。
「ご苦労様でした」
隣りに立つ奈由良が苦笑と共に声をかけて来た。

無言で頷いて舞台下の生徒を盗み見る。
男女に別れて学年毎に並んで居た。二クラスの三学年の構成。
体育館はまだ余裕がある程に生徒数はそれ程多くはない。

『市松先生。何歳なの?』
不意に脳内に響く声。
女生徒の一人がこちらを見て笑っていた。

皐月さつきさん。ダメですよ」
一之瀬がやんわりとその生徒を注意する。

『判りました~』
小さく舌を出し、手を振って視線を離す。

テレパシー。はっきりと声を届けられるのか。

ふと目に留まる虎之介の姿。一年の最後尾に立っていた。
気付いたのかこちらを見てほほ笑んだ。
大丈夫そうだ。

月乃江の言葉を聞く生徒達は静かで、皐月と言う生徒以外は無言で朝礼は終わった。

人間の言霊。月乃江の言葉はさすが教師と言うべきか、能力が強い。

職員室に帰った時、一之瀬が教えてくれた。

「皐月さんは耳が聞こえないの。
でも周囲も両親さえそれに気付かなかった。
生まれながらの“テレパス”で、人の発する言葉を受信し、テレパシーでそれに答えていたから」

皐月 緑さつき みどり。 15歳。
虎之介と同じクラスだ。

「だからもちろん、月乃江先生の“言葉の力”は彼女には通じないの」
「言葉が届かないから通じない? 聞きたい事だけ聞く事が出来る。と言う事か」
「そうですね。だから自分を抑える事が苦手で、わがままな所があります。ちなみに私も少しその力が在るらしく、彼女が特定の一人に発した声を捉える事が出来るみたいです。その近くに居れば、ですけど」
「皐月の能力は、周りの声を皆拾い、自らの考えを周囲すべてに伝える事が出来る。耳が聞こえる聞こえないは、障害にもなっていないのですね」

一之瀬は頷いて、「素晴らしい事です」と、締めくくった。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白鬼

藤田 秋
キャラ文芸
 ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。  普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?  田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!  草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。  少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。  二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。  コメディとシリアスの温度差にご注意を。  他サイト様でも掲載中です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

戦国姫 (せんごくき)

メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈ 不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。 虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。 鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。 虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。 旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。 天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!

新説 桃太郎

本来タケル
大衆娯楽
山奥でお爺さんお婆さんに拾われた桃太郎。10年近く鬼退治の決意を胸に秘め、とうとう桃太郎は鬼退治へ旅立つ。人族とサル族と犬族とキジ族の仲間を連れて。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

HEAD.HUNTER

佐々木鴻
ファンタジー
 科学と魔導と超常能力が混在する世界。巨大な結界に覆われた都市〝ドラゴンズ・ヘッド〟――通称〝結界都市〟。  其処で生きる〝ハンター〟の物語。  残酷な描写やグロいと思われる表現が多々ある様です(私はそうは思わないけど)。 ※英文は訳さなくても問題ありません。むしろ訳さないで下さい。  大したことは言っていません。然も間違っている可能性大です。。。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...