鬼に成る者

なぁ恋

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羅刹鬼

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*元気side*

石段を降りきると、長く続く石の通路。
霧が足下を見えにくくしていたが、冷たい風が一陣吹き抜け霧が拡散する。

腕に居る空羅寿が指を鳴らすと、壁の松明に揺らぐ炎が手前から奥へ順に点いた。

「姫はこの奥に」

綺麗な声が震えていて、守ってやりたい衝動に駆られる。
そう思った女性は、樹利亜以来だ。
空羅寿の重みが腕に心地好く。高鳴る胸を抑えながら早足で駆ける。





「「ぁぁぁあ゛ああ゛ぁああぁ―――!!」」


絶叫と共に霊気を含んだ冷たい風が肌を撫でて行く。
その声は、ココロが張り裂けんばかりの悲痛に満ちていた。


「……この声。辛過ぎる」

空羅寿が顔を俺の肩にうずめる。
抱いた腕に力を込めて、
「助けよう」空羅寿の為に。



どれだけ進んだのか。通路の先に空間が現れて、そこに木霊する悲鳴。

「姫!」

空羅寿が腕をすり抜けて羅刹姫に駆け寄る。

羅刹姫。
その姿は半人半蛇。艶やかな長い黒髪を床まで垂らし、長く太い下半身がとぐろを巻いていた。

そこに足をかけ登る空羅寿が、視線を合わせると大きく呼んだ。

「羅刹姫!」
「「―――空……羅・寿?」」

たちまち落ち着いたのか静かに溜め息を吐く。
表情の無い顔。赤い眼が異様に光っていた。


「「どこに居たのじゃ」」

どこか拗ねた様な訊き方。

「姫。すみませぬ……助けを呼びましたか?」
「「腹が痛んだのじゃ……」」
「陣痛が始まったのかしら?」

言いながら膨らんだ腹部を空羅寿が擦ると、赤い眼が安心した様に長い睫毛に伏せられて、

「「そうかもしれぬ……」」

こちら側に首を回し、刺す様な視線が向けられる。

「「そこに居るは誰ぞ?」」

赤き眼に憎悪を見た気がした。
実際には視えたのかもしれない。
 
 
  
赤い眼が一回り大きく見開き俺を凝視する。
「くっ……」蛇に睨まれた蛙の如く、身動き出来ない。


「姫! 彼は私の婿です」


空羅寿の言葉に羅刹が瞬きをする。だが、身体の自由は奪われたまま。


「「婿とな?」」

「そうです」


空羅寿は羅刹の視線を正面から受けてはっきりと言った。


「「だから。この島に何者かが侵入した……そこな者と一緒に?」」

「彼は能力者。姫と同族で鬼なのだそうです」

「「鬼?」」


俺を見る羅刹の眼は興味深く細められ、蛇の体躯をくねらせ近付いて来た。
伸びて来た指先が頬に触れる。冷たい指。


「「鬼?」」

俺の身体に巻き付いて来る長い蛇体。骨が軋む。冷たい霊気が頬を掠め表情の無い顔が近付く。

「「鬼……どうやってここまで来た?」」

「……能力で」

「「仲間は何人じゃ?」」

「関係ない―――イッ!!」

身体を締め付けられて息が苦しくなる。

「やめて!!」

空羅寿が蛇体にすがり頼む。
冷たい息が耳にかかり、冷淡に言い放つ。

「「ダメじゃ。そなたは、この男にココロ奪われている」」

「姫! その様な気持ちはありませぬ!」

「「男は、醜く酷く心根が腐っておる!」」

さらに締め付けは強くなり、骨の軋む音が自分の耳に直接響いた。
身体の自由を奪われて、動く事も叶わず声も出せない……


「お願いです……姫――…お願い」

空羅寿が泣いている。
そこから伝わるのは、温かいココロ。
悲しませたくない。


「「空羅寿。泣くな」」

締め付けが緩み、それでも離す気配はない。

羅刹の想いはとても複雑で、確かなのは空羅寿を想う気持ち。
愛しさが、触れる肌から伝わって来るから、
“助ける”と空羅寿に約束した。

どうすれば、約束を果たせる?
 
*** 
  
*ライside*

目の前にある人を寄せ付けない雰囲気を醸し出して居る立派な鉄門。
ここをくぐれば城内に入れる。
辺りに立ち込める朝霧が視界を遮り感覚を鈍らせる。


霧が邪魔だ。
口をついて出た一言。

「去れ」

背後から一陣の風が吹いて来て、霧を連れ去った。

「ライ! 貴方、風も起こせるの?」

目を丸くして樹利亜が訊く。
無意識に言霊を使っていた。

「言霊は生きとし生けるモノに有効だ。風も然り」

雨を止める事の出来たまほろばの言葉に納得する。



「元気の気配がする」

難しい顔をした樹利亜がそわそわと身体を揺らす。

「何か危険を感じる。行かないと! 龍太郎!」
「おうよ!」

呼ばれた龍太郎さんが手を組んで中腰になると、樹利亜が勢い良く駆けてその手を使い宙を飛ぶ、長い黒髪が渦を巻いて門の中へ消える。

ギィ と錆びた鉄の音を鳴らし、門が開く。

「ねぇ! 胸騒ぎがするの。早く行きましょう!」

元気と繋がりを持っている樹利亜の言葉には真実味がある。
先頭に立ち走る彼女の後に続き急く様に城内に入る。


漂う霊気。
ここは、哀しみを宿した城。

感じる霊魂の気配は、さっき“器”を無くした者達すべてと、それと同等の、幾千幾万の獣のそれ。
根深い、暗いその霊魂の塊が、この島を活動させている。


はやる気持ちとは別に、冷静に判断する自分が“根源”を感じ取る。


獣。
沢山の怨念。 

それが、悪。


 
 
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