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羅刹鬼
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しおりを挟む「何だライ? 溜め息を吐いて」
まほろばの言葉にさらに深く溜め息が出た。
「ボクに出来る事って何だろう?」
最近本気で悩んで居た。
まほろばは自然を操れて、特に水関係。
元気と樹利亜は千里眼。
樹利亜は髪を操れる。
龍太郎さんは雷様。
ボクは、角を手に入れた。
けれど、だから能力が有るかと訊かれたら。
それと言ったものは無く。
「えと。料理が旨い!」
元気が気を使って言ってくれたのは分かる。
けど、余計落ち込んだ。
ご飯を作ってだんな様を待って居る主婦のイメージ。
「……ぷ」
何?
まほろばが笑っていた。
「それも悪くはない」
彼から流れ来る脳裏に浮かぶ、妖しい想像。
「まほろば!」
熱くなる頬。
あれ以来、まほろばは遠慮無い。
それはそれで、幸せなのか、流されているだけなのか。
こちらも悩みの種で。
「ダメよ。まほろば。可愛いからっていじめちゃあ」
樹利亜の言い方も何か引っ掛かる。
「ひねくれるなよ」
元気……
「まぁ、この島の朱色の鬼を退治するのは人数居る方が良いしな」
龍太郎さん。
尚落ち込んで、深い深い溜め息が零れた。
守られてばかりじゃダメなんだよ。
「仲が宜しいのは良い事ですが」
苦笑した親父さんが、
「場所はお分かりでしょうか?」
幻の様な島。
「大体は。でも、おかしいんだ。移動してる感じがする」
「移動して、こちらに近付いて来たから感知したって所ね」
元気と樹利亜の答えで頷ける。
「どうやってそこまで行く?」
龍太郎さんが難しい顔をした。
「それとも、奴等が地上へ上陸すると言う事か?」
まほろばの問いに樹利亜が首を振る。
「島からは絶対に出ない。男を誘い込むだけ」
扉の開く音と、陽気な声が重なって聞こえて来た。
「男を誘い込む? とても魅力的な話ね」
大輝さんを伴って桃井さんがにこやかに現われた。
「虎之介なら、行けるかもしれない」
龍太郎さんが兄、桃井さんを見ると、
「何の話か判らないけど、どこへでも行きたい所へ連れて行くわよ?」
「危ないかもしれない」
桃井さんは笑って、
「鬼退治に行くのね?」
「連れて行くだけで良い」
まほろばが真剣な顔で言うと、
「鬼を狩る者の血を汲む者の使命として、この能力を使わない訳にはいかない」
返って来た力強い言葉に頷いた龍太郎さんが、
「俺とならどんなに遠くても行ける」
兄弟は目線を合わせほほ笑んだ。
「俺は虎之介の傍に。必ず守る」
大輝さんが桃井さんの肩を優しく掴んだ。
***
羅刹島
*空羅寿side*
島が揺れる。
また流れ出した時間。
姫が、目を覚ましたから……また始まる。
それは、苦痛を伴う“生”の時間。
「「空羅寿腹の子が動き始めた」」
長いまつげに彩られた赤い眼が喜びに細まる。
長い黒髪がゆったりと横座る身体に絡んで足先まであった。
厚い綺麗な色とりどりの花柄の着物を着て、緩く結ばれた赤い帯の下、膨らんだ腹が、蠢く。
「「はあぁぁあ……この子は、次の赤い月の晩、生まれる」」
その美しき白い面は、まるで能面の様に表情は無く、
「「のぉ? 空羅寿。次はそなたが婿を娶る番だ」」
姫、私は嫌です。
鬼には、成りたくないのです。
来てはなりませぬ。
おのこは
この島には、入ってはなりませぬ。
「「空羅寿。こちらへ……」」
姫が呼ぶ。
私はそれに従うしかなく、しゃなり と、鈴を鳴らして歩み寄る。
首元に繋がれた三玉の鈴。
綺麗なその音は、私を捕えて離さない。
過去。
現在。
未来。
そのすべてを、姫は放さない。
長い爪が揺れて招き、私の顎を捕える。
そして、眼と同じ赤い唇が私のそれへ重ねられる。
鉄の、血の味。
姫は、喰う。
男を喰べるから……
私は吐き気を堪えながら、姫に応える。
「「空羅寿。可愛い私の養い子」」
私は姫に拾われ生き延びた。
それは、地獄の始まり。
ここは、生地獄。
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