鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
上 下
104 / 210
羅刹鬼

しおりを挟む
 
「何だライ? 溜め息を吐いて」

まほろばの言葉にさらに深く溜め息が出た。

「ボクに出来る事って何だろう?」

最近本気で悩んで居た。

まほろばは自然を操れて、特に水関係。

元気と樹利亜は千里眼。
樹利亜は髪を操れる。

龍太郎さんは雷様。

ボクは、角を手に入れた。
けれど、だから能力が有るかと訊かれたら。

それと言ったものは無く。


「えと。料理が旨い!」

元気が気を使って言ってくれたのは分かる。
けど、余計落ち込んだ。

ご飯を作ってだんな様を待って居る主婦のイメージ。

「……ぷ」

何?
まほろばが笑っていた。

「それも悪くはない」

彼から流れ来る脳裏に浮かぶ、妖しい想像。

「まほろば!」

熱くなる頬。
あれ以来、まほろばは遠慮無い。

それはそれで、幸せなのか、流されているだけなのか。
こちらも悩みの種で。

「ダメよ。まほろば。可愛いからっていじめちゃあ」

樹利亜の言い方も何か引っ掛かる。

「ひねくれるなよ」

元気……

「まぁ、この島の朱色の鬼を退治するのは人数居る方が良いしな」

龍太郎さん。

尚落ち込んで、深い深い溜め息が零れた。
 
 
守られてばかりじゃダメなんだよ。
 
 
  
「仲が宜しいのは良い事ですが」
苦笑した親父さんが、
「場所はお分かりでしょうか?」

幻の様な島。

「大体は。でも、おかしいんだ。移動してる感じがする」
「移動して、こちらに近付いて来たから感知したって所ね」

元気と樹利亜の答えで頷ける。

「どうやってそこまで行く?」
龍太郎さんが難しい顔をした。

「それとも、奴等が地上へ上陸すると言う事か?」

まほろばの問いに樹利亜が首を振る。

「島からは絶対に出ない。男を誘い込むだけ」


扉の開く音と、陽気な声が重なって聞こえて来た。
「男を誘い込む? とても魅力的な話ね」

大輝さんを伴って桃井さんがにこやかに現われた。

「虎之介なら、行けるかもしれない」

龍太郎さんが兄、桃井さんを見ると、

「何の話か判らないけど、どこへでも行きたい所へ連れて行くわよ?」

「危ないかもしれない」

桃井さんは笑って、

「鬼退治に行くのね?」

「連れて行くだけで良い」
まほろばが真剣な顔で言うと、

「鬼を狩る者の血を汲む者の使命として、この能力を使わない訳にはいかない」

返って来た力強い言葉に頷いた龍太郎さんが、

「俺とならどんなに遠くても行ける」

兄弟は目線を合わせほほ笑んだ。

「俺は虎之介の傍に。必ず守る」
大輝さんが桃井さんの肩を優しく掴んだ。


 
***

羅刹島
 
  
*空羅寿side* 


島が揺れる。

また流れ出した時間。

姫が、目を覚ましたから……また始まる。

それは、苦痛を伴う“生”の時間。



「「空羅寿そりす腹の子が動き始めた」」



長いまつげに彩られた赤い眼が喜びに細まる。

長い黒髪がゆったりと横座る身体に絡んで足先まであった。

厚い綺麗な色とりどりの花柄の着物を着て、緩く結ばれた赤い帯の下、膨らんだ腹が、蠢く。



「「はあぁぁあ……この子は、次の赤い月の晩、生まれる」」



その美しき白い面は、まるで能面の様に表情は無く、



「「のぉ? 空羅寿。次はそなたが婿を娶る番だ」」



姫、私は嫌です。
鬼には、成りたくないのです。

来てはなりませぬ。


この島には、入ってはなりませぬ。



「「空羅寿。こちらへ……」」



姫が呼ぶ。

私はそれに従うしかなく、しゃなり と、鈴を鳴らして歩み寄る。

首元に繋がれた三玉みたまの鈴。

綺麗なその音は、私を捕えて離さない。

過去。
現在。
未来。

そのすべてを、姫は放さない。


長い爪が揺れて招き、私の顎を捕える。

そして、眼と同じ赤い唇が私のそれへ重ねられる。


鉄の、血の味。
姫は、喰う。

男を喰べるから……


私は吐き気を堪えながら、姫に応える。



「「空羅寿。可愛い私の養い子」」



私は姫に拾われ生き延びた。

それは、地獄の始まり。




ここは、生地獄。
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

ホントの気持ち

神娘
BL
父親から虐待を受けている夕紀 空、 そこに現れる大人たち、今まで誰にも「助けて」が言えなかった空は心を開くことができるのか、空の心の変化とともにお届けする恋愛ストーリー。 夕紀 空(ゆうき そら) 年齢:13歳(中2) 身長:154cm 好きな言葉:ありがとう 嫌いな言葉:お前なんて…いいのに 幼少期から父親から虐待を受けている。 神山 蒼介(かみやま そうすけ) 年齢:24歳 身長:176cm 職業:塾の講師(数学担当) 好きな言葉:努力は報われる 嫌いな言葉:諦め 城崎(きのさき)先生 年齢:25歳 身長:181cm 職業:中学の体育教師 名取 陽平(なとり ようへい) 年齢:26歳 身長:177cm 職業:医者 夕紀空の叔父 細谷 駿(ほそたに しゅん) 年齢:13歳(中2) 身長:162cm 空とは小学校からの友達 山名氏 颯(やまなし かける) 年齢:24歳 身長:178cm 職業:塾の講師 (国語担当)

処理中です...