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花鬼
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しおりを挟むまほろば。
私は貴方の血の流れの中で、静かに眠る。
再会する事を、夢に見ながら……
………………………
***
溢れる涙。
幸せに流れる涙。
そう、幸せなんだ。
二人を見ていて、苦しくなったココロ。
切なくなったココロ。
そうか。
俺は、寿。
まほろばの子どもを生んだ女性。
俺は俺の始まりの女性の、生まれ変わり。
そうか。
「寿。ありがとう。
元気を寄越してくれて」
聞きたかった声が響く。
呼んで欲しかった。
寿。と……
まほろば。
「近くに居ても?」
眼を開けると、目の前にまほろばが。
「ずっと一緒に居ると良い」
言って、重ねられる額。金色の両眼が一つに見え、夢の様に光りが広がる。
溢れる涙は止まらず、震えるココロは、そのままに、
満足の溜め息を吐く。
そうか。
樹利亜は、春。
前世から、大事で愛しい人。
この気持ちは、言葉に表せない。
俺達の魂の軌跡は、奇跡を起こしたんだ。
ねぇ? 春。
そうだろう? 樹利亜。
まほろばは、俺達を繋げる軸。
*ライside*
まほろばと元気の姿はとても穏やかで、ボクも安心する事が出来た。
部屋の外でこっそりと覗いて居たけれど、そっと歩き出す。
この家はとても静かで広い。
何日も滞在して居るのにすべてを見れた訳じゃなく。
まぁ、それどころでなかったってのもあるけど。
? 唸る様な声が聞こえる。
声の方へ行くと、二枚戸の襖がある部屋の前に着いた。
「うぅ……」
この部屋から聞こえる。
「大丈夫ですか?」
声をかけるも返事はなく。
「開けますよ」
そこに居たのは、市松の親父さん。
布団に寝たまま苦しそうに唸って居る。
「……ライくんか?」
起き上がろうとして居るのを手で制止、
「楽な姿勢で」
「すまない。では、このままで」
気になって、彼の側に座る。
「苦しいなら、まほろばに診て貰いましょう」
それに首を振り、
「治る事は無い。このまま逝くが定め」
固い決心の元、言って居る。
「私が選んだ事です」
小さく咳をする。
「もうしばらくは大丈夫そうですがね」
「辛くないですか?」
何気なく訊いて、しまったと思った。
「貴方は正直ですな」
口端だけで笑みを作った親父さんが手を出す。思わず手を取ると、
「頼みがあります」
真剣な顔で言われる。
「何なりとおっしゃって下さい」
取った手に力が入る。
「見守ってやって下さい。二人を」
それは親心。
「えぇ、必ず。傍で見て居ます」
握られた手を両手でそっと包み込む。
「お願い致します」
小さく言って目を閉じた。
長くを生きた鬼の子孫。
それは人に紛れ、人と共に生きて来た。
彼らを助け、日陰者として、これは彼らの宿命。
そうして生きて行く。
今からも、
これからも、それがかせられた天命。
握られた手をそっと布団に戻す。
静かな寝息。
もうしばらくは共に居ましょう。
そう“約束”をして、その部屋を後にする。
*龍太郎side*
流されてはいけない。
触れる唇の柔らかさ、甘い吐息に、喉が鳴る。
理性を総動員させ、樹利亜の肩を掴み放す。
「……龍太郎?」
とろんとした眼。
「樹利亜。お前は素晴らしい女性だ」
震える躰を制して、出来るだけ優しくほほ笑む。
「……我慢するの?」
知った風な妖しい目付き。
「私は前世男だった」
それは小悪魔な微笑。
「―――そう……か? だから解ると?」
何故か競争心を駆り立てられる。
「少なくとも、仕組みは解ってる」
余裕の笑み。
そんな事!―――
「“想像”と“現実”は違うぞ」
俺の中の獣が頭を覗かす。
欲望に火が点く。
「どうかしら?」
何て!
長い前髪から覗く挑戦的な黄金の瞳。
これは。
我慢出来る筈がない!
重なる唇。
巻き付いて来る柔らかい腕。
そのままベッドに押し倒し、深く口付ける。
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