鬼に成る者

なぁ恋

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花鬼

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何があったんだろ?

「このサイズで合うか?」

声の主は龍太郎で、ズボンを渡された。
履いてみると、少し丈が短かった。

「タッパは同じくらいなのにムカつくな」

言葉とは裏腹ににこやかな笑顔。

「助かりました」

シャツも渡される。
少し触れた指先に……また跳ねる心音。

「樹利亜?」

何だ?
樹利亜の存在がえらくリアルに感じられる。

「元気。訊きたかったんだ。樹利亜は君と入れ替わりに消えた」

「あぁ、樹利亜は俺と共存しているから」

「彼女は、君の何だ?」
真剣な眼差し。

「姉だよ」

「そうか……」

龍太郎の一言一句を、樹利亜が聞いて居る。

違和感。
今までに無かった違和感を感じる。

『樹利亜。龍太郎が気になってる?』

樹利亜に語る。

『……知らない』

すねた様な言い方。


「俺は何があったか知らない。これまでの経緯を教えて欲しいんだけど?」

何日経ってる?
多分今までで一番長く眠ってた。

「樹利亜と入れ替わってからの時間なら、4日程」

ライが答える。

何があって代わった?

「俺が危険だったから樹利亜が助けてくれたんだ」

まほろばの言葉に首を傾げる。

「危険?」

「ライを喰べそうになってた」

ショッキングな答え。

その前が、
……虎之介の情事。

思い出して頬が熱くなる。

「虎之介!」

虎之介の名を呼んだライの顔色が変わる。

「さっきからココロ読んでる。俺にはダメって言ったくせに」

「それどころじゃないんだよ! 彼は大丈夫?」

ライに軽くあしらわれた。
けど、何だ?
何があった?

  
*ライside* 


自分が幸せで虎之介……桃井さんの事忘れてた。

「実はあれから眠ったままなんだ」

龍太郎の顔が曇る。

「ただ、眠って居るだけにしては……少々長い。大輝が傍に居る」

「まほろば!」

「行こう」
頷くまほろばが龍太郎を見る。

「何だ?」

怪訝な顔の龍太郎をせかす様に部屋を出る。


ここはやたらと部屋が多い。古い日本屋敷。

玄関横の部屋の扉を叩く。

「はい」

大輝の声。

入ると、ベッドの上に静かに横たわる桃井さん。驚く程白い顔をしている。


「まほろば。ライ……」

大輝は桃井さんの手を握って暗い顔をしている。

「大丈夫。まほろばが診てくれる」

静かに側に行くと、大輝の肩を一度軽く握り、虎之介の横に膝を立て座る。

「虎之介」

手を胸に当て、眼を瞑る。

「……大丈夫だ」

探る様に手の平を上へ移動させ、両手で頭を撫でる。

「……ん……ふぅ」

小さな喘ぎ声。

「あっ! いや。ヤダッ!!」

悲鳴と共に目覚めた虎之介。

「虎之介! 俺だ。大輝だ!」

虎之介を覆う様に抱きしめる大輝があやす様に何度も彼の名を呼ぶ。

「―――大輝?」

震えているが、落ち着きを取り戻した虎之介が大輝に視線を寄せる。
そして、柔らかい笑みを浮かべた。

「奴の残した鬼気をまとって居た。残り香みたいなものだ。落としたからもう大丈夫だ」

まほろばの言葉にホッとする。
 
 
  
「大輝。母さんは?」

躊躇いがちに尋ねる桃井さん。身体が小さく震えて居た。

「消えたよ」

大輝の静かな物言いに安心した様に溜め息を吐くと、ゆっくりとこちらを見る。

「礼くん。? 龍太郎? あんた達。角?」

「虎之介。俺達は鬼を狩る者の子孫だそうだ。俺は先祖の血を濃く受け継いで居たらしい。親父も角を持ってる」

詳しくはまた父親の所に行ってから話すと、虎之介の手を取る。
助けて貰い立ち上がると、大輝がお姫様抱っこをする。
大事にされているのが傍から見ていても良く分かる。

「あら、元気くんも。まほろばくんも……まほろばくん。何だか雰囲気が変わった?」

訊かれたまほろばが柔らかい笑みを浮かべる。

「あら?」

ボクを見て、

「おめでとう」

優しく言われた。
言われて一瞬固まって熱くなる頬。

「桃井さんっ!」

「まほろばくんはどこか別世界を生きてる感じがあったのよね。それが今、地に足が着いたって言うのかな? 雰囲気が柔らかくなって、やっと居場所を見つけたみたいな感じ」
フフフ とほほ笑んで、
「良い事よ」

向けられた言葉にジン と来た。

「龍太郎。あんたも何だか違うわね。姿はもちろんだけど……何かあったみたいね」

見透かす様な桃井さんの言葉に静かに笑みを浮かべた龍太郎。

「まだ、始まったばかりだ」

その言葉に満面の笑みで桃井さんが頷いた。
 
 
 
 
 
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