鬼に成る者

なぁ恋

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鬼罪

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「助けてくれ」

片角の鬼が、陽介が苦痛に顔を歪める。

「虎之介を、助けてくれ!」

角の有る側の眼から涙が溢れる。
反対の眼は笑みを作り

「「虎之介は、元々私の中に居た。私が生んだ。私が私がワタシが―――」」


左手に居る虎之介を軽々と上に掲げる。



「「この躰は私のもの」」


言わんとする事が分かった。
魂は、身体を欲している。自由を欲している。





「何だっ?!」

低い声。
声の主は大柄な男性。

「親父? 虎之介?」 
廊下の端に立つ男は彼らの名を呼ぶ。

「何なんだ? お前らは??」
言い、こちらを見遣る。


「「龍太郎」」

世衣子が彼を呼ぶ。

「! 母さん?」

信じられないと眼を開く。
陽介に重なる様に現われた影。
女性の姿が見て取れる。

「「龍太郎。大きくなって……貴方は陽介にそっくりね」」

まるで粘っこい糊みたいな膜が陽介から出て世衣子の姿を繋ぎ、それが完全に陽介から剥れ出る。

力無い虎之介は、彼女が掴んでいた。

陽介が膝を付きくずおれる。

「オヤジッ!」

駆け寄る龍太郎が腕に抱き取り、前に立つ世衣子を信じられない面持ちで見上げる。


「龍太郎。虎之介を助けてやってくれ」

陽介のつぶやきに、思う事があるのか、難しい顔をして頷いている。




「貴女は、自分の息子の躰を盗るつもり?」

樹利亜が口を開く。
冷静で、冷たい声色。
 
黄金色に光る眼が怒りに燃えていた。 
 
 
 
 
  
*樹利亜side*

暗い闇に居た。
母と二人。

囚われて、辛くて、どうにかなりそうで……




母は常に私の片側に居た。



「貴女は息子の躰を盗るの?」

ふつふつと沸き上がる怒り。

「「盗る? 返して貰うだけ」」

朱色の鬼。
人で在った者。

鬼に成ると、人のココロは無くなる。

「「貴女はだぁれ?」」

角の無い鬼。
朱色の鬼。

私も角の無い鬼。でも、ココロは持ってる。

「鬼。鬼に成る為に鬼を狩る。私は樹利亜」


世衣子が母と重なって、許せない気持ちが大きくなる。


「「樹利亜。貴女は綺麗ねぇ。私だって躰があれば、貴女には負けない」」

世衣子の半透明な姿。掴んだ手から虎之介を包む様に移動する。


「ダメだ!」

陽介の叫び。

でも、下手に動けない。こちらに来た時すでに、掴んだ手から虎之介へ移動する途中だった。
彼の魂は、もう掴まっていた。

だから、まほろばも動かずに居て、怒りの鬼気が燃ゆる赤い髪からチリチリ と電気の筋みたいに光っている。

隣りに居るライは、虎之介を案じて細部を理解していない。
だから、飛び出してしまった。

「ダメっ!」

私の声より先にライを抱き止めるまほろば。

「まだだ。今はどうにも出来ない」

ライの耳元でささやいてそのまま横に抱き寄せる。

「今無理に引き剥がせば、虎之介の魂が壊れる」

朱色の鬼を見据えたまま、まほろばが言う。

「また。霊魂の朱色の鬼」
ライが震える。

「そうよ。虎之介を助けたければ、倒すだけではダメ」

魂が破壊されると、生きた躰が残るだけ。
死んでしまったのと同じ事。 
  
*龍太郎side* 


何を言っている?
理解出来ない。

「龍太郎」
親父を見るとその額に、角?

「龍太郎。虎之介は?」

訊かれそこに見たのは、虎之介に母。




頭の中で、何かが弾けた。




虎之介が帰ってからの母は、有り得ない程回復した。


俺は気付いたんだ。


      
母が虎之介のをとっていた。


そう感じた。
気のせいだと黙殺していた。

解って居たのに。
解って居たのに。
 
解って居たのに。



握られた手の平に意識を戻すと、親父が

「龍太郎すまない。私が、目眩ましをかけた」

小さく息を呑み、身体を起こす。

「世衣子を思い留めようとしていた。だが、無駄だった。生に固執した鬼の血を継ぐ者は、悪鬼に成り果てた。だから、この手で殺した。殺したが。手放せなかった」

何を言ってる?
理解出来ない。

「愛していたから―――手放せず、内に、私の体内に封じた。
一緒に死ぬ為に」

どうすれば良い?
どうすれば?

「世衣子を、私に戻せ」

親父の眼に何かを見た気がした。
右手が俺の額を軽く触れる。


高い金属の音が直接脳内を駆け巡る。


「封印を解く」


目がくらむ。
親父の声だけが響いて。


脳内が、燃える!
 
 
 
 
 
 
 
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