鬼に成る者

なぁ恋

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虎之介奇譚

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*大輝side*

浮かれてる虎之介。
可愛いな。

たこ焼きを持って彼の所へ……

「うわ! マジだ。手ぇ繋いでたし。キモイ」

耳に入る声。
チラ見すると、同級生の一人。数人が固まって居た。

「何でこんなトコ居んのかな」
「仕方ね。天狗はここの跡取りやし」
「跡取りって、無理じゃね? ホモカップルが跡継ぐんかよ」


嫌でも耳に入る。
虎之介に聞かれない様にしないと
堂々とし過ぎたかな……


「虎之介!」
「ありがとう」

今日はいつにも増して笑ってる虎之介。

「境内の裏に行こうか?」
「良いけど?」

何の疑いも無く、歩いて移動する。

「僕ね、10年振りくらいなんだ。お祭り来るの」
「そうなんだ?」

左右に沢山の出店。
人の波を縫って進む。

さっきの言葉。意外に平気だった自分が居て、不思議だ。
だから自然とまた手を繋いで歩いてた。

母さんの言葉が、俺達の味方と言ってくれた言葉が、結構な心の支えになってるみたいだ。

でも、虎之介は、本当に周りが見えてないんだろう。
それとも気付かない様にして居るのかもしれない。

握る手に力を込めると、返る手。

顔を見合わせて、笑った。

境内裏は、山沿いになっていて、深森に続く小さな入口が見える。
この山の深い場所に、離れの部屋があるんだ。
 
  
大きな岩が二つ並んでる所に腰を下ろす。

「ね? お月様真ん丸だよ」

空を仰ぎ見た虎之介が串に刺したたこ焼きを月と重ねて見てる。

それを横目に自分のたこ焼きを口に放る。

「アツ……」

出来たてのそれは、舌を焼く程に熱くて、涙目になった。

「大丈夫?」
言いながら、重ねられた唇。冷たい水が口内に溢れる。

深森の湖の冷水。

そのまま飲み込んで、深くなる口付け。

「わっ!」

声に驚いてそちらを見ると、同級生の日下と水戸。

「………お前ら。噂通りなんか!?」

とろん とした目を二人に向ける虎之介。

「……何?」
ゆるりと笑みを浮かべる。

その顔に赤らみながら日下が、声も高く言い放つ。
「天狗に魅入られたってホンマか? 転校生。正気か??」

日下と水戸。
最近付き合い始めたと聞いて居た。

「転校生? 未だに名前さえ覚えてないの?」

二人を見る細められた瞳が、冷たく光る。

“転校生”いつまでも馴染めないで居た俺の呼び方だ。日下に限らず、皆がそう呼ぶ。

「何だよ? 天狗のくせに。今頃言うのかよ? そいつはお前としか話さんから、転校生のままで良いんじゃ」

売り言葉に買い言葉。
良い事なんて起こる筈もなく、
水戸も赤らむ頬を押さえながら、
「男性同士でキスとか、変だと思うよ!」

否定する言葉。

「好きになるのに性別は関係ない! 僕は相楽 大輝って存在が大切で、大好きになったんだから!」

ムキに言い返す虎之介。
その言葉に感動すると共に、違和感も感じる。
虎之介にとって、性別は在って無いもの?

「関係あるさ! 男女間だったら子どもだって出来る。同性だったらナンも生まれん!」

日下の言葉は真実だ。

「何言ってんのさ。あんた達だって、この場所でキスでもしようと思ってたんでしょう!」

耳まで赤らめた水戸が強く言い返す。

「良いじゃない! 私達は恋人同士なんだから!」

「僕らもそうさ!!」
虎之介の告白にその場が凍り付く。
 
 
黙って見ていた。

傍観し改めて思う。男女の恋愛でも難しい。なのに、同性。
理解して貰おう何て中々出来るもんじゃない。
更に、虎之介の村人との間に在る“壁”が複雑で、小さい頃からあの能力を間近で見ていたなら、最初の俺みたく、恐怖しか感じないだろう。
虎之介のココロに触れられた俺はまれで“想われた”のも俺だけで……


小さく溜め息。
興奮し、小刻みに揺れる虎之介の肩を抱き、ぽんぽんと二回叩く。

「“噂”は知ってるし、本当だよ。
“天狗に魅入られた”ではなく、虎之介に惹かれて、同性だと承知の上で好きになった」

日下が口を開く。

「天狗が、怖くないんか??」

水戸が訊く。

「二人だけじゃなく、周りが不幸よ。両親だって何て言うか……」

「そう言った諸々の事も考えた。それでも好きな気持ちって止まらないんじゃないか? お前らだって好き同士で一緒に居るんだろ?」

虎之介がこちらを見る。

日下と水戸が顔を見合わせる。

「それに“天狗”の能力は“瞬間移動”って超能力だ。
人ならざる者ではなく、超能力を使える、俺らと同じ人間だ」

遠くから笛や太鼓の音が聴こえる。
戻って来たと言うべきか?

沈黙の中、動いたのは虎之介。
    
「大輝。
 
 
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