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虎之介奇譚
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しおりを挟む「更生……ねぇ?」
最後の一人が藤を連れて出た。
全員が帰った後、三人が居るには広過ぎる部屋。
「虎之介、本当にどうなってる?」
言いながら頬に触れられる。龍太郎と視線を合わせて“飛ぶ”大輝の後ろに。
「僕に触れて良いのは大輝だけ」
例え兄弟で在っても、男性はダメ。
「! 瞬間移動?? ハジキくらいは兎も角、もうほとんど能力は消えたんじゃなかったのか?」
驚くのは当たり前ね。
「うん。髪も本物。若返ったの文字通り」
「……解らん!」
頭を振る龍太郎。
「俺も驚いた。目覚めたら“天狗”が居るんだから」
「天狗? 天狗か。懐かしいなぁ」
二人共遠い目して
「パワフル天狗が帰って来たんだから、お目付け役が必要でしょ?」
可愛く首を傾げてみる。
絶句する二人。
「確かに、天狗だ」
「隠れ蓑を脱いだらしい」
苦笑する二人は解った様に顔を見合わせる。
何だか面白くないわね。
「そうだな。大輝、お前しか天狗は抑えられん。正直、羨ましいんだが」
「それじゃあ?」
「取りあえず、御役御免だな」
厳つい顔が笑うのは本当にセクシーよね。
嬉しくて龍太郎に抱き付く。
「おいおい、触れちゃダメなんだろう?」
「あたしが触るのは良いのよ」
大輝が小さく笑い声を立てる。
………………………
***
「あは……アハハハー!!」
あぁ面白かった。
自分の部屋に戻って久々にココロから笑ってお腹痛くなっちゃった。
あの顔!
「ぷっ! あは、あはははははは」
気絶までしちゃってさ!
「虎之介? 帰っとるんか?」
襖越しにじぃちゃんの声。
「ただいま! じぃちゃん」
襖を開けて笑顔で抱き付く。
「これ。何度も言ったじゃろぅ? 帰って来る時は玄関からと」
「ごめんなさい」
本気で怒って無いのを解ってるから、笑顔で謝る。
「仕方ないのぅ、お前様は天狗の生まれ変わりじゃからね」
ぽんぽん と肩を叩かれ離す。
「今日は新しく越して来た郵便局長の家族を晩飯に招待したからの、お前と同じ歳の男の子だときいちょる」
大輝の事!
「それは、楽しみだぁ!」
また笑いが込み上げて来た。
*大輝side*
「大輝!」
母さんのがなり声で目を覚ます。
「何て格好で寝てるの!」
目の前にはひっくり返った母さんの顔?
否、俺がベットから上半身から落ちてて……頭に血が上るっ!
「さぁ! 用意してよ!」
「え?」
「この村で一番偉い人の家へ招待されたのよ」
よく見たら母さん、一張羅の服着てるし。
「さぁ! 行くわよ」
“天狗”夢だったのかな?
「貴方はそのままで良いから行くわよ!」
何だかなぁ
俺まで焦って来た。
「父さんは現地で集合になってるからね」
忙しなく靴を履いてる母さん。何でか緊張までもこちらに移って来た。
母さんの後ろに着いて出て、カギをかけるのももどかしい。
「偉い人ってどんな人?」
「地主らしいわよ。昔から続いてる旧家何ですって!」
「家はどこ?」
「すぐ裏手の神社の隣り」
それって、本当に五分くらい歩けば着く場所だ。
越して来て豪華な神社で驚いた。
綺麗な山林に続く社
“天狗”の顔が チラリと頭をかすめる。
「おう。こっちこっち」
父さんが大きな家の前で手招いてる。
“桃井”と書かれた表札。
三人並んで
ベルを鳴らす。
「はーーーい!」
若い声。
ガラ
うちのと比べ物にならない程豪華な造りのガラス戸が開く。
「! 天狗っ!」
現れたのは、天狗。
にこやかな天狗が、
「いらっしゃい! 大輝!」
俺の名を呼ぶ。
「おや。もう知り合いだったのかな?」
天狗の背後から優しげなおじいさんが現われる。
「桃井 憲悟じゃ。桃山村へようこそ、相楽さん」
かしこまった父さんが差し出された手を握り返す。
普通のおじいさんに見えるんだけどな。力を持つってスゴい事なんだろうな。それとも“天狗”のおじいさんだから普通とは違うのか?
「大輝。お出でよ」
笑む天狗が手を差し出す。
平然とした天狗。
天狗じゃなかったのか?
戸惑いながら出された手を握ると、優しく家へ上げられる
「虎之介。だよ」
花の様な笑顔を浮かべたまま天狗が言う。
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