鬼に成る者

なぁ恋

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牛鬼

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温かい光りが、闇を切り裂いて現われた。

赤子が更に叫び足掻く。
“朱色の鬼の魂”達が暗い眼を必死に閉じて抵抗するが、


『“魂”よ返れ』


“言霊”を使う。
頭上で揺らめいて居た魂が、一直線に“躰”へ向う。

けがれの無い、純心無垢な魂
それはけがれた魂達を押え込み躰へ返った。
瞬間、赤子の身体が明るく光り、取り囲んで居た“闇”を一掃する。

シュルシュル と音を立て海に返る闇。散り散りにばらけ、力を失った悲しい魂達は……消滅した。


腕に残った重み在る赤子。可愛く笑う赤子。

優子を見ると、先程の光りで我に返って居た。
黙って赤子を差し出すと、ゆっくりと受け取る。

「この子は誰?」

俺の眼は視る。

入水した時に腹に居た赤子は、まだ躰を成す前だった。
それが群れを成し取り憑いた朱色の鬼に無理に生み出されたのだ。

初めて見る我が子。

意識を、我を取り戻した優子が名前の様に優しい笑みを浮かべる。

「可愛い赤ちゃん」

身体を揺らしながら、子守歌を歌う。
赤子は小さく笑い声を上げ、母親の肩に頭を置き身を預けて、やがて指をしゃぶりながら眠りに落ちた。

子守歌を歌う優子自身も静かに砂浜に座ると、小さく溜め息を吐き、
「ありがとう」言い終わらない内に身体が崩れ、
そこに残ったのは、骨。親子の大小の頭蓋骨しゃれこうべ

潮風が頬を撫でる。
返って来た時間。
 
魂よ安らかに……
祈らずにはいられなかった。
 
「そこ! 君! 動かないで!」

光が目に飛び込んで来た。
自転車の光り?

壁上の道路から人が手を振って居る。
あの服装は、お巡りさん。

丁度良かった。この遺体を伝えなきゃ。

降りて来たお巡りさんに懐中電灯を当てられ、眩しさに目を細めると、

「オレンジの髪の毛。間違いないね。君の名前は、馬破 元気?」
「え? そうですが?」
「捜索願いが出されて居るよ。保護します」
「え゛?? 誰から?」
「貴方の保護者の方……えぇと。おばさんにあたる方? 
馬破 美夜子まわり みよこさん」

美夜子さん。父さんの妹。

「ん───でも、君はどう見ても……未成年じゃないよね?」
「はあ……」

そう。何時まで経っても美夜子さんに取っては俺は子どもに見えるんだろうな。
って、よく考えたら引っ越した事言ってなかったし“鬼”に成ってから“バイト”にさえ行ってなかった。心配されて当然かな?
これじゃ行方不明って言われても仕方ない。

「なら、自分から連絡取れる?」

恐らくは俺の資料に目を通していたお巡りさんが見上げながら言う。俺よりも20cmは小さい背丈だ。

「はい。それよりも見つけたんです」

指差す先を見て驚いたお巡りさんは、第一発見者だから待つ様にと、言い置いて肩に下げた無線で連絡をする。

丁寧に葬って欲しい。
手に残る赤子の温もりは本物だったから……
 
 
 
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