鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
上 下
57 / 210
牛鬼

しおりを挟む
*** 
………………………

眠りを邪魔するのは誰?

あの人かしら?

愛しくて
憎い……

腕に抱く赤子が目を覚まして口を開ける。



さぁ、地上へ


………………………
***


*元気side*

満月が水面に映り、綺麗に揺らいでいる。
砂浜を歩き目的地へ。

まほろばとライはマンションで待機。
どうしようもなければテレパシーで助けを呼ぶ。

口の中で反復する。


凪ぐ海から漂って来た鬼気。
そして、静かに現われた。濡れた少女。

「ねぇ? お願いがあるの」

背後から話し掛けられる。振り向かず

「その前に、君の名前は?」
「え?」

少女の戸惑う声。

「俺は元気。元気の元気だ」
「わたし? 私は??」

沈黙。


一年。長い孤独。


「「ホギャアァ───……」」


滲んだ泣き声。

泣き声に消されそうなくらい小さな声で
「私は……優子」

ちゃんと俺には聞こえた。
そして“朱色の鬼”は、赤子そのもの。

「「ギャアァアアァ!!」」


滲んだ泣き声に本性が現われる。
ゆっくりと振り向く。眼に力を宿して。

少女、優子の腕に抱かれた赤子。
凝視すると視えてきた。
小さな塊。
どす黒い、何体もの水死した者達の凝り固まった姿。
哀れな姿。
 
「優子。君はどうしてここに居るの?」

けたたましい滲んだ泣き声を無視して優子に訊く。

「どう……して?」

眼に宿す千里眼の力で“優子”と言う人間を視る。が、

「「ギャアァアアァ───……!!!」」

赤子の泣き声が一層大きくなる。
魂を掴まれる様な暗い声。

幾体もの彷徨える魂の塊。
死にたくないと、生に固執した。
或いは、自ら生を投げ出した。

小さな赤子の姿と成った哀れなモノ達。


……優子が生み落とした“魂”の抜けた赤子に取り憑いた亡者。





熱く“熱”を持つ眼球。
赤子の躰の”を
同時に視る。

“優子”


***
………………………


「赤ちゃんが出来たみたい」

嬉しかった。
喜んで貰えると思っていたのに。

「……どうして? 出来る筈がない!」

貴方は私をなじった。

「俺はまだっ」

私の好きだった笑顔が歪む。
それ以上は何も言わず背を向けて立ち去る貴方。

愛した事が罪だったの?
私はただ、貴方を愛しただけ……

………………………

***
   
一瞬のに呑まれてこの場所で入水する。
“闇”は亡者が成す“”の

優子は呼び込まれ、引きずられ、取り込まれた。
 
“優子”は、涙を流す。
腕に抱く赤子を抱きしめて。赤子の泣き声は叫びに変わり、大きく開けた口から暗い鬼気を吐き出す。

ズクズクと口から溢れ出る暗い暗い闇。闇はやがて二人を呑み込む。
静かな闇の中、満月も海も足元の砂浜さえ見えない。


「「ギぇ───────!!!」」


甲高い叫び声だけが木霊する空間。
声が闇に反射し頭に響く。
意識的にそれを受け入れる。
様々な“想い”が零れ“叫び声”は“声”になる。



苦しい
痛い
死にたくない

まだ
やりたい事があったのに

何で
何で
何で

無念の声
老若男女幾つもの声。

優子は我が子をただ抱いて、グルグルと悲しみだけが支配する。

悲しい親子。
呑み込まれない様“視る事”で傍観する。

抱いて貰えず、俺を抑えられない赤子が、どろりとした柔らかいゼリー状になり足元まで這って来て小さな手の平が足を掴む。
小さな手から、幾体もの手が増えて俺を掴み上へ上へと上がって来る。

かつて囚われていた闇よりも深い深い深層の闇。
    
熱い眼が、を捕える。

腰まで上がって来た手達が蠢き、また一つの形に成る。
それをそっと抱き上げて形成る赤子を視る。
両眼がぽっかりと黒く穴が空いていて、そこから溢れんばかりに沢山の人の───かつて人であったモノの顔顔顔………

呼び出した正当な躰の持ち主、魂を捕えた眼で赤子の闇の広がる眼を視る。
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

友達が僕の股間を枕にしてくるので困る

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
僕の股間枕、キンタマクラ。なんか人をダメにする枕で気持ちいいらしい。

どのみちヤられるならイケメン騎士がいい!

あーす。
BL
異世界に美少年になってトリップした元腐女子。 次々ヤられる色々なゲームステージの中、イケメン騎士が必ず登場。 どのみちヤられるんら、やっぱイケメン騎士だよね。 って事で、頑張ってイケメン騎士をオトすべく、奮闘する物語。

処理中です...