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炎鬼
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しおりを挟む*鬼side*
だまされたと知ったのは、お金を渡してからだった。
仲の良い友人だったから、疑う事もせず、素直に言った事を信じたんだ。
子どもの為、
家族の為、と、
働いて貯めたお金。
一千万。
上手い儲け話があるからと、幼馴染みの峠田が久方振りに電話を寄越した。
確かに話は納得出来るものだった。
難しい御託を並べられたなら疑いもしただろう。単純明解で、もっともらしく聞こえたのだ。
40年。正直に真当に生きて来た。
その結果がこれか!?
一度、疑心暗鬼に捕らわれると誰の言葉も信じられず……女房の言葉でさえ、耳に届かなかった。
そして、
一家離散。
否、俺だけが取り残された。
女房が子どもを連れて出て行った。
3歳になった幸多
多く幸せに成れます様にと、名付けた息子。
あの笑顔が目に焼き付いている。
永久の別れと知らない息子は、可愛らしい笑顔を浮かべて手を振った。
「パパ。あとでね~」
と、
酒を呑む。
忘れる為に
酒を呑む。
その度に
ココロに溜まる
切なさと怒り。
やがて“怒り”が生きる糧に成る。
酒と怒り
それだけが生きている感覚。
それからは、
家も無く、路上で生活していた。
ただ酒を求めて彷徨う日々、
一転したのは、
峠田を見掛けた事。
奴は羽振り良さげに飲み屋から出て来た。
俺の前を通っても判らない。
髭を伸ばし放題に着たきり雀の汚い格好をしていたから判らないで当たり前。
全ては、お前のせいだ。
後をつける。
思考は“怒り”に支配されていた。
アルコールの甘いニオイが口から立ち上ぼる湯気になり、掌が熱く燃えている様だ。
「峠田!」
呼ぶと、奴は立ち止まる。
「誰だ?」
しかめ面で俺を見る。
「八城だよ」
「! 八城? いや、判らなかったよ」
奴は親しげに笑顔を向ける。
「お前のせいでっ!」
「リスクは解ってた筈だろう?」
峠田は眼鏡を指先で上げてこちらを小馬鹿にした様に見遣ると、鼻で笑った。
「良くある話さ。まぁ、これで、旨いもんでも食えよ」
差し出された一万円札。
そんなもんか。
あの幼い日々を思い起こす。楽しかった思い出。
それも全部色あせる。
金が全てか。
ココロの隅に残って居た峠田に対する望郷の念は全て消えた。
残ったのは、怒り。憤怒。
「なぁ、俺はお前に取ってただのカモだったんだな」
「そんな事はないさ。大事な友達さ」
嫌らしい笑みを浮かべる。
熱く
熱く燃える身体。
「あつっ!」
峠田が出した手を引っ込める。舞う札が……燃え落ちた。
「何だ?」
何だろう?
掌から熱が出る。
それは透明な炎。
例えるなら、ターボライターの炎の様に風に吹かれてもびくともしない。
手の平から縦に立ち上ぼる綺麗な青白い炎。
「んだよ? それ?」
峠田の恐怖に引きつった顔。
「何だろうな? 俺にも分からん。けどなぁ……お前の事は許せんのじゃ」
俺の怒りが形に成った気がする。
峠田を殺せ!
と、
「やめろ! やめてくれ!?」
危険を感じたのか、峠田が後ずさる。
もう、遅い。
悲鳴を上げ駆け出す奴をゆっくり追いかける。
不思議と判るのだ。
奴の息遣いや、
恐怖を感じて早く波打つ鼓動の音が。
雑居ビルの建ち並ぶ町中は、真夜中とはいえ、何かしらの音や声がある。
それでもはっきりと感じられる奴の気配。
「ククッ」
おかしくて笑える。
これは、狩りをしている感覚。
目に映った建てかけのビル。奴はここに居る。
「「たおたぁ~……」」
ビル中の空洞に
声がにじむ様に響く。
「たっ……助けてくれ! そうだっ! 俺じゃないんだよ。お前の金持ってんのは! そいつら教えるから助けてくれよ!?」
仲間が居たのか。
「「誰だ?」」
「ほら、高校ん時の同級生の真柴! 覚えてるか? アイツが持ち掛けた商売なんだよ!!」
真柴?
不良崩れの
「ヤクザやっててさ。居場所教えるから!」
あぁ、もちろん教えて貰うさ
震える手で名刺を見せる峠田。
俺は静かに手を差し出す。こちらに来い。
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