鬼に成る者

なぁ恋

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鬼民話

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*ライside* 

「疲れた……」

樹利亜は呟くと、こちらに背を向け後ろ手にドレスを脱ぐ、音も立てず足下に黒く固まるドレス。

白い肌があらわになり
黒い長髪が服の代わりに身体を隠す。

「ドレスは大切に仕舞っていて……と元気に伝えて」

こちらに視線を寄越し、

「ライ。貴方に感謝もしているのよ? 
それから“寿の記憶”元気は封じてあるから。
これは私だけが知っていればいい。
彼には……そうね。まほろばの血筋とだけ伝えておいて」

現世では楽しく過ごして欲しいから、元気は明るく逞しい男性。

“願い”を叶える為。

悲しい記憶は奥へ押し込み、封をする。


「まほろば、ライ……おやすみなさい」

彼女は軽く右手を上げ、全体から光りを発しながら、黒い長髪が下から縮みオレンジの短髪に、細やかな肢体はがっちりとした男性のそれに、やがて元気と代わり樹利亜は消えた。

「元気……」

床に転がる元気。
言われてみれば、まほろばにどことなく似ている気がする。

まほろばが無言で彼を抱えいつもの出入口から元気の部屋へ運ぶ。


一人残された部屋で、床に光る黒いドレスを拾い上げる。

窓から入る陽の光りに綺麗に反射して煌めいた柔らかい布地。
樹利亜の髪みたいだ。
握り締めると仄かに彼女の暖かさが残っていて、幻ではなく、本当の事なんだと改めて思う。

“罪”を“愛”に変えて良いのだろうか?

ボクは……?

手に落ちて来た温かい粒に涙を流している事に気付く。

樹利亜の涙は誰が止めてやれるのだろう?
 
  
*まほろばside*

ベットに寝かせると静かな寝息をたて、元気が寝返りをうつ。
自分の血族で、俺を愛してくれた魂の持ち主。
“魂”は嘘をつかない。


『ねぇ? まほろば。貴方は何時からライを愛してた?』



樹利亜の言葉。

いつから?

ライが鬼で在った
産まれ落ち自分を見る彼の銀の瞳を初めて見返した時。

自分のモノだと確信した。

鬼同士の子の成し方は、愛とかココロある生命の誕生ではなく、発情期を迎えた男女が手近な相手を見つけて作る。

赤児ではなく、大体5歳児サイズで産まれ、産まれ出ると、父母と言う感覚は皆無で“仲間”一括りの部族単位での仲間として活動する。

家族は要らないのに同族で群れないと生きて行けないから。

ココロが弱く独りだと“孤独”と言う毒におかされ死んでしまうから。


そんな中で、俺はライを見つけた。
ライを想い
ライに触れ
ライの傍に居るだけで浮き立つ気持ち。

このココロのざわめきは何なのか
鬼で在ったが故に、結局はライを失うまで……失ってからも気付けなかったが。


───何時から愛してた?


その答えを知りたいならば、答えは、

ライがライとして誕生した瞬間から。
また現在いま目の前に存在する 夏木 礼  として転生して来た彼も、

その全て
ライと言う魂を……愛している。
 
 
  
自覚すると、
気持ちが生まれる。

俺は鬼だが、
この気持ちの高ぶりは“鬼の気質”とは明らかに違う。

生粋の鬼はこの世界では独り。
ライの求めていた人間に近付いているのだろうか?


部屋に戻ると、ライが泣いていた。

「ライ?」

名を呼ぶとこちらを見る。
銀色に輝く瞳。
初めて見た時の衝撃を思い出す

手を伸ばし後ろから抱きすくめると、柔らかい青い髪が頬に触れそこからライのニオイがした。
俺を惑わす甘いライのニオイ───……

もうライを離しはしない。

「泣くな。俺は傍に居る」

「まほろば……ボクは愛される資格なんて無い……」

ライの言わんとする事は解る。

「それでも、長く永遠と思える年月を生きてこれたのはライが居たからだ」

「元気の事」

「お前が居たから元気もここに存在して居るんだ」

こちらに上向かせ涙を舐めとる。
涙でさえ甘い。


そのまま首筋まで唇を寄せると、無言のまま牙を立てる。
甘いライの味が口内に広がる。

「あっ……」

小さく悲鳴を上げたライが両腕を首に絡め俺の髪を掴む。

これは、
愛の行為だ。

ライを欲するが故に求めむさぼる。

掴む手に力が入る。その手にそっと手を重ねて優しく握る。離さない。
この手を

ライは、
今─現世─も昔─前世─も俺のモノなのだから。


「愛してる」
 
ライのかすれた声が耳元で囁く。
“愛”この言葉が好きだ……

人の言葉は便利で、鬼の中には存在しない感情を簡単に現せる。
 
 
「愛している」 
 
言葉を返す。
ココロは心地好く、

俺はもはや“鬼”では居られないのかもしれない。

ココロが“鬼”でなくなる。
 
肉体的に人間に成れる訳ではないが、 
この充実した気持ちを何と表現したら良いのか……

そう。
ただ、ライの傍に居られるならばそれで良い。 
 
これが結論。 
 
───泣いた赤鬼。 
 
青鬼と再会した赤鬼は、
もう、泣くのをやめたのだから。 
 
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