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鬼民話
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しおりを挟むゆるゆると日にちが経つ。
誰も訪れる事のない、二人だけの世界で、
否、まほろばの近くに小動物達が少しずつ顔を出す様になっていた。
毎朝、鳥が彼の肩に止まりさえずる。
狐や狸が草むらから顔を覗かせる。
彼に近付ける彼等を羨ましく思う自分に苦笑する。
「まほろば」
呼ばれてこちらを見る。笑顔さえ浮かべる様になって居たが、それは私に向けられた笑みではなく、夢の中に居る“ライ”に対して向けた笑顔。
気付いた。
ここに居る私はライの代わり。
私と言う個性は彼に見えてなく、
ライの虚像として存在している。
ただ、それだけ。
これは虚しい。
一緒に居る立場で、彼に惹かれて居る女として……ココロが辛い。
私はまほろばに惹かれて居る。
もう、隠せない。
自分を見ない、人とは違う彼を好きになって居た。
何人もの“贄”がそうなってしまった様に。
「まほろば」
私が名を呼んで、彼がこちらを見る。
それだけで幸せ。
幸せ?
毎夜まほろばは私を腕に眠り、
私は彼を探る。
彼の夢を覗く。
ライの面影を視て
嫉妬する。
でも、夢の中のまほろばは本当に幸せそうで邪魔は出来ない。
夢で癒される彼と比例する様に触れる度に疲れ、以前は彼の代わりに流した涙を今度は自分のココロの痛さから流す。
悪循環。
それでも、私を見ない彼を欲する気持ちが日に日に強くなる。
赤く燃える。
夕焼けを仰ぎ見るまほろばの赤い長髪が
夕陽に溶ける様に、更に赤く燃えて揺れる。焔の様に。
美しい人。
私を惑わす酷い人。
それとも、
山の神にココロを奪われた私こそが罪人なのか?
腹部に痛みを感じ座る。月のものが来る証しの痛み。
子を宿せる女性の証し。
ここに来て初めての月経。
女である事を意識し、虚しさを感じる。
夜になり
まほろばの様子がおかしい事に気付く。
私に近付かない。
目を見ると生気ある光りが見えた。
いつもの眠ったままの瞳と違う、
生きた光りを宿す瞳。
動物は子を作る時期があり、生き物は皆子孫を残す為に“繁殖期”がある。
それは鬼神とて同じではなかろうか?
雌のニオイがして生殖本能が目覚めはじめている?
私は
月経の間身を潜めた方が良い?
それとも?
今こちらを見る金の瞳が
私だけを見つめる瞳が
そこには私だけが映って居て
金の瞳が光りを宿し輝いて居る
私だけを、
私だけを見つめる
私だけが
今のまほろばの全て───……
簡単な事ではないと解って居るし、
上手く行くとも限らない。
それでも、
ココロを満たす為に必要な事。
思ったよりも簡単だった。
まほろばの大きな身体は私に合わせて小さくなり、それは光りに包まれた様に満たされた瞬間。
そして思ってもみなかった事が起こる。
“先読み”
これから200年経つ頃にまほろばは、ライと出逢う。
この山で、この場所で。
なら、100年の周期は無くても良い。
このまま眠りにつけば良い。
眠りなさい。
私の鬼神───……
子守歌を歌う様に
眠りに誘う
出逢って数日しか経たない私とまほろば。
眠りに落ちた鬼神。
それを覚えているのは私だけ……
彼への想いを宿して、
私は帰る。
まほろばは私を覚えていないだろう……
彼より先に逝くのも解っている。
でもせめて、次の世では一緒に居たい。
ちゃんと私を見て会話して……
「まほろば……また逢いましょう」
眠る彼の耳元で囁く。
これは“約束”
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