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精鬼
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しおりを挟む*ライside*
いく数個の人魂の筋が光りに溶けては消えて行き、最後にゆらゆらと二つの魂が混じり合いながら昇る。
守恵人と慶子の悲しい今世は終わり、来世に向って旅立って行った。
風が吹いて雲を流して行く。
そこにあった不思議な情景の痕跡を消し去る様に。
自分がどうだったかと考えて、一度は行った筈の場所を見遣る。
そこにはただ青い空が在るだけ。
「生まれ変われたら良いね」
願いを込めて呟く。
風が青い髪を揺らし、それを包む様に赤い髪がなびき俺を抱き締める。
「きっとまた巡り逢える」
答えたまほろばがほほ笑むと、
「きっとね」
自然と笑みを返していた。
幸せと思えるのは二人で居られるから。
この互いを“想う”気持ちの正体は未だにはっきりとは分からないけれど、ずっとこのままで居られたらと、せつに思う。
この時の“朱色の血”の吸収で、髪は青に変わったままに。
そんな体の変化を少しずつ感じながら“ライ”は“礼”に戻り、
まほろばもまた、本来の姿を封じて人に紛れて生活を始める。
薔薇の洋館は、実際に存在するものだった。二人の“鬼気”で、幻と化し見えない館となっていた。
その存在と、記録さえ、消え去ってしまった現代の町の中心に、突如現われた朽ちた洋館は“現代の不思議”として世間を騒がせた。
無数の人骨も謎のままに、その土地は平らにされ、やがて噂話として風と消えた。
*********
また、
夜が来た。
いつもの、変わらぬ夜が。
静かに待つまほろばを見ると……
彼の存在を確認するだけでそれだけで───赤い髪に触れて、優しく光る金の瞳を覗く。
“食事”の時間。
二人の時間。
「おいで」
差し出された手を握ると、ゆっくりと引き寄せられ、柔らかいシャツ越しにある固い肌の上に重なり向かい合わせに座る。
まほろばの瞳が細められ、ボクの胸に置かれる手の平。
「すまない」
温かい手の熱が“癒し”を施しているのが分かる。
でも。
「傷は残る」言ってまほろばの手に自分のそれを重ねる。
「まほろばのココロはボクのものだ」
誰にも渡さない。
まほろばは、ボクのもの。
この傷はその“証し”
「ライ。お前は?」
耳元でつぶやくまほろばが、そのままボクの首に唇を寄せる。
触れた唇から首筋に小さな痛み。
「ボクは……」そう。
ボク達は、この気持ちを持て余している。
この関係を上手く言葉に出来ない。
熱く、命が流れて行く。
ボクからまほろばへ。
同時にまほろばから来る熱は、ボクのココロを満たす。
このままで良いと思う気持ちと、もっと。と欲しがるココロと。
どうしたいのか解らないまま、
まほろばが吸い出すボクの“血”が、その感覚が考える気持ちが、吐息となって唇から零れた。
「まほろば……」
ただ名を呼ぶ事しか出来なくて。
その名を呼ぶ幸せをも噛み締める。
ボクの全てはまほろばで満たされる。
まほろばは、未来永劫、ボクのものなんだから
痛みのない傷痕が、じくりと熱を持った。
まるで、ボクの知らない何かを知っていると言うみたいに───……
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