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泣いた赤鬼
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しおりを挟むご飯を頬張りながら、考える。
佳乃とは、幼稚園の時から一緒で、優しく可愛い。
それは判ってた。
でも、異性として“好き”な感情は、皆無だった。
何でかな? と考える。
ココロの奥深い所に、ボクの“想い”がある。
赤い色。金の……
そうだ。
死んだその時から、まほろばを想い、だから、彼を辿って生まれ変われた。
これは“愛情”?
ボクのココロは、彼を?
頬が熱くなるのを感じる。
好き?
こんな事、佳乃に言われるまで、気付かなかった。
でも待て、彼は“鬼”で、紛れもなく同性だ。
しっかりお弁当を平らげて、収める。
“青鬼”だった時だって、こんな感情は無かった。
秋風が、火照った頬を優しく冷ます様にくすぐって行く。
ココロが、熱くなる。
自覚なんて、するもんじゃない。
こんな感情、知らない。
休憩の終わりを告げるチャイムがなる。
慌てて教室に走った。
:
:
:
:
放課後まで、佳乃はボクを避けていた。
園田の何か言いたげなのを無視して、足早に佳乃に近付く。
「ご馳走さま。ちょっと話があるから、一緒に帰ろう?」
長いまつげ、ふんわりした髪。
可愛いし、愛しいとも感じる。でも、違う。
「良いよ」
うつむき、小さく答え、空の弁当箱を受け取った佳乃が、先に教室を出る。
続くボクの腕を掴まれた、
「キライ。待てや、俺の事を無視するなんて、良い度胸してるな」
園田が、怖い顔をして、掴む手に力を込めた。
「顔貸せ」
そのまま、屋上に連れて行かれ、前には、畑に肩を掴まれた佳乃が震えていた。
佳乃を巻き込むなんて、
「放してやれよ」
―――パンッ!
頬を叩かれた。
「生意気なんだよ」
血の味が、口に広がる。
「ライっ!」
悲鳴を上げる佳乃。
頭の中で、何かチカチカする感覚。
「こんな、こんな手紙貰いやがって!」
園田が手にしたのは、佳乃からの手紙。
落としてたんだ。
それを破り、
また、みぞおちを殴られる。
不思議と、痛さは感じなくて……
「何で、お前なんだよ」
歪む園田の顔が、怒りで赤くなり、ポケットから取り出したのは、携帯ナイフ。
変わらず、頭のチカチカは治まらず、
瞳が、熱い………ざわつく“ココロ”熱くなる“瞳”
「お前なんてっ!」
振り下ろされるナイフが、太陽に照らされて光る。
思い通りにならないからと、こうも簡単に、人間は他人を傷付けられるのか?
“朱色の鬼”を見た気がする。
園田の内に。
髪の毛が逆立ち、ナイフを右手で握り止めた。
熱い血が滴り落ちるが、痛さはやはり無く、奪い取ったナイフを力一杯投げる。
園田と畑の横を突き抜け、
ダンッ
コンクリートに、柄までのめり込んだ。
そうか。
“鬼”は、人間の血に紛れ、現在も息づいて居るんだ。
震える佳乃が、
「ラ、イ? 髪が……目の色が?」
きっと、髪は青く瞳は銀色に変化している。
“朱色の鬼”
眠って居る“鬼の血”は、簡単に彼らを狂わせる。
もしかしたら、それが“犯罪者”を生んでいる?
朱色の鬼の連鎖は、終わっていない?
鬼は簡単に、朱色に染まれる。
右手から血が流れ落ちて――――
このまま“人間の血”がすべて体内から抜け落ちるのだろうか?
一歩、足を進める。
「―――ヒィッ!!」
腰を抜かした園田が、後ず去る。
そんなに、恐ろしい?
でも、ボクは、君達“朱色の鬼”の方が怖い。
思い出すのは、無辜の民。
罪無き人々の悲鳴と流れる命。
こんな奴等は、生かしておけない――――
泣いて命乞う園田の声は、凍ったココロに、届きはしない。
傷ついた右手で彼の首を掴み、体ごと持ち上げる。
首の絞まる感覚。
もがく、朱色の……鬼。
「ライっ!? 止めてっ!! 死んじゃう!!!!」
女の叫ぶ声……
逃げろ。
朱色の鬼に殺される前に……
「――――――ライ」
冷たい風に乗って聞えて来たのは、
「まほろば?」
愛しい赤鬼の声?
朱色の鬼を放す。
ぜぃぜぃと、苦しい息遣いが聞えて、まだ生きている事を告げる。
「ライ……」
優しい声色。
彼、まほろばが、空から舞い降りて来て。
「まほろば」
立ち尽くして居る俺の手を取り、滴る血を唇で塞いだ。
「あ――――」
ズキン とした、痛さが、戻る。
「取り込まれてはいけない……」
唇を放した、まほろばが声を、出してる。
「痛く、ない……?」
確かに痛さを感じた手の平。見ると、傷が塞がっていた。
「“鬼”に取り込まれては、いけない」
「……あ、ありがとう」
ボクは……
我を忘れてた。
園田を見遣ると、恐ろしいモノでも見たみたいに悲鳴を上げて、泣いていた。
畑も、気絶している。
佳乃は?
「礼?」
近付いて来る。
「髪が青く、瞳は“銀”になってた?」
ボクの顔を覗き込む。
髪に触れ、
「髪、元の色。目は、銀が薄く残ってる……」
顔を覗き込む佳乃に、
「……ボクは、まほろばを辿って生まれ変わって来た……“鬼”」
「鬼? まほろば?」
ボクの後ろの赤鬼。
ボクをいつも守ってくれている。
今も昔も―――――変わらない。
「……佳乃。ありがとう。佳乃はずっと、優しかった……」
多分、ボクは普通には暮らして行けない。
それが今、解った。
まほろばと再会した事で、彼の傍で、まほろばと同じ時間を生きて行きたくなった。
それは、可能だろうか?
「ライ……」
まほろばが、ボクの手に何かを握らせる。
見ると、白い一本角。
これは、俺の……“青鬼の角”
どれだけの年月をこの“角”と過ごして来たのか?
改めて胸が、ココロが熱くなる。
目尻が、熱くなる。
寂しがりの“鬼”が、たった独りで……きっと何千年も生き抜いて来た。
ボクだけを想って……
切なくて、泣けて来た。
まほろばの胸に額を置き、一筋の涙を落とす。
「一緒に居よう……共に、命尽きるまで」
宣言した事と、温かい腕に安心して、気持ちが落ち着く。
気になるのは、園田に見えた“朱色の鬼”の気配。
『鬼に、取り込まれてはいけない』
まほろばの言葉。
このまま放っては置けない。
「ライ“鬼の血”を、無くせば良い……彼の中の鬼の血を、お前が取り込めば良い」
『そうする事でお前の中の“鬼の魂”が中和して、鬼になれる』
まほろばの声。
そして、彼の切望するココロの想い。
もう、
独りでは生きて行けない。と……
ココロが叫んでいる。
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