光輝く世界で別れて出逢う~世界樹の子どもたち~

なぁ恋

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本編

黄金の竜アウローレンス④

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王城へ上がる準備を整えた後、(とは言え正装の騎士服を着込んだだけだが)庭にある石の墓標の側の大樹に皆で立つ。
空は夕刻時で美しい夕陽が空を彩っていた。

「……ヴィクトルと……エドガーの墓か?」

殿下が静かに訊くから素直に答えていた。

「その隣がお祖母様とお祖父様よ」

お母様の亡骸も見つかった後お父様のすぐ隣に埋葬した。
二人で一つの墓標。
そう言えば殿下はここへは初めてかもしれない。
静かに視線を落とす殿下が寂しそうに見えたのは気のせいかな?

後ろに立つアンスが墓標の前へ傅くと、
「必ず幸せにします」
と誓いの言葉を口にする。
「なっ」途端に陛下の顔が真っ赤になって……あら。可愛い。
「可愛いな」マムなんて正直に言っちゃったわ。

「バカ者!」立ち上がったアンスの背に隠れるようにして唸った殿下が、ニマニマ笑うユグとロアに向けて早く道を開けろと催促した。

大樹に道を繋げて、初めにユグとロアが入り続いてマムとウォールウォーレンが、次にアンスと殿下が、そして私と最後尾のウィクルムが道を閉じた。

この空間はとても空気が美味しいと感じる。
ほんの一瞬で、以前道を開けた門の前側にある大樹の前へと辿り着いた。
今度は先頭に立った殿下が門まで行き、一言二言門番に伝えると、二人いる内の一人が駆けて行く。すんなりと全員が城内へ、更に奥へ奥へと足を進めて、例の、あの白薔薇の園庭のガゼボに誘導された。

白薔薇の咲き誇る園庭。
ガゼボに全員は入れず、殿下が腰を下ろし、傍にアンスが佇み、私たちは各々その近くで待機する。

ふと目に入った赤色にドキリとする。
白薔薇の中に赤薔薇が一株。

「それはヴァロアの血を吸った株だ。何故かその株だけが赤に染まったんだ。」 

私の視線の先に気付いた殿下が爆弾発言をする。
初めて殿下と出逢った場所。
初めは私をヴィクトルと呼んだ。

「私の血を吸った赤い薔薇って、一株まるまま血で染まるなんてそんなに出血していなかったわ」

血で染まるなんて不気味だけれど、紅一点のようで綺麗だとも思う。

「あれ?  この子、になってるね。」

ユグの言葉にロアが赤薔薇の周りを飛ぶ。

「本当だ。個体になってるわ」

なんの事?

「この園庭の多くの白い薔薇は群生の存在。全てが一つの生命体なんだよ。それは自然の一部だから個体には成りにくいんだ。
その中で弾かれた存在がこの赤い薔薇。小さな存在は個体に成り得るんだ。簡単に言えば新たな“妖精”が誕生する」

「刺激を与えればすぐにでも目覚めるわよ」

ユグの言葉にロアが私の指を持って引っ張るから、素直に誘導された私の指先がそのまま赤い花弁に触れた。

指先から何か抜け出る感覚の後、薄らと一株全体が金色を纏う。と、ポンッと音を立て丸い塊が飛び出て来た。

両手両足をうーんと伸ばしてふわりと宙に浮かぶ小さな妖精。
真っ赤な髪に、虹色の四つの翅。
あれ? 気のせいかな……私に似てる?

「初めまして、主様。」
「え?」
「私は主様の一部と魔力で生まれました。主様、契約の名を下さい」
「え」

小さな妖精は私の目の前に来て頭を下げる。
そして上げた顔の、その瞳と目が合う。虹色に色鮮やかに輝いていてとても綺麗……

「カラー」と呟いていた。

すると、赤髪の妖精がぽわりと金色に輝いて、四つ翅が六つになっていた。

「“カラー”素敵です! ありがとうございます。末永くよろしくお願いいたします」

深々と頭を下げる小さな妖精。カラー。それが名前になっちゃうの?? 

「いいの?」

遠慮がちに聞いてみた。

「私はカラーです」

にっこりと微笑んだ。
そして、少し前に記憶が遡る。
契約。名の縛り。
あ! 王女は竜を名で縛った。
だから末永く??

「なんで契約なんてっ」
「深く考えなくていいのよ。ヴァロアの一部であるカラーはヴァロアと繋がる事で強くなれるの。ほら、翅が増えたでしょう? 四つ翅よりも六つ翅の方が位が高いの。私たちと同等なの」

ロアがにこにこと言うから力が抜けた。
それは妖精にとっていい事なのだろう。
だけど生まれてすぐそんな事になるなんて災難でしかないのでは??

「僕も“契約”すればいいのかな? ヴァロア様を独り占め出来るなら……“番”だって不確かなものだ。“主従契約”なら……」
「いやいやいや」

脳内暴走し始めたウィクルムを止めるべく手を伸ばすと、

「ああ。なんだ。名付けはしてもらったのだから後からでも出来ーーー「ダメだよ! 私はウィクルムとは対等な関係を望むよ。主従関係がいいなら私に触れる事は許さないよ」

それは本音だ。
たちまちしゅんと項垂れたウィクルムの頭に犬の耳が見えたような気がしたのは、気のせいだ。

「それは嫌です。」
と、大人のウィクルムの大きな腕に抱き締められる。

「僕はヴァロア様の“夫”になりたいんだ」
耳元で小さく囁かれて耳から首まで一気に熱を持つ。

「ーーー分かっている。それは、全てが解決したら……考えよう」

覚悟を持ってウィクルムの背に腕を回し、ぎゅっと抱き締め返す。

「求愛行動とは素敵なものですね」

スイーと目の前を浮遊するカラーを目にして我に返る。

「求愛行動??」
「違うのですか?」
こてんと首を傾げるカラー。
違う! 否、違わない??
混乱して来た。

「もっとぐいぐい行かなければ伝わらないぞ」

カラーの隣に飛んで来たユグがウィクルムに言うものだから、純粋なウィクルムに変な事吹き込まないでぇ!
それにもう私たち両思いですからぁ!





「妖精か?」

深く高い声がその場に響いた。
視線を向けると、そこには金の短髪の口元を布で隠した殿方を従えた黒髪の見目麗しい女性が立って居た。
その横には殿下にそっくりな、金髪のふんわりとした雰囲気の女性が、背後に濃い金の長髪を束ねた護衛騎士を伴って居る。

「ユースローゼ姉上。ナーイアウロ姉上」

殿下が立ち上がり、妖精以外が頭を下げる。
ああ、この二人が。

「アウローレンス。元気でしたか?」

雰囲気と同じで柔らかな声色の第二王女が訊ねる。

「お陰様で」

頭を下げたままの殿下が応える。

「して、呼び出したのはユースセリアの事か? それとも、前世の事か?」
「ローゼ。それは同じ事だと思うわ」

王女たちはやはり始まりの双子の王女なのだと確信した瞬間だった。

そして、本当に瞬きした瞬間に、私の側に第一王女の傍に居た口元を隠した男が立って居た。
離れた場所から、一瞬きの間にだ。

「傅け……王女の御前だ」

低く小さな声が耳元で囁く。
私はそこで突然の事に驚き、頭さえ下げてなかった事に気付いた。

そして気付かなかったが、男の手が私の頭に伸ばされていたのを、ウィクルムがその手首を握り阻止していた。

「ーーー申し訳ありませんっ」

惚けていた自分に恥ずかしくなる。

「よいよ。いきなり声をかけたのは私なのだから。アルバン下がれ」

呼ばれた瞬間、嬉しそうに目を細め、ウィクルムの手を払い跳躍して元の場所に着地する。

「して、アウローレンス。急用とはなんだ」




















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