54 / 56
本編
黄金の竜アウローレンス③
しおりを挟む赤く色付いた私の祝福の花は、崩れることなく私の手の中に在った。
自身は蚊帳の外で聞いた話。
ユグとアウローレンス殿下の会話の真実に鳥肌が立つ。
真実ならば、それはどう正されるのか正直想像も出来ない。
祖の話は真実で、恐らく今世の王族姉妹は始まりの者たちの輪廻者。
そうかもしれない。とアウローレンス殿下は疑い、そうなのだとユグは固定した。
世界樹。私の祖が見ていた世界は、この全世界から考えればちっぽけな一つ国のこと。
竜の血脈の王家になってから数百年。
本当に不思議なほど周りの国からの干渉がなかった。
ほとんどの民はこの国で生まれ死んで行くのだ。
他の国が在るのは知っている。けれどもどの国も我が国に入ってくることも出て行く者も居ない。
良く考えればそれは異常ではないか?
竜に愛されしユーラシフラン王国。
「私たちは本当に竜に愛されて居るのか?」
疑問符が口を付く。
「違うだろう。愛して居るなら魔森など出来ないさ」
マムが溜め息と共に言い切った。
「今聞いた竜の真実は、魔森は竜に穢された結果出来たものだ。あれで愛しているなんて思える筈がない。
強いて言うならば王女を愛していたってことだろう?
王女を盾に竜は脅され国を護ったに過ぎない。
本当に守りたかったのは王女で、その王女は身勝手な想いの果てに死んだんだ。
もしかしたら愛だって憎しみに変わってしまって、その結果が魔森なのかもしれないな」
愛は優しいものだと否定したい。
だけど、マムの言う通りなのかもしれない。
「人の想いなど……その者にしか分からないよ」
隣に座るウィクルムが静かに呟いた。
「そうだね。」
そう答えるしかなくて、虚しい気持ちに蓋をしたくて、手に持っていた花を口に含む。
あ。
赤色に染まった祝福の花だと思い出したけれどももう飲み込んだ後だった。
あれ?
ピリッと舌先が痺れて、何だろう。とても苦く感じた。
それを見ていたウィクルムが、目を見開いて驚いて居た。
「いや……多分大丈夫、だと思うのだけれど?」
あれ?
味を感じたの?
食花するようになって、甘いは解ってるつもりだった。
味がなければやっぱり嫌だと思うもの。だから、花の甘さが私にとって食べたと言う満足感になっていたんだと思い至る。それでも、苦いなんて5歳までに食べたものでもそんなもの口にすることなんてなくて……
「あぁ。“妙薬は口に苦し”」
そう言って風邪をひいた時、薬を処方してくれた薬師さんが言っていたのを思い出した。
長引く風邪を心配したお祖母様が手配してくださったのだ。
そんな懐かしい苦味。
隣に座るウィクルムの視線が痛い。
ウィクルムは決心したように凛々しい顔になると、自分の花を出して立ち上がり、殿下の側まで行くと叫んだ。
「おい! 僕にもその魔力を寄越せ」
え?
「何だ?」
「赤色の花。あれをヴァロアさまが食べてしまった。今更遅いが、毒味だ!」
その言葉で一斉に視線が集まる。
「あ、や……。考え事をしていて、無意識に食べてしまったんだ」
「それで? 体に異常があったのか?」
癒し手らしく訊くマム。
「否……ただ、“苦味”を感じたんだ……」
ごにょごにょ声がしりつぼむ。
「苦味?」
「ああ。ほら、私は花しか食べれないだろう? この花は甘いんだ。食花するようになって“甘い”しか知らないんだよ。それで、赤色の花を食べてしまって、味が、苦かったんだ……久方ぶりに、甘いのと違う味を感じて驚いただけで、どこも変じゃない。と、思う」
多分。
お腹の辺りがポカポカして来たけれど、痛くはないからなんとも無いはずだ。
「“竜の魔力”を込めたのだろう?」
ユグが冷静に殿下に訊ねる。
「そうだ。疑問が解消したから試したんだ。
“エドガー”の祝福の花は金色だった。だが……二度目に現れた時に赤色になっていたんだ。その理由につい先程思い至って、ヴァロアの花で試したんだ」
“金色”が“赤色”に変わった理由。
「竜の魔力に反応した結果なのだと思う。だから、エドガーの娘であるヴァロアはその血脈でも在るのだから食したとて、悪い影響は無いと思う……思うが……」
細められたオッドアイが私を射抜く。
「騎士にしては間抜けているな」
「ーーーーーくそぅっ」
悔しい。
「それでも、何があるか判らないのは怖い。だから僕もそれを取り込む!」
ウィクルムが必死に花を差し出すが、答えたのはユグ。
「それは無理だ。
お前との出逢いは偶然だった。だが、……この際話すが長子ではない流れの私の子孫なんだ。だから正直に話すが、ウィクルムは確かに私の血脈だが、竜の血脈は無い。だから取り込むことは出来ないよ」
ユグが神妙な顔をして確認するように話す。
「良いじゃないか健気で」
ユグの静止を聞かず、殿下がウィクルムの花に掌を翳した。が、花は瞬時に形を失くした。
「まあ、予想通りだな」
殿下はにやりと微笑んで自身の赤色の花を出すと口に含んだ。
その様子を苦々しく見ていたウィクルムの言葉が最早少年のそれでは無くなっている。
「くそっ 本当に、ヴァロアさまは大丈夫なのか?? お前みたいな者の魔力を取り込むなど危険でしかない!
ヴァロアさまの体中に入るなんて許せない!」
あれ?
後半変な風に取れなくもない言い方をしたぞ。
「何だ。ただのヤキモチか? はっ お子様は可愛いな」
ああああああ。煽るなぁーーー……
拳を握るウィクルムが自身の花を口に含むと、瞬時に大人の躰に変化した。
「誰がお子様だ」
うわぁーーー……
「こら。そこのお子様二人、これからどうするかが大切なんじゃないか?」
ああ。女神様! 聖女様! マム様々!
その言葉を聞いて静かになった二人に心底ほっとする。
アンスと視線が合い二人で苦笑いした。
これは昼食時の話。
食事を終えたのはマムと花を食べる者たち。
話に胸焼けを起こした男性二人は食欲をなくしたのだった。
それはさて置き、行動を起こさないとならないと竜の輪廻者に会いに行くことになった。
私たち全員で。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる