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本編
双子の王女ナーイアウロと第二王女ナーイアウロ
しおりを挟む私は覚えてる。
生まれる時も、儚くなる時も。
初めから全て覚えてる。
薄い殻の中。
揺れる水に隣には同じ血の姉妹。
彼女は綺麗な輝く鱗を纏った竜だった。
外の声は、酷く焦って叫んで大変そうだとまるで人事。
ただまだゆっくりしたかったと思いながら外気の風にあたる。
何が問題なのかも解らない。
ただ生まれてすぐ母と言われる存在が儚く逝った事を知る。
そして大きな翼を広げた姉妹と同じ姿の父が、私たちを連れて大きな城に置いて行ってしまった。
まあ、それでもいいかなと、置いてかれた場所を観察する。
細長く敷かれた赤い絨毯の上に二人。
絨毯の先高い場所から見下ろす誰かが近付いて来て、私を抱き上げた。
優しげに私に声をかけて、あれ? 何で? 姉妹から離れて歩いて行く。
「どこへ行くの?」と訊くと、お前が大切だから素敵な部屋を用意してやろう。
「ユースローゼは?」と訊くと、あれは違う生き物だ。死なぬように世話はしてやる。などと言う。
はあぁ??
心底腹が立って威嚇する。
抱き上げた誰かは驚いて私を落とした。
目が……やはり呪われた子だーーー
と悲鳴をあげて誰かはそこから居なくなった。
そこからはユースローゼと二人離されず、大きな部屋に閉じ込められた。
それでもいいかと大きな四角い窓から空を見る。
朝昼晩と、空は色んな色を見せてくれる。
雨、虹、雷、雪。空は色んな綺麗を見せてくれる。
ただ二人きりのこの世界から空を見続ける日々も退屈になっていた頃のある日、私と同じ髪の色をした誰か二人が来た。
「あぁ。君たちがユースセリアの子どもかい?」
一人はユースローゼを抱き上げて、一人は私を抱き上げる。
よく似た二人はそれぞれ違う顔をして私たちを見る。
ユースローゼを抱き上げた誰かは何だか変な雰囲気をしてる。
「この子も妖精さんみたいに綺麗だよ」
この誰かは温かな空気を纏ってる。
鼻先に鼻先をすりすりされてくすぐったくてふふふと笑ってしまった。
この誰かは最初の誰かとは全然違う。同じように抱き上げられても不快に感じない。
「私の名はルイード。
ねぇ、貴女はユースセリアにそっくりだね。だけど、なぜだか叔父上が恐怖してるんだ。目がって」
そう言って私の顎をくすぐるからまたこそばゆくなって笑ってしまう。
「うーん。普通だけどなぁ?」
私の目がどうしたのかしら?
不思議に思いながら、この誰かの色んな顔が見てみたいと思ったの。
「ねぇ、 私とずっと一緒に居てくれない? そうしたらあの時の誰かが驚いた時の顔をしてあげる」
「え? いいの? 私は貴女よりも大分歳上だけれど気にしない?」
「何を気にするの?」
「ずっと一緒に居るって事はお嫁さんになってくれるって事でしょう?」
「お嫁さん? 」
「そうだよ。愛し愛される関係。こんな親子ほど歳の離れた旦那さんは嫌じゃない?」
愛し愛される関係ってなんだろう?
一緒に居て不快に感じない事?
歳が離れてるってどう言う事?
色んな疑問符が頭を駆け巡る。
「判らない。その関係。解らないけど、貴方と居るのは不快に思わないからお嫁さんになってあげる。」
後日、その意味を知ってちょっぴり後悔したけれど、この誰か、ルイードは私を優しく包んでくれる空のような人だった。
*
眠っていたのだと気付いたのは天蓋に舞う花弁の絵が目に入ったから。
この花弁は私が私として生まれた時、手ずから一枚描き加えて行く。
まるで木のように年輪で年が判るように最初の私が始めたもの。
「ルイドール」
愛しい人の名を呼ぶ。
今世、彼は民間人で、騎士となって現れた。
民間に混じった薄い竜の血筋を選び転生したのだ。
実力でのし上がり、私の前に現れた。
竜の血筋とは言え、魔力のない両親から生まれた為に伝わり難く、最初の名をそっくり付けてもらうことは出来なかったのだが、存外気に入っている。
今や私のただ一人の騎士。
そして婚約者。
最初から彼は私を楽しませる事が使命のように転生の仕方も変わっていた。
まさかの大分歳上……おじいさんだったり。
かと思えば随分歳下だったり。
予想外の同性だったり。
いつもいつも楽しませてくれる。
今世が私と釣り合う年齢だったのは、もうすぐ私たち姉妹の念願が成就するから?
貴方は何も知らないような振りをして、何でも知っていたものね?
私の好きな空色の瞳を持って生まれてきたのも偶然かしら?
違うわね。それも含めて転生先を見つけたのね?
貴方は狂戦士の弟をユースローゼに与えたわ。
ユースローゼが彼を抑える事が出来ると解っていたからよね?
父様が戦場に出てから戦が減って、終戦した。
国、民にしてみれば良かった事だけれど、貴方の弟には耐えられない事だった。
戦えない事に苦痛を感じ、爆発しそうだったのよね。
あのままだと誰彼構わず殺すただの殺人者に堕ちていたかもしれないわ。
本当に、どこまで視えているのか判らない、底の深い貴方。
「ナーイアウロ様」
「あら。今は二人きりよ?」
空色の瞳が細められ微笑む。
「ナイア……愛しい人」
ゴツゴツとした硬い手が優しく頬を包む。鼻先と鼻先をすりすりと擦られ、ふふふと笑う。貴方の癖は可愛らしい。
そうしてゆっくりと唇が重ねられ、愛を感じる口付けを交わす。
貴方は“先見の明”をその瞳に宿した賢者だった。
賢者と狂戦士。
それだけでも王たるに相応しいのはあの時の国王、お爺様よりも貴方だった。
まあ、実際にあの偏見に満ちた莫迦な人は勝手に自滅してくれた。
代わって国王に成ったのは王女である私だった。王配として貴方は立派だった。
そうして始まった転生の輪廻。
あぁ……背中の羽根瘤が疼く。
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だけど、最終目的は貴方と幸せになる事なの。
初めからそれだけが私の支え。
ねえ?
私は初めから空が好きだったの。
生まれ落ちてすぐに視界一杯に広がる青い空を見留めて、なんて綺麗なのかしらと感動したわ。
最初に貴方に抱き上げられ、貴方の肩越しに見えた空の青さを忘れられない。
賽は投げられた。
私は私らしく、想いを遂げようと思うのよ。
「愛しているわ」
零れ落ちる貴方への愛は無限。
それは永遠にーーー……。
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