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プロローグ
誰が愛を語るのか
しおりを挟む大きな世界の中の、世界と切り離された小さな王国。
竜に愛されしユーラシフラン王国。
色んな逸話がある。
王女様を見初めた竜が独占欲故に胤を産み付けた。
或いは王女に一目惚れをした竜が王女にたまごを託したとも、
王女に助けられた小竜が成竜となり、美しい青年に姿を変え王女が恋に堕ちた。とも、
真実は当人同士しか判らない。
そう言った美しい逸話が世界で数多の物語として語り継がれている。
かの国の真実は、竜に愛された優しい姫から成る竜と人との混血の王族が囲われた王国。
現在では、ただ竜の血筋が保たれ、その王族が存在することが意味を持つ王国。
政は竜が入った世代から人間中心でその子々孫々が秘密を守り、国の中心となり、混乱もなく、荒れることなく何世代と引き継いで来た。
竜の加護が在ると言われているユーラシフラン王国に攻め入るものは竜の血が入ったそれ以降これまで皆無。
それ以前は辺境地まで豊かな土地を欲して東西南北から小競り合いから大きな戦まで平和とは無縁の国であった。
それを憂いた姫が居た。心優しい姫が優しさ故に竜を従える事となり、攻め入る者は容赦なく完膚無きまで叩き潰した。
そうして平和が訪れて、姫は王女となり、その竜を伴侶とし最初の国王を産んだ。
はじまりは国民を想う心から。
けれど、そうとは気付かずいつの間にか歪み始める。
王族は居るだけで意味がある。
それで王国は平和で在り得る。それに気付いた城の人間側が王族を大切に大切に囲い過ぎ、いつの間にか“王族”は血筋を繋ぐだけの“道化師”と化していた。
それでも内情を知らない王国全土の国民にとって、王族は絶対的存在で、竜の血族だと解る竜体の特徴や名残が見て取れる王族に、竜は確かにそこに在り続けていると言う安寧の象徴で。
例え本物の竜を誰も見たことがなくてもそれは確かな証と王族を称え敬って居る。
また、竜の居た時代、精霊や妖精も居たとされていた。
確かに視る眼を持っていた少数の者たちが真実、見聞きした逸話を残していた。
だが、それも今となっては、物語と語られるだけの存在で、気薄でただのおとぎ話と成り下がっていた。
そして人間が知らない真実は、最も親密に密接に共存して居たのはこの二つの種族。
精霊界に君臨する世界樹の足元で。
精霊と妖精と竜は微睡んでいた。
精霊界と竜界は殆ど同じ大地を有していたから。
また、世界樹はその名の通り、長い手足を人間界にも伸ばし、その好奇心故にいつも見ていた。
精霊と妖精は、その性質上、密かに身を潜めて居たために、おとぎ話として語られるだけの存在となってしまったのだ。
それでも不思議なことに、その二つの種族を魅了したのは、人間界の唯人で在る乙女たち。
好意を抱くのに理由はないのかもしれない。
愛は種族など関係なく紡がれるのだ。
ただ唯一無二を見つけるのに世界が広がっただけ。
竜と王女の血脈を持つ王族。
居るとされているが誰も見たことのない精霊と妖精の物語。
王国に隣接した魔森に巣食う腐敗したモンスター。
大きな世界の中の、世界と切り離された小さな王国では、不思議に彩られた神秘の物語が詰まっている。
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