光輝く世界で別れて出逢う~世界樹の子どもたち~

なぁ恋

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本編

※亡霊の呟き

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※不快な表現あり※


*******


ゴキリ
と、体内で大きな音が響いて、私の意識は途絶えた。


そうして、意識が戻った時、私の身体は無くなっていた。

傍には私にそっくりな男が居て、けれど、私ではなく。それが私の息子で在ると認識するのに時間を要した。
息子におぶさるようにして私は私を
ゆっくりと思い出して行く。

そうして理解する。
私は死んだのだ。と、だが息子におぶさり過ごす日々の内に私を取り戻して行く。
息子ロームは、私に順従だ。
それは生まれて間もなくから。

私は人とは違う歪んだ性癖を持っていた。
理解してくれる者も殆ど居ない。理解して貰おうとも思ってはいなかったが、

私は少年が好きだ。
小さくて可愛い。
柔らかくて甘い。
そして、何も生み出さない。
最高の愛玩具。


故に、自由に出来るそう言う者が欲しかったのだ。
だから妻を迎え、子どもを産ませた。
幸い初めの子がローム。
生まれて間もなく、言葉での教育洗脳を始めたのだが、それに気付いた女が母親であるからと邪魔をした。
ただ私の子を産ませるために娶った女だ。
見た目の美しさから貧民街から拾って来た女。

まだ子どもを作ろうと思っていたが、存外母性と言うものは厄介で面倒だ。

だから、なぶり殺した。
あの木に吊るして、息絶えるまで殴り続けた。
私の拳は岩のように硬い。
に、そのように鍛えたからだ。
女の悲鳴はただ高すぎるだけでつまらん。
やはり、少年が一番だ。

静かになった女を、木の根元に埋めた。
この家は街の外れ、けれども、密集地に在る。
太い幹と頑丈な枝を気に入って木を室内に引き込むように作った家だ。
木を一つの壁として、小さな箱型の部屋を作り、その周りにもう一つ取り囲むように部屋を作った二重構造。
声が漏れにくくなっているのだ。

だからどんなに泣き喚こうが扉を閉めてしまえば外には聞こえない。
そうして攫ってきた少年をこの木に吊るして可愛がった。
息絶えれば木の根元に埋めてしまえばいい。

そう言った家だったのだ。

ロームは思うように育たなかった。
子どもの頃は女に似て可愛い容姿をしていたのが、私に似てきたのだ。
無骨で細身。身長が伸びて男臭く成長し完全に興が逸れた。
それでも鬱憤ばらしに殴りたい時に殴った。
教育のお陰でに悦を感じるロームは恍惚とし喜んだ。

父親として、息子を喜ばせることは義務だ。
せめてあの女に似ていたならまた違った愛情を注いでやれたものを。


ある日、ロームがこっ酷く振られた。その瞬間、心に空洞が出来た。
おぶさるだけだった私はその空洞に入り込み、気付いたのだ。
ロームは私に適した“器”で在ること。

あの“少年”には感謝しかない。
ロームの心を壊してくれた。
私でもなし得なかったことだ。

そして私を完全に受け入れたロームは、私の意思に沿って行動するようになる。
その過程で“意識”でしかなかった私の存在が、ロームの“意識”と交わり私と重なり、私と成り得たのだ。

あと少し、あと少しで、完全に私が私と成れる。
この世に出来るのだ。

だが、邪魔をする存在が在った。

私のお気に入りのあの家が、“浄化”され始めたのだ。
そうして、いつの間にか“結界”が施されていた。
まだ辛うじてはその結界内に入ることが出来た。
故に私はなりを潜め、結界を穢す手段を考えた。


初めは戸惑っていた行為殺人を嬉々としてこなすようになったローム、ならば、最後にと温めていた“心”をあの場所で壊せば結界が緩むのではないか?
気弱だったロームが招き入れてしまった女を追い出し、結界を解く。
そうすれば私はまた、楽しめるのだ。

ロームは私に従順なのだから。
私にその器を明け渡すことさえ厭わないだろう。

そう考え、結界が緩んだ隙に、“心”を攫い室内に入ったのだ。
女の気配がなく、女は居なくなったと単純に考え踏み込んだ。

するとどうだ?
柔らかい。
甘い匂いがするではないか。

堪らず奥の部屋に進むと、一人の男と、少年が居た。

そこで少年と目線が合い、ロームが動揺する。
私も見覚えがあった。



「なぜ?……なぜ、お前は生きて……いるんだ?」

ロームの動揺に引き摺られる。

「古金貨の……」

少年は覚えていた。
目の前のを蹴り倒し、邪魔をされないよう壊しておこう。

「やめろ!」

少年が叫ぶ。
あぁ、絶望の色が瞳に見える。
このが在れば少年は抵抗出来ないのだと理解して嬉しくなる。

「そう、だね……問題は君だよ。私の“愛”が届かなかったんだね……可哀想にーーー
あぁ……、“心”は、最後なんだ。まずは、“頭脳”を愛してあげなきゃ……
君を、愛してあげ……る」

少年のその表情に興奮する。

「あぁ、だけど……金貨が、足りない」

握りしめていた手を離すと、金貨が音を立て床に散らばる。

「うん。まあ、もう先払いしてるから……いいか」

手を挙げ、逃げようとした少年の首を掴む

「くぅ……」

苦しげに顔を歪める。
あぁ……なんて柔らかい首……

「……離せ
ダメだよ。彼には前途洋々な未来が待ってるんだからっ」

足にへばり着くが理解出来ないことを言う。

「「……何故?……私は、“愛”を教えて、“愛”を知って貰うために、“愛”を与えるために彼を“愛”するだけだよ」」

私の言葉に続けてロームが語る。

「父の“愛”を教えてあげるんだよ。それは深く深く深くふかく……強い強い強いつよい“愛”だよ」

それは同等で崇高な……

「“愛は偉大”なんだよ」

「何を……言ってる」

少年には難しいのだろうか?

「君は可哀想な子どもだよ。“愛”を知らないのだろう? 
だから、“愛”を教えて上げるんだよ。
“愛”は痛くて辛くて苦しいけれど、それはそれは素敵なものなのさ」

愛を教えてあげなければ可哀想だ。

「違う! 愛は、素敵だよ。
だけど、温かくて優しくて美しいものだっ」

がまた理解出来ないことを言う。

「そうか、まずは君を吊るしてあげよう」

愛で縛るのだ。
手を離し、麻袋に入れていた麻紐を手にする。

「「愛を教えるのが、の務めさ」」

興奮し、身体が熱くなる。

「ダメだよ!」

が邪魔をする。だが、私を止めることなど出来ないのだ。

「愛を知らないのは可哀想なことだ」

手に馴染む麻紐のゴワゴワした感触に脳天から快感が降りてくる。

「沢山、愛してあげよう」

「お前は僕の“父親”じゃない!」

少年の絶望に彩られた瞳が揺れる。

「「いいや、“愛”を与えられるのは“父親”だけだ。君を、子どもを愛してやれるのは、ちちおやだけだ」」

そう。
真に“愛”を理解して居るのは私だけだ。
その想いを妨げるものはだけだ。

やはり、邪魔者は先に壊しておこう……


だが、身体の力が奪われる感覚と共に、結界の主が現れた。

女は
本当に
邪魔な存在だーーー……




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