光輝く世界で別れて出逢う~世界樹の子どもたち~

なぁ恋

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本編

小さな想い②

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「さあ、小さな騎士様。落ち着いたかい?」

その言葉に、自身を見ると服装が騎士服のまま、それは今の丈にあったぴったりのもので、見た目を想像して恥ずかしくなる。
騎士を真似た子どもは、さぞかし可愛らしく見えるだろう。

「失恋なんて、何かの誤解かもしれないよ? 今の君の姿はとても素敵だもの」

「彼女は、年上なんだ。」
「それは、素敵だね」

「彼女は、女性騎士なんだ。」
「だからその格好なのかい?」

「……お城に入るために必要だったんだ」
「お城に。王様が崩御されたんだってね。ここへ来る道中に聞いたよ。
それに、変な噂もあったな。城が崩れたのに直ったとか、竜が姿を現したとか」
「全てが本当のことだよ」

僕が言うと、真剣な表情でそうなんだ。と頷いて、

「だからマムは居ないのかい? 怪我人でも出て助けに行っているのかな?」

そうだ。彼はマムを訪ねて来たのだった。

「求婚するの?」
「そうだよ」
「なら、僕も便乗させてもらおうかな。マムは僕の騎士様と一緒に居るんだ」

ウォールウォーレンは、目を瞬いて、微笑んだ。

「もちろんだよ!」









「お前たちは誰だ?」

低い、小さく邪悪の混じった声が室内に響いた。

声の主は深く鍔の広い黒い帽子を被ってその表情は見えない。黒い服装の、長身の細い男。
どこかで聞いたことのある声……。

「……ここ……は、もう返してもらう予定なんだ……それを、確認しに来たのだが、女は……居ないのか?」

帽子の鍔から覗く細い双眼が僕の視線と重なる。

「なぜ?……なぜ、お前は生きて……いるんだ?」

その言葉で、死にかけた時の記憶が瞬時に浮かび、鳥肌が立つ。

「古金貨の……」

口にして後悔する。
男は、言葉遣いや見た目よりも素早かったのだ。

ウォールウォーレンが肩を蹴られて壁際に叩き付けられ、その大きな足で首元を踏みつけていた。
そのまま体重をかけられたら首が折れてしまう。
死んでしまう!

「やめろ!」

僕の言葉にピタリと動きを止めた男が、僕を見る。
足を床に戻し、こちらに体を向けた。
口元が怖いほどに弧を描く。
それは笑顔なのか、不気味で恐ろしい。

「そう、だね……問題は君だよ。私の“愛”が届かなかったんだね……可哀想に」

ずるりと、音がして、男の手を見ると大きな麻袋を引き摺っていた。

「あぁ……、“心”は、最後なんだ。まずは、“頭脳”を愛してあげなきゃ……」

麻袋を離すと、どさりと重い音が響き、その口が開いた。そこから覗く人の髪。

「君を、愛してあげ……る」

恐ろしく、歪んだ心。
禍々しく暗く歪んだ想い。

それは国王の“呪詛”と似ていた。

「あぁ、だけど……金貨が、足りない」

男が麻袋とは反対の拳を開くと、チャリンと、金貨が床に跳ねた。
丁度三枚。

「うん。まあ、もう先払いしてるから……いいか」

と、拳を僕の顔面目掛けて振り下ろして来た。
警戒していたから、難なく避けたが、反対の手で首を掴まれ締められる。

「くぅ……」

あの時の恐怖が、頭を過ぎる。
絶望が体を固くし動けない。

「……離せ」

男の片足にウォールウォーレンが縋りついていた。

「ダメだよ。彼には前途洋々な未来が待ってるんだからっ」

痛みに耐えて額にうっすらと汗が吹き出ていて、顔色も悪い。

「……何故?……私は、“愛”を教えて、“愛”を知って貰うために、“愛”を与えるために彼を“愛”するだけだよ」

男は吃っていた言葉遣いが流暢になり、丸まっていた背が伸び、帽子を脱いだ。

「父の“愛”を教えてあげるんだよ。それは深く深く深くふかく……強い強い強いつよい“愛”だよ」

現れた疲れた顔、細長い双眼は深い闇の色。口調は流暢に己に酔っている。

「“愛は偉大”なんだよ」

ウォールウォーレンと同じ言葉なのに、意味はまるで違って聞こえる。

「何を……言ってる」

首を絞める男の硬い腕を両手で掴む。

「君は可哀想な子どもだよ。“愛”を知らないのだろう? 
だから、“愛”を教えて上げるんだよ。
“愛”は痛くて辛くて苦しいけれど、それはそれは素敵なものなのさ」

恍惚とした表情。

「違う! 愛は、素敵だよ。
だけど、温かくて優しくて美しいものだっ」

ウォールウォーレンの言葉は男には届かない。
まるで僕と二人だけのように振る舞う。

「そうか、まずは君を吊るしてあげよう」

首を離され床に落ちる。

「ゴホッ」

体を強かに打ち、喉が燃えるように痛い。
子どもの体はなんと脆いのだろう。

「愛を教えるのが、の務めさ」

それは恍惚とした表情の男の禍々しさは、まるで“毒”。
ギョッとする。
丁度視界に映る男の股間が膨らんでいた。

「ダメだよ!」

ウォールウォーレンが必死に右足に縋るも、まるで見る様子もない。

「愛を知らないのは可哀想なことだ」

両手で広げた太い麻紐がピンと伸ばされ、男が嗤う。

「沢山、愛してあげよう」

まるで当然のように言い退ける。

「お前は僕の“父親”じゃない!」
「いいや、“愛”を与えられるのは“父親”だけだ。君を、子どもを愛してやれるのは、ちちおやだけだ」

父親が問題なのか?
男の目は血走り、口端には細かな泡をふいている。
異常な精神。
この男に何人もの少年が殺されていた。
現に僕も死にかけた。
その記憶が心を蝕む。

10歳は無力だ。
僕は、無力だ!





「お前は誰だ。私の大切な人に何をしている」

この、声は……

「ヴァロア様……」

古木の前に立つ美しき金色の乙女。

「ウォール!!」

マムが赤い髪を振り乱してこちらにかけて来る。

「あぁ、女。やっと来たか。この家は引き払ってもらうよ。」

まるで先程の暴力的な人物と同一人物とは思えない口調と表情でマムに語り掛ける。
マムは足を留め、

「……まだ。了承していない」

至極冷静に答えた。

「マム……」

ウォールウォーレンが真っ直ぐにマムだけを見つめてその愛しい名を呼んだ。

「持ち主が言うことには素直に頷くのがだ。だ」

男はまた、違う雰囲気で言葉を発する。

『だから、職を手にする女は生意気でいけない。。私の言う通りだったろう?』

先程とはまるで違う声で独り言ちる。

「これは、“死霊”だわ」

僕の目の前に飛んで来たロア様が小声で言った。

「死霊?」
「そうよ。あの男は取り憑かれてるのよ……なんだろう? あの男にそっくりな……」
「父親?」
「そう。それだわ」

静かに合流したユグ様が眉間に皺を寄せ、

「“死霊”とはまた厄介な相手だ」

と、呟いた。









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