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本編

見えない心③ ~アンス~

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平凡の見た目の俺は、見た目と同じで本当に普通の子どもだった。だが、深く深く愛してくれる母親が居たので、俺は幸せだった。
どんな時も幸せであれと、母の遺言がそのまま生きる道標となった。
だから前を向いて、己の心のままに生きて来た。

俺を好いてくれる相手には誰であれ心を傾けた。好いてくれて居るのは何故か解る。それが男であれ女であれだ。だが、物心がついた幼き頃から恋愛対象は男。誰をも誠心誠意俺なりに愛情を注いだ。
けれど、最後には誰もが俺から旅立って行く。寂しいけれど、仕方ないとも思っていた。

女であれば友情を育めた。同性愛者であることを隠さない俺に近付く異性は、そう言った者たちを愛でるのを好きな女性、又はたんに一人の人間として好意的に感じて貰え友人となった者。ヴァロアは後者だ。

ヴァロアと初めて出逢った時の不思議な感覚は、誰よりも近しい友人になった今でも鮮明に覚えている。
彼女の内に、ヴァロアと彼女とは違う二つの魔力を感じたのだ。

この世界は誰もが魔力を持っていて、それでも誰もが扱える訳でもないから他人の魔力を感じる者はごく一部の者で、自然と視える眼を持つ者はそれなりに優遇される。
だから隊長にもなれた訳だが、視えるからと言って魔法を扱える訳ではないからただ視えると言うだけのこと。

ヴァロアの魔力は人とは違っていた。
澄んでいてその容姿のように美しかった。
だが、内なる魔力は傷付き小さな光として存在していた。
ヴァロアの魔力が内なる魔力を包み込み、癒しているように視えた。

俺はそう在りたいと思っていたから、自然とヴァロアを特別扱いするようになって行った。それは無意識ではあったが。小さな噂は長く太い歪んだ真実となる。

だから、ヴァロアは唯一俺の異性の相手と思われていた。あの容姿なのに男は近付かず、同様に俺にも近寄らなくなった。
俺はそれでも良かったが、ヴァロアは婚期を逃すと心配した。ヴァロアは平気だと笑ってくれたが……。
女性騎士を目指した時点でその覚悟はある。と、女性騎士の誰もが口にする。だが、実際は婚約者が居る者が殆どだ。ある一定の年月を騎士として務め、その経歴を持って嫁入りする。
それで得をする者も居ると言うことだ。
だから護りの万全な城の中で姫様たちの護衛の任務に着くのが通常の女性騎士の役割。
やはり女性だからと前線に立たせることはない。

平和な現在では戦がある訳では無いので、主に魔物や盗賊などの討伐。腐敗したモンスターの住まう魔森の護りは辺境伯を中心に魔法騎士たちが担っている。

ヴァロアは亡き父親に近付きたくて女性騎士となった。
俺はなりたくてなった。崇高な考えでなくてもいいと思うのだ。

そして彼女のお陰で見つけた運命の人が、アウローレンス殿下。だが、彼の運命はヴァロアの内に居る、あの傷付いた魔力。あれは、ヴィクトルの“御魂たましい”なのだ。

それを妖精たちに教えて貰った。

結果、“ヴァロア”は“ヴィクトル”ではない。
けれども、アウローレンス殿下はそうあって欲しいと望まれていた。
惚れた弱みと言うのか、どうしても彼に添った考えになってしまい、ヴァロアを傷付けた。

ヴァロアとは、もう数年を共にする友人だと言うのに、まだ関係して数日の殿下つがいに寄り添う俺は、正しいのかそうでないのか判らない。

そう言った諸々があった後に、国王崩御。そして竜に目覚めた殿下。
一度は治まったが、二度目の変体の時、興奮した殿下がヴァロアを傷付けようとした。それは駄目だ。
咄嗟に身体が反応し、二人の間に飛び込んだ。

肩口に強烈な痛みを感じ、ヴァロアに寄り掛かる。

俺は誰も、俺が大事な人が傷付いて欲しくないんだ。

思いの丈は誰もが違う。
だけど、誰もが幸せである世界があってもいいじゃないか。

ヴァロアが何かを叫んでる。
霞む視界に映る大きな影。アウロ様の竜体。
あぁ、泣いている。
自身の“呪詛”に躰を絡められ、動けないのに、動こうとして、呪詛も魔力だから俺の目には形として視える。
竜体の内のアウロ様そのものも視えていた。
だから、恐ろしくはなかった。
彼が何であれ、愛しく想うことは止まらない。

意識が途切れる瞬間。

ヴァロアの身体が淡く光ったのが視界に映って、そのまま瞼を閉じた。








───貴方は、一生“あの人”を愛し続けられる?

そんな声が聞こえて来て、

当たり前だと答えた。

俺は、“あの人”を愛している。
どんな出逢いでも、どんな過去でも、どんな見た目でも、どんなに性格が悪くても、“アウローレンス”と言う魂を愛している。

それを言葉にするだけで、俺は、幸せな気持ちになった。


───そう。
なら、

その声は、静かに決意したように語る。

───私は壊れかけている。
あの子ヴァロアの内で癒されながら、けれども、あの子もから私はいずれは消滅しなければならないと覚悟していた。
覚悟が出来ても、悲しくて、悲しくて、泣いてばかり居たの。
だけど、貴方が現れて、救われたのよ。ヴァロアも、私も、あの人も……。
だから、一緒に居るなら貴方がいいわ。








請われたら叶えるのが俺だ。
その柔らかな声の主が誰かなんて関係ない。

俺がいいとおもうなら、来るといい。

俺は、俺と幸せになりたいと想う者を拒まない。







───馬鹿ね。
“あの人”は嫉妬深いのよ








ふふふ。と、微笑む美しいヴィクトルの御魂ひかりが俺を包むのを感じた。





────あぁ……
なんて心地よい“心”なの。
私にも解る。
貴方は癒しそのもの。
これから、よろしくね……







愛する者を中心に、は生きて行く。


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