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本編
唯一無二の貴女と貴方
しおりを挟む急いでアンスの後を追い掛けて、その一連の二人の行動をこっそりと陰で見ていた。
拍子抜けするほどあっさりと解決した竜の暴走。
まるで愛の営みを見たような気恥しさまでが一連の流れとなっていた。
「……もう、ヴィクトル云々は蚊帳の外ね」
殿下はアンスを選んでいた。
けれど、あれはまだ無意識なんだろうなぁと、憶測する。
「あいつの引き取り手があって良かった」
ウィクルムが満面の笑みで言う。
それには苦笑するしかない。
「でも、ヴィクトルと言ってたわ。その為に転生している訳だから……そう簡単にはいかないと思う」
「だから、人間の心って複雑なのよね」
ロアが溜め息と吐き出した真実。
「素直になれば簡単なのにね」
本当に。
「僕はいつも素直ですよ。ヴァロア様。貴女を貴女だから僕は傍に居たいのです」
それはそれは美しく甘やかな微笑みを向けられ、熱くなる頬。
免疫、免疫が欲しい……。
「そうだ。語らなければ気持ちなど伝わる筈がない。ロア。愛しているよ!」
ユグも負けじとロアに寄り添う。
「私も愛しているわ! 最初の出会いはあれでしたけれどね」
にっこりとロアがユグを抱き締める。
「うむ。盛大に反省もしている。だが、やっぱり幸せだ」
始まりの祖は、本当に甘々だ。
私もこんな風になるのかな?
私も??
あぁっ……、
毒されてる!
「ヴァロア!」
私を呼ぶ声に振り向くと、同じ隊の一つ先輩のビィアリル=サーソン。通称ビィだった。
「アンス隊長を見てない?」
あぁ。巣籠りしましたよ。とは言えない。
「やつなら、殿下と部屋に籠った」
ウィクルム。空気読まない奴がいた!
「あぁ……」
あ。ビィの表情。二人のこと公然の秘密だったのか。
「あのね……竜を間近で見たの。……凄かったわ。それで確認だけど、あの竜って、アウローレンス殿下よね?」
「そうです。アンスが諌めて連れて行ったのよ」
「なるほど……。隊長、指示だけはして行ったのよ。王族たちの確保を、と。それは難なく終わったの。これからどうするか指示を仰ぎたかったのよね。まあ、瓦礫の撤去等、城の安全確認をする辺りだとは思うのだけれど……葬儀は二の次になりそうね」
「城が直れば問題はなくなるか?」
ウィクルムが唐突に問う。
「それは、そうね。」
当たり前のこと言われて苦笑するビィ。
「問題ない」
ウィクルムが両手を空へ翳し、
「「花よ修繕を願う」」
ウィクルムの言葉で、ユグドラシルの花が空から大量に舞い落ちて来た。
それは圧巻で、とても美しい光景。
崩壊した箇所に埋もれるほどの金色の花が降り注ぎ、一際白く輝くと、次の瞬間には元の城の姿が現れた。
「嘘でしょ」
確かに服になったりしてたけども、大きな崩壊した建物まで直してしまうとか、規格外にも程がある。ありすぎる!
「これでヴァロア様の手を煩わせることがなくなった。帰ろう」
「かえ……れる訳ないでしょう!」
顔面蒼白になるのが判る。
ビィが呆然としていて、
「貴方、魔法騎士なの?」
と、ウィクルムを見上げた。
「……その枠に……入るのかな?」
私は挙動不審気味に答えた。
魔法騎士とは、また私たちとは違う部隊となる。
もちろん、今日の為に国の護衛の為の部隊以外は招集されている筈で、だけど、恐らくは、こんな魔法は誰も使えないだろう。けれど、この方が不審がられない……筈?
案の定ビィの視線は胡散臭そうに眉根を寄せている。
「魔法騎士とは騎士服が違うようだが?」
腰の剣に手を添えて尚も尋ねる。
全隊デザインは同じでも色が違うのだった。女性隊の私と同じでは変に決まってる。失念してた!
「「忘れろ」」
ウィクルムが声を出す。と、その手には金色の花が一輪。ビィの目前で霧散した。
「……それじゃヴァロア、報告は頼むわね」
少し虚ろな目をしたビィがそう言うと、踵を返して歩き出した。
「彼女、大丈夫なの?」
「大丈夫。僕の記憶を全て忘れているだけで、実害はない」
「そう……」
信じるしかないのだけれど。
最早、私の食料である花は万能なものらしい。
「アンスに、報告しなきゃいけないかしら?」
目の前の現実に、周りも騒がしく動き回っている。
この様子だと、明日の葬儀は執り行われるだろう。
今日の王族のお別れは滞りなく終わったと誰かが叫んでいた。
「だったら帰ろう」と、ウィクルムが私の腕を取る。
「ダメよ。屋敷にはまだ帰れない。寮に帰ることになる」
どちらにしろ、指示は仰がないとならない。
なら、アンスのところに行かない訳にはいかない。
んん───……。
「花を使うといい」
ユグが既に一輪、手に持っていた。
「え?」
どうやら、伝言を託すことが出来るらしい。
いや、本当になんなの?
万能過ぎて笑えてくる。
なら、巣籠りから一度出て来てもらおう。
「そんな面倒なことしなくても、会いに行けばいい。問題解決は早い方がいい」
ウィクルムの感情の見えない声色にドキリとする。
「どう言う……」
「先延ばしにしてもいいことにはならない。僕は貴女を手放す気はないし、あちらはあちらで無意識にも選んでいる。自覚させるのも愛情だ。それに……」
背後をウィクルムの温かみに包まれ、その両手が私の腹部に触れ、
「ヴィクトルが、望んでる」と、言った。
私の魂に包まれた母親。少し前、彼女の感情が動くのを感じたことを思い出す。泣いていた。
いっそ、私が彼女の転生者ならことは簡単だったろうに。
前世が親子だろうと、肉体的には違うのだから障害もなかったろうに。
「何を考えているか想像つくけど。僕は貴女、ヴァロア様に出逢えて幸せです。正直、僕だけを見て欲しい。だから障害は排除したい」
背後の温もりが離れ、体を反転させられた。ウィクルムと向き合う形となる。
「ヴァロア様。貴女は私の唯一無二の人だ。少しだとてあいつに奪われる訳にはいかない。出来うる限り早く決着をつけたい」
ぶわぁ と、顔面が熱くなる。
唯一無二とか。
「どうか僕の我儘ですが、叶えて欲しい。早く僕だけのヴァロア様になって欲しい」
輝く金の瞳にみつめられ、身動きも、息も出来ない。
あぁ。これは逃げられない。
自覚してしまった。
もう誤魔化せない。
見つけた時は幼く、こんな想いを抱くなど思いもしなかった。
私は、ウィクルムを想いはじめてる。
私にとっての貴方も唯一無二なのだ。
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