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本編
国王崩御
しおりを挟む国王崩御の知らせが国中を駆け巡ったのは、魔力契約書を破棄した翌朝であった。
「まさに、呪詛。その結果……」
「自業自得だよ」
私の言葉にのほほんと応えるウィクルム。
そして、その日の内に、アンスから連絡が来る。
葬儀の警備などの為、城に来て欲しいとのこと。
要するに招集が下された。
休みの者も全ての城内の騎士たちが呼び出されている。
「……暗殺とかにならない?」
心配だけが募る。
「ならないでしょ。あれはいわゆる自殺の部類だ」
平然としているウィクルムさん。
何故? ロアに手伝って貰って金色の花で加工した騎士服を着込んでいますけれど?
私は自分のものに袖を通していた。置いててよかった。て、いや。
「いや、似合うけれども。何してらっしゃるの?」
「え? 心配だから紛れ込むの」
えええええ?
いや、いやいやいや。
「いわゆる、あなたが犯人ですよね?」
「……自己防衛の部類だと思うぞ」
しれーっと、してますけれど。
「……それに、紛れ込むって無理でしょう??」
「いや。魔法があるから」
平然と言ってのける辺り、もう言うことなんて聞かないですよねぇ。
「我らも行くぞ!」
妖精ズよ。
だーれも聞いてはくれません。
もう諦め半分で出かけます。
流れとしては、
一日目は城内での親族のお別れをする。
───前世からの繋がりを尊び。
二日目は国を上げての葬儀。
───今世の関わりを労り。
三日目に親族での埋葬。
───来世への旅立ち。
今日は竜の血族の集まり。
そう。アウローレンス殿下と合間見えるのだ。
ブーツの紐を結びながら溜め息。
本当に、どう説明する?
あの魔力契約書にはアウローレンス殿下の名も記してあった。
「なるようになる」
励ますような言葉と笑顔に、ちょっと安心して、って、原因は、貴方ですからっ!
出掛ける前から疲れてしまった。
「さてっと、用意出来ましたので、行きましょうか??」
「あぁ。やってみよう」
ウィクルムが私の腕を取ると、瞬間くらりと風景が歪む。
「よし。成功したな」
な。ななななんだぁ???
城門が見える大きな木の下に佇む私たち。
「え?」
「世界樹の根経由で行けるかな。と、試してみた」
えええぇ……
実験。結果オーライではあるけれども。
「はぁ……そうね。こうなると便利ね」
もうなーんも言えません。
妖精ズは頭上でキャッキャッとはしゃいでる。
この小さな姿になると行動まで幼くなるのかしら ?
門前まで行くと、二人の内一人があの夜の門番兵だと判り頭を下げると、それに応えてくれた。
改めて敬礼し、所属を伝え名乗ると、その場で足止めされる。例の門番兵が走って城内へ、少し待つとアンスを伴い現れた。
「おう! おかえり……ん? 誰だ?」
ウィクルムを見て険しい顔に、
「あぁ、花ちゃん!」
ロアを見つけて微笑んだ。
何とも忙しいアンス。
「見えるんだ?」
「「一度見ちゃうと“視る瞳”に変わるのよ。私がこっそり“祝福”しちゃったしね」」
と、ロアが得意げだ。
あ。アンスの様子に驚いてる門番兵。
花ちゃん!
なんて言って、ロアの見えない二人には私のことを言ったのかと誤解してしまいそう!
「団長! この子たちは私たちにしか見えません!」
こう言っても解る人にしか判らないからいいかな。
アンスが、あぁ。と気付いてくれた。
「すまん。取り敢えず、中に入ってくれ、その茶髪の騎士のこと、諸々の報告が先だな。他の者は既に配置済みだ」
言いながら城内に入ると、忙しなく人間たちが走り回っているその横を通り抜け、騎士寮と隣接された騎士校舎の、隊長室に通された。
ポンッ と音を立て、妖精ズが姿を現す。
「もう大丈夫なんでしょ??」
ロアがアンスの肩に乗る。
「あぁ、構わない。まあ、座れ」
向かい合わせにソファに座る。
「ロア。ロア? その人は?」
思いっきり座った目でアンスを睨むユグ。
「アンスよ。この人純粋なの。可愛いものが好きで綺麗なものも好きね。で、今は王子様の情事のお相手」
思いっきり咳き込んだアンス。
「はぁ? ヴァロア様に操を立ててたんじゃないのか?」
ウィクルムの目が据わってる。
「仕方ないよ。あの人、愛に飢えてるから与えてくれる人に甘えてしまったのね」
ロアが悲しい顔で俯くから、ユグがその隣に寄り添う。首元まで真っ赤に染まったアンスの肩に乗る二人。
「……なんだ。俺は慰められる限りあの方の傍に居たいと思うが、ヴァロアの邪魔はしないぞ。あくまでもあの方の求めているのはお前だろう?」
「だから違うって言ってるでしょ! 陛下は“ヴィクトル”を求めているのであって私ではないの!」
私の勢いにアンスが驚く。
「いや、すまない。どうにも俺はあの方を中心に考えてしまう」
「お前は面白い人間だな」
関心したように頷いたユグが、アンスの首元に寄ってその首に小さな手の平を当てる。
「それに、あぁ。無意識にだな。あいつはアンスを“番”に選んでいる」
「「え?」」
思わず私とアンスの声が重なった。
「“マーキング”に“魔力”が重ねられている。ウィクルムがヴァロアにしたことだな」
「え? そんなことしてたの?? あの“魔力契約書”と同じ効果?」
「あれみたいに呪詛されてる訳では無いよ」
「ちょっと待て。“魔力契約書”とはなんだ? “呪詛”とは?」
あ───……失念していた。
睨まれて、上司への報告義務が頭をよぎる。
「僕が国王陛下から送られた王子との婚約及び男爵復帰の魔力契約書を破棄したんだ。それに呪詛が施されていて、魔力が国王陛下に返った結果が今日の葬儀に繋がる」
犯人が自首しました。
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