光輝く世界で別れて出逢う~世界樹の子どもたち~

なぁ恋

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本編

癒し手と元婚約者①

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貴女のことが忘れられない。
貴女のことばかり考えてしまう。
私は初めから貴女のことが好きでした。





小ぶりの顔はとても可愛らしく、真っ赤な長い髪はぶわりとボリュームがあり、走り出すと跳ね回る子犬にも見えた。

僕は男爵家の次男で、既に彼女の辺境伯家へ婿入りすることは決まっていた。

体は小さくて見た目も女の子みたいで、それに、なんの特技もない。だから僕とは正反対の三男は家に残され、僕が婿入りすることとなったのだ。と、最初は思っていた。マムの一言で、請われて入家したなどと夢にも思っていなかった。


この、ヴォクシー辺境伯家は、国と魔森の境を代々護る家系。
ストーンを生成しバリアーを張り巡らす能力を持つ一族。
今世の跡継ぎが女性で、婿を探していた。
そして、僕が選ばれた理由は、本人たちには知らされない、歳の頃が同じくらいの子どもたちが集められたお見合いのお茶会でのこと。
僕は彼女。マリーム令嬢に、選ばれたのだ。

庭の誰にも見えない端の方で三男ムアトに馬乗りになられていた時、マムが現れた。

令嬢なのに、ドレスではなく、ズボンを身につけて、真っ赤なふわりとした長い髪をふわふわさせて、その髪には沢山の葉っぱが埋もれていた。

「何してんだ?」

そう言ったマムに、弟はさも当たり前のように、

「兄がどうしようもないから、躾てるんだよ」

「ふーん。だけど、それって、弱いものいじめなんじゃないの?」

え?
びっくりした。
弱いものいじめ。って……僕って、どうしようもないな。涙が溢れて来た。

「は? 何を言ってるんだ? 家族間でいじめなんて言葉使わないだろう。兄はどうしようもなく無能だから、そのことを教えてやってるんだ」

「へえ。で、お前はその兄上より出来がいいと」

「そうだ。体も大きい。お父様とお母様もそう言っている。俺は三男だが、無能な次男の兄よりも次男として相応しいってな」

「ほー。次男として。な。では、長男がいるのだろう? それと比べてお前はどうだ?」

ムアトはキョトンとして、

「長男は跡継ぎだ。比べる立場でもないし、兄上は素晴らしい跡継ぎだ」

「なら、お前も無能な弟なんじゃないか?」

「はぁ?!」

「だって、人様のおうちの庭で、暴力行為。いじめ。そんなの、ここの家長が知ったらどう思われるかな?」

理解出来たのかどうだか、ムアトは途端に焦り出す。

「そんなの、知られなければいいんだ! お前と兄が言わなければ判らない!」

の言葉に、アムはにやりとほくそ笑み、

「残念。ここは私の家だ」

と、胸を張った。
ムアトは弾かれたように僕の上から跳び退き、

「な。ななな……」

目を白黒させている。

「まあいいや。黙っていて上げるよ。その代わりその子は私が貰うよ? 生家で大事にされてないみたいだし、家には私しか子どもが居ないから欲しかったんだよね」

にかっと笑うマム。その笑顔の眩しさに、僕は一瞬で虜になった。

その後、あれよあれよと言う間に、僕は生家から出され、婚約者として婿入りする為に共に生活する事となった。

マムは、そのことを正しく理解出来ていなかったんだと思う。
現に僕は子分扱い。

体力お化けのマムに、一緒に野山を駆け回り連れ回された。

とてもとても伸びやかに育てられたマリーム。マム。

彼女はそれで良かった。自由は子ども時代だけ。それがこの辺境伯の仕事。

ヴォクシー辺境伯。お義父様に、僕は早くからその役割を教えられていた。

ヴォクシーは、個人の魔力が莫大で、一人では支えきれない程なのだと、なのでその魔力を共に支え歩むのが伴侶の役目。

その役目が出来るのが、魔力を受け入れるからだを持つ者で、その相手を無意識ででも選ぶのがヴォクシーの当主。
器を選ぶ。それは生涯を共にする一生を決めること。
何故なら、魔力と器は循環し続け、一心同体となる。それは寿命も同等となると言うこと。

あの時、どんな形であれ、僕を手元に置くと言ったマムは、無意識に僕を選んだのだと言う。

その魔力を媒体に、この国の境目、魔森のストーンは力を発揮出来るのだ。

現ヴォクシー当主とその伴侶のお義母様は、静かに魔力を練り上げストーンを維持している。
故に、代々伴侶と決まった者たちは、その瞬間から例外なく生活も共にする。


国境にある魔森は、それはそれは広範囲で、魔森とは、腐敗したモンスターの苗床であるのだ。

腐敗したモンスターとは、人とも獣とも竜とも精霊とも違う生き物。
この魔森の奥に入り込んでしまった者の成れの果て。
元は、人であり獣であり竜であり精霊であった者たちの巣窟。

何故そうなるのか解明はされておらず、ただひたすらに、国への侵入を防ぐ。
解明するよりも侵入させぬよう、護りに徹していた。

人と獣は理解出来る。だけれど、竜と精霊は眉唾物だ。
竜は王家の血筋だから存在するのは知っている。精霊は居るとされているが、見たことはない。

それらが存在するかどうかは本当に判らないけれど、魔森に存在する腐敗したモンスターは現実に居るのだ。
要は、実際に腐敗したモンスターは居て、それを侵入させない。魔森に人間が入らないようにする。

それがヴォクシー辺境伯の役割。
僕は子どもながらに十二分にその役割を理解していた。

なのに、
その理解は子どもだからと言い訳の出来ない失敗を犯す。

僕はどこまでもマムに弱くて、言われるままに行動していた。正すところは正さなければならなかったのに。
伴侶としての自覚も無かった。

それ故に、手放すことになる。

僕は出逢った時から貴女に夢中で、貴女の行動に制限をつけなかった。
それをするのも伴侶の役目であるのに。






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