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本編
※古金貨の殴り屋
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いつものように、古木に短いナイフを立てる。
木の皮の内側からたまに出て来る金貨は、良い具合に朽ちていて、自分のようで気に入っていた。
後一枚で三枚揃う。
大事な“心”は最後に取っておいたんだ。
その日が来るのが待ち遠しい。
“頭脳”のあの子は救われたかな?
右手左手、右足左足、性の象徴。あの子らは救われて良かった。
二枚目の金貨を握り込み、もう一枚は明日にしようと、古木の皮を元の形に押し当てる。
見た目には何も変わらない古木が静かに佇んで居た。
その太い幹を撫で付ける。変わらず居てくれる自分の味方。
この古木から金貨が浮き出たのを見つけた時、心底驚いた。
それは幼い頃。すぐに父さんに見せに行く。それはそれは喜んでくれたが、そんなことをするよりも、勉強はどうしたのかと怒られた。
いつものように室内にある古木の太い枝に全裸で吊るされ殴られた。
右手左手、右足左足。そして、頬を。
心が死んで行く。
痛みに耐えるよりも、慣れてしまい、体が成人に近付く頃には、その痛みに何故か屹立する己が象徴があり、痛みが強い程、硬く硬くなる。憎悪と己への気持ち悪さが心に蓄積されて行く。
大人になってもその仕打ちは終わらなかった。
躾だと言われた。それは親の愛であり、義務である。と、気持ち悪かった。執拗に拳で殴られる身体。その度に反応する己。それを知っていて最後にはそこへ強い一撃を与えられ。盛大に白い体液を撒き散らすのだ。
それが躾の終わりの合図。
その後は床に転がされ、自身の汚した床を掃除させられた。
父さんは“愛”だと言った。
母さんにも与えた愛だと。だがそれは理解されず、逃げ出そうとした。だから、この古木の根元に埋めたのだと。今はこの古木が母自身で、躾をされているお前を優しく見守って居るのだと……。
それは幾度も幼い頃から言われ続け、まるで古木が母親であるかのような、錯覚とも、現実とも判らない状態に陥る。
月日は流れ、父さんとの関係も変わらず続いて、そうしていきなりその存在が消えた。
落馬事故だった。歳をとっても逞しい体躯をしていた父さんが落馬しただけで、首の骨を折って呆気なく即死。
信じられなかった。
成人してからは父親の仕事を手伝っていたので、難なく跡は継げた。
稼ぐ術も解っていた。
祖父の代に建てられた大きな屋敷も有している。貴族ではなくとも、たった一人の裕福な上流家庭。
寂しくて何人かの女性と付き合ったが、誰とも体を繋げることが出来なかった。
肝心な時に屹立しないのだ。
だが、納得する。彼女たちは自分を愛してくれていないからだ。自分の持つ財産が目当てなのだ。
いつしか女性とは関係を絶った。
関わる人間は仕事の関係者のみで、会話も必要最低限。
誰とも関われない寂しさに、狂いそうになる。
ある時、一人の少年と目線が合う。
少年は花開くように微笑みをくれた。近付くと、ぴったりと体を擦り寄せて来た。
胸が熱くなった。嬉しくて、興奮して……屹立した。
そうして初めて体を繋ぐことが出来た。
嬉しかった。自分を愛してくれる者がやっと現れたと。
だけれど、閨で少年が囁いたのは愛の言葉ではなかった。
「はい。報酬を頂戴」
可愛い顔で強請るように首を傾げて手の平をこちらへよこす。
「気持ちいい思いをしたろ? その報酬を頂戴」
あの甘い声が、
あの可愛らしい顔が、
厭らしく歪んで見えた。
呆然とした。
愛ではなかったのかと、
「愛? 何言ってんのさ、いいオッサンが。女たちが役に立たないって噂してたんだ。だから、俺たちみたいなのが好みなんじゃないかなって。誘ったら、熱い眼差し返してくれたろ? すっごく素敵だったよ」
だから誘いに来たと、目線で応じたから着いて来たと、机に置いてあった三枚の金貨を見て、「古くて汚いお金だけど金貨だろ? ならこれでいいよ」と、微笑みを浮かべて掴み取り、呆然として居る自分を置いて少年は出て行った。ありがとう。と言って……。
愛とは何だろう?
今は亡き父親を思う。
あれは真に愛情だったのではないか?
殴られ、愛を囁かれ、屹立し、生を吐く。
これが愛何だと、今更ながら気付いた。
「ありがとう。父さん」
初めて感謝の言葉を。愛とは、殴ること。少年の顔を思い浮かべて、その白い肌に拳を埋める様を思い描いて、屹立する。硬く硬く握る拳。
そこから愛を教える活動を始める。
そうだな。父さんと同じ順番で、愛し抜こう。
これは愛を教える大切な活動だ。
愛を知らない子どもが多すぎる。
今有る金貨は九枚。三枚を渡せば対価になるのだと学習した。彼らにはそれを上げよう。
愛を教えて金貨までやるのだ。
何と大きな愛情ではないか。
一月に一人。そうしよう。
父さんの愛情をなぞるように、右手から。
そうすると金貨が足りないな。
母さんの古木の小さな家は、片目を隠した女の勢いに負けて貸し出してしまったし……金貨は外側の皮から出てくるから問題はないが、この屋敷には連れて来たくはない。
あぁ、愛を知らしめる為に路上で行おう。
愛を知らない少年は多い。
最後に、最初に愛した少年に、たっぷりと愛を教えよう。
そうだな、その時はあの父さんとの愛の家で、それまでにあの女には出て行ってもらえばいい。
とても、とてもいい考えに思えた。
救済する。
自分が父親となって、子どもを救ってやる。
あぁ。父さん。貴方の愛に報いたい。
愛されていた。その実感をまた感じたい。
愛することで、父さんの愛をまた感じられるかな。
考えに耽っていた。
手の中の金貨がカチンと音を立てて、現実に戻る。
さあ、始めよう。
次は、待ちに待った“心”の番だ。
愛しているよ。
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