光輝く世界で別れて出逢う~世界樹の子どもたち~

なぁ恋

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本編

初恋

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女神様が目の前にいる。
本当にそう思ったんだ……。

目覚めた時、金糸の長い髪が視界に入って来た。
まるで陽の光そのものの様な髪。髪よりも少し濃いめの金の眉の上のところで真っ直ぐに切り揃えられた前髪から零れる更に濃い色の金の双眼が僕を見つめていた。
 
光り輝く金色の美しい人、
彼女は、騎士ヴァロア=リロイと名乗った。
ヴァロア様が僕に名を訊くけれど、頭の中はモヤがかかったようで思い出せない。
突然、目の前に小さな昆虫のような羽根の生えた女の子が現れて、喉が乾いてるでしょ。と、花を一輪僕に差し出した。そこには黄色い水玉が美味しそうに揺れている。
いい匂い。ヴァロア様が助けてくれて座ると、その液体を飲み込んだ。
なんて甘くて美味しい……一気に幸せ気分になる。

ヴァロア様が物凄く驚いた顔をしている。
年上の女性に失礼だと思うけれど、可愛らしいと思ってしまった。

次に尋ねられた自分の年齢。
年齢だけは覚えていた。
10歳。
それに違和感を覚える。感覚的にはもっと上のように感じるのだが、確かに10歳である。

はっきりしているのは、年齢と、意識の無くなる直前のほんの一瞬。

見つけた。
と、言われたこと。
それで不安になったこと。


「初恋かな」
「そうね。初恋だと思うわ」

甘い露をくれた女の子と、……何だか見たことのある同じ羽根の男の子がヴァロア様をからかってる?

ヴァロア様は面白いくらい表情が変わって……可愛らしい。


「それじゃあ、ヴァロアが名付けて上げたら?」

女の子がヴァロア様に言う。

「えっ、嫌じゃないか?」

「そんなことありません。寧ろ、よろしくお願いいたします」

嬉しい。
真剣に悩み出したヴァロア様の周りが見えて来た。美しい輝く金色の花が山のようにあった。

全然見えなかった。
花の輝きよりもヴァロア様の輝く美しさに釘付けになっていたから。

「ウィクルム」

「ウィクルム……可愛いわね!」

「どこからその名が出て来たんだ?」

「子どもの頃、犬をね、飼いたかったのよ」

犬……だけど、大切に思って来た名なのだと感じた。

ならば僕はヴァロア様の忠犬になろう。
僕は記憶が曖昧で、きっと、ここが始まりなんだ。

「ヴァロア様。ありがとうございます」

僕が笑うとヴァロア様が赤くなる。
可愛いらしい騎士様。

僕は貴女の忠犬になる。

傍に居るヴァロア様の髪を一房手に取ると、そっと口付ける。

「ヴァロア様。貴女に永遠とわに誓います。僕は貴女の番犬。貴女の傍に居させて下さい」

真っ直ぐに、ヴァロア様を見つめる。

「おま! お前は本当に10歳かっ ??」

耳の先まで真っ赤になったヴァロア様。
美しくて可愛らしい女性騎士様。

「はい。けれど、です」


と、室内全ての金色の花が仄かに発光し、バッと霧散すると、僕の体に飛び込んで来た。

それは当然のように、それは必然的に。

体が熱くなり、自身の体を抱き込む。
骨の軋む音、皮膚の伸びる間隔。
歯を噛み締め耐える。
同時に記憶の波が押し寄せて来た。

世界樹ユグドラシル。伴侶の人間で在ったヴァロア。
妖精ユグドラシル。妖精ヴァロア。

ヴァロアは二人の子孫。

膨大な時間の記憶。知識。そして……魔力。

成程。
僕の10歳らしからぬ話し方思考は、抜けた記憶の間、ユグドラシルと共存して居た影響。

そして、仄かに存在する記憶の欠片は、僕だけで在った僕の記憶。
そこには両親に愛された記憶。
両親の死後スラム街に堕ち、死にかけて居た時にユグドラシルに降臨されたことで生き長らえたこと。

そして、両親から頂いた名も。
全てを思い出した。

けれど、僕はウィクルムだ。
両親から頂いた名に、そっと蓋をする。

「ウィクルム!?」

金色の美しい人、ヴァロアが僕の名を叫ぶ。

「大丈夫……です」

と、耳に届く声色にも変化が。
徐々に体の熱が引いて行く。

「ユグドラシル様。助けて下さりありがとうございます。ヴァロア様にも大変お世話になりました」

殴られ、死にかけたことも覚えている。
あの男の声も顔も覚えている。

「これは……私の影響か?」

「はい。ユグドラシル様の記憶を恐らく全て、私の中に複製されています」

「全てとは、世界樹や、その魔力もか?」

「はい」

恭しく小さな妖精ユグドラシル様にこうべを垂れる。

「私のことはユグと呼んでくれ。こちらはロアと……」

「はい。ユグ様ロア様」

惚けて立っているヴァロア様を見て綻ぶ顔。

「ヴァロア様。誓いは絶対です」

茹でたように真っ赤になった顔。そして、ペタンとその場に座り込んだヴァロア様。
改めて誓いを立てたいと、シーツから足を出し立ち上がる。と、次の瞬間、

「キャーーーーーーーッ」

可愛いらしい悲鳴が室内に木霊した。
顔を隠す仕草に、あぁ。と、合点が行く。

僕の着せられていた衣服は体の変化のせいで破れてしまったらしい。
恐らく、全裸を晒してしまっている。

「またっ!!」

ヴァロア様が発した単語。

「また? こう言ったことが前にもあったのですか?」
 
「殿下がっ」

相当狼狽えて、口が軽くなっているようで、けれど詳細は聞けないだろうことも判ったので、ヴァロア様の額に自らの額を重ねる。

「ひゃぁ!」

可愛いらしい悲鳴。
そして、その記憶を覗くと……暴行されかけ逃げた経緯が視えた。
それに。ヴァロア様の右手を掴むと、そこにはくっきりと傷跡が残っていた。
怒りで頭が沸騰しそうだ。
感情のまま、その傷跡に舌を這わせ、上書きするように噛み付き深く歯を立てる。

「ったぁ!」

ヴァロア様が涙目になる。
その表情を見逃したくなくて目線は固定していた。
美しい人だ。
作ったばかりの傷跡をすぐさま舐ると、血は止まる。

癒さなければ。と、手の平を宙に。一輪の金色の花を受け取ると先程頂いた蜜を出現させ、それを傷跡に注ぎ、花弁と共に丁寧に揉み入れる。

淡い光が手の平を包むと、僕の傷跡だけが残った状態になっていた。





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