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本編

癒し癒され聖女で救世主

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気付けば、その理由を語っていたようで、何とも言えない空気に、コホン と、咳をして時を戻す。

「だからだね」

ユグがふわりと金の粉を振り落としながら傍に寄る。
小さな手が傷跡に触れると、ピリリと雷が走った。

「これは、自分への戒めだよ。それに……その想いはずっと癒しを流してる。大切な彼に……」

戒め?
癒しを流す?

「マムは魔力が少なくなったのではなく、殆どをへ譲渡していたのさ。彼と別れて何年?」

「18年程……」

「その月日、毎日一日中、ずっと彼へ癒しを行っていたんだ。今もそうだよ離れていても距離とかそんなものは関係ないよ。魂が繋がって居るからね」

嘘だろう?

「それでいて、他者を治すことまでこなしている。マムは聖女か何かか?」

「そんなっ! 恐れ多い」

本当に恐ろしいことを言ってくれる。

「そうかも知れない」

いやーー!
ヴァロアまでっ

「本気で辞めてくれ」

「それで、命の恩人である貴女に、お願いがあるんだ」

畳み掛けるようにユグが言うから、反射的に出来ることなら。と了解してしまっていた。

「マムの了解を得た。さて、願いだが、私の体は今はあの子の体の一部分で出来ている。それを、安定させる為に、マムの体の一部分が欲しい」

少年の眼球に降臨し直した状態かな?
だけど、私の一部分って……

「この傷跡を下さい」
「はい?」

あくまでも、疑問の「はい?」だった。
なのに、それは返事と捉えたようで、疼きを抱えたままの傷跡が、本当に、ベリッ と剥がれて行く。

その傷跡は、宙に浮いて目に見える。
それを自らの体に押し付けるユグ。
暖かい光が彼を包んで、消えた。

「……うん。やっぱりね。はそれだけで存在感があるから完璧だ。ありがとう!」

「こんなの……ご褒美でしかないよ」

私も腐っても女だったんだと実感する。
こんな、胸が詰まるほどに嬉しいと感じてるのだから。

「ありがとう……」

涙が零れるのを我慢する。
あ。だけど、

「だけど、彼への癒しが……」

「大丈夫。その部分は閉じてないよ。言うなれば、太い糸を細くしただけ。これで魔力も安定する。もちろん、花も貴女が必要と思えば現れるよ。この古木は世界樹と繋がっているからね」

指差した先には、太い幹があった。この店は、古木をそのまま室内に取り込んで作られていた。外からはその高い幹の頭上に青々とした葉も生えている。
それが気に入って借りた家。

「でも、もう彼には癒しは必要ないと思うんだけどね」

「え?」

「傷跡を貰った時に彼が見えたんだけど、あの時の腕は完璧に治っているよ。普通に生活出来る体になっている。もう気に病むことはない。だけどマムの癒しは心地よいものだから癒し続けて上げればいいよ。魂の繋がりもそのままだよ。これは閉じること何て出来ないからね。一生を共にすることと同等なんだよ」

ユグは、慰めてくれているのか。
癒し手が言葉で癒されるなんてな。

そうか。私は、十分役に立ってたのか。
会えなくても、繋がってるなんて、幸せだよな。
相手にも知られてないんだから、完璧だ。
私だけの特別な癒しだ。

「あぁ、彼も解っていたみたいだよ。マムが癒してくれてたこと。だからもしかしたら今繋がりが細くなって驚いてるかも。」

なんてこと!
いや、でも、私の居場所を知るわけないから大丈夫か。

「嘘でしょ!」

それでも、パニックになるのは仕方ないと思う。

「大丈夫だよ。人間は拗れた関係の方が後々色々……ね?」

ロアが可愛く首を傾げる。
何が、ね? なのか判らない!

「悪いことにはならないから、安心して」

満面の笑顔の妖精二人組。

「はぁ、もう。まあ、幸せだよ私は!」

半ばヤケ気味に吐き出した本音。
そして落ち着いたところで、不思議だった疑問を目の前の友人に質問する。

「ヴァロア。何で妖精と一緒に現れたのか理由を知りたいのだが……」

と、そこで大変なことに気付く。

妖精ユグ。ユグドラシルと言った。
古木と繋がる世界樹と言った。

「ユグドラシル!?」

まさか。

「あーー……動じてないのだと思った。うん。彼はあの、ユグドラシルだよ。だからマムは案外世界を救った救世主なのかもね? “聖女”で“救世主”とか、完璧じゃない?」

意識のあるままその場に卒倒しました。
なんなの!

「それから、マムの質問の答えは私ってばユグドラシルの子孫なのよねぇ」

嘘でしょう??
癒しの患者として知り合って、今は友であるヴァロアの正体は半分妖精ですか??

もう。気絶していいですか?

ポスン と、金色の花が顔に落ちて来た。
その匂いが、幻ではなく現実なんだと知らしめる。

「はっ!あははは!」

一周回って楽しくなって、笑いが止まらない。
冷たい床板に拳をぶつけながら大笑い。
そして、チャリーン と金属の高い音が響いてその笑いも治まった。


“古金貨の殴り屋”残酷な殺人鬼の通称。

「少年は、殺人鬼の犠牲者か」

妖精よりも現実的で身近な問題。

「少年で六人目だ。他の犠牲者は皆亡くなった」

五人は皆冷たくなってから発見された。
彼が助かったのはユグがその身に宿って居たから。






    
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