上 下
20 / 56
本編

癒し癒され聖女で救世主

しおりを挟む


気付けば、その理由を語っていたようで、何とも言えない空気に、コホン と、咳をして時を戻す。

「だからだね」

ユグがふわりと金の粉を振り落としながら傍に寄る。
小さな手が傷跡に触れると、ピリリと雷が走った。

「これは、自分への戒めだよ。それに……その想いはずっと癒しを流してる。大切な彼に……」

戒め?
癒しを流す?

「マムは魔力が少なくなったのではなく、殆どをへ譲渡していたのさ。彼と別れて何年?」

「18年程……」

「その月日、毎日一日中、ずっと彼へ癒しを行っていたんだ。今もそうだよ離れていても距離とかそんなものは関係ないよ。魂が繋がって居るからね」

嘘だろう?

「それでいて、他者を治すことまでこなしている。マムは聖女か何かか?」

「そんなっ! 恐れ多い」

本当に恐ろしいことを言ってくれる。

「そうかも知れない」

いやーー!
ヴァロアまでっ

「本気で辞めてくれ」

「それで、命の恩人である貴女に、お願いがあるんだ」

畳み掛けるようにユグが言うから、反射的に出来ることなら。と了解してしまっていた。

「マムの了解を得た。さて、願いだが、私の体は今はあの子の体の一部分で出来ている。それを、安定させる為に、マムの体の一部分が欲しい」

少年の眼球に降臨し直した状態かな?
だけど、私の一部分って……

「この傷跡を下さい」
「はい?」

あくまでも、疑問の「はい?」だった。
なのに、それは返事と捉えたようで、疼きを抱えたままの傷跡が、本当に、ベリッ と剥がれて行く。

その傷跡は、宙に浮いて目に見える。
それを自らの体に押し付けるユグ。
暖かい光が彼を包んで、消えた。

「……うん。やっぱりね。はそれだけで存在感があるから完璧だ。ありがとう!」

「こんなの……ご褒美でしかないよ」

私も腐っても女だったんだと実感する。
こんな、胸が詰まるほどに嬉しいと感じてるのだから。

「ありがとう……」

涙が零れるのを我慢する。
あ。だけど、

「だけど、彼への癒しが……」

「大丈夫。その部分は閉じてないよ。言うなれば、太い糸を細くしただけ。これで魔力も安定する。もちろん、花も貴女が必要と思えば現れるよ。この古木は世界樹と繋がっているからね」

指差した先には、太い幹があった。この店は、古木をそのまま室内に取り込んで作られていた。外からはその高い幹の頭上に青々とした葉も生えている。
それが気に入って借りた家。

「でも、もう彼には癒しは必要ないと思うんだけどね」

「え?」

「傷跡を貰った時に彼が見えたんだけど、あの時の腕は完璧に治っているよ。普通に生活出来る体になっている。もう気に病むことはない。だけどマムの癒しは心地よいものだから癒し続けて上げればいいよ。魂の繋がりもそのままだよ。これは閉じること何て出来ないからね。一生を共にすることと同等なんだよ」

ユグは、慰めてくれているのか。
癒し手が言葉で癒されるなんてな。

そうか。私は、十分役に立ってたのか。
会えなくても、繋がってるなんて、幸せだよな。
相手にも知られてないんだから、完璧だ。
私だけの特別な癒しだ。

「あぁ、彼も解っていたみたいだよ。マムが癒してくれてたこと。だからもしかしたら今繋がりが細くなって驚いてるかも。」

なんてこと!
いや、でも、私の居場所を知るわけないから大丈夫か。

「嘘でしょ!」

それでも、パニックになるのは仕方ないと思う。

「大丈夫だよ。人間は拗れた関係の方が後々色々……ね?」

ロアが可愛く首を傾げる。
何が、ね? なのか判らない!

「悪いことにはならないから、安心して」

満面の笑顔の妖精二人組。

「はぁ、もう。まあ、幸せだよ私は!」

半ばヤケ気味に吐き出した本音。
そして落ち着いたところで、不思議だった疑問を目の前の友人に質問する。

「ヴァロア。何で妖精と一緒に現れたのか理由を知りたいのだが……」

と、そこで大変なことに気付く。

妖精ユグ。ユグドラシルと言った。
古木と繋がる世界樹と言った。

「ユグドラシル!?」

まさか。

「あーー……動じてないのだと思った。うん。彼はあの、ユグドラシルだよ。だからマムは案外世界を救った救世主なのかもね? “聖女”で“救世主”とか、完璧じゃない?」

意識のあるままその場に卒倒しました。
なんなの!

「それから、マムの質問の答えは私ってばユグドラシルの子孫なのよねぇ」

嘘でしょう??
癒しの患者として知り合って、今は友であるヴァロアの正体は半分妖精ですか??

もう。気絶していいですか?

ポスン と、金色の花が顔に落ちて来た。
その匂いが、幻ではなく現実なんだと知らしめる。

「はっ!あははは!」

一周回って楽しくなって、笑いが止まらない。
冷たい床板に拳をぶつけながら大笑い。
そして、チャリーン と金属の高い音が響いてその笑いも治まった。


“古金貨の殴り屋”残酷な殺人鬼の通称。

「少年は、殺人鬼の犠牲者か」

妖精よりも現実的で身近な問題。

「少年で六人目だ。他の犠牲者は皆亡くなった」

五人は皆冷たくなってから発見された。
彼が助かったのはユグがその身に宿って居たから。






    
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

処理中です...