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本編
探して見つけて
しおりを挟むその日の内にちょっとした旅支度を済ませ、ロアを肩に馬に乗る。
「さ! ロア、旦那様の気配はどっちから?」
それが頼り。
「こちらの方よ」
指差す方へ進む。
それしか出来ないけれど。
馬上から周りを見る。
風景は流れ、いつの間にか川沿いに出ていた。
小一時間程経っていて、陽の光は頭上まで登っていた。
くぅ と、お腹が鳴って、馬にも水を飲ませようと、河川敷まで降りる。
「はぁーい! ご飯ね」
「ロア! 一輪でいいからね!」
「ええぇ」
首を傾げるロア。
「食べ過ぎると苦しいから、ね?」
と、手を重ねてお願いポーズ。
判ったわよぉ。と、一輪花を出してくれた。
そよそよと風が気持ちいい。
木陰で座って空を仰ぎ見る。
馬も草を食んでいて、ゆっくりとした時間が流れている。
ふと、ロアに教えて貰った祖の父の正体を思い出す。世界樹ユグドラシル。
まぢですかー――です。
何せ、子どもでも知ってる大精霊様ですもの。
だから、最初の金色の花は木から落ちて来たのかぁ。
私に流れる血脈に、喜びと畏怖が無い混じり、背もたれにしている木を意識する。
ロアなら解るのかな?
「世界樹の根が這っている木が、どれだとか判るの?」
「どの木でも有り得るのよ。私もね、こんな風に木の下で休んでたの。攫われた時」
さらりと、何ともないように爆弾発言。
「懐かしいわぁ」
まるで思い出のように語るロア。
本当に、良い思い出になってるのね。と、微笑ましく見やると、
「今考えても腹が立つのよね」
にっこり笑顔で言い切った。
「え?」
「私、その時14だったのよ。色んなこと夢想してたし、恋愛だって夢見てた。それが攫われるとかさ」
「まあ、そうよね」
「だから、一目惚れだったけど、意地になったの」
「へ?」
ふふふ。と、微笑むロア。
「なんだ。惚気だったの」
「あはは! そうね。私ね、不幸だとも幸せとも当たり前とも思わないの。ただ、これが運命だったのよ。だから、意地になるなんて勿体ないことしたなぁって。」
勿体ないこと。
殿下もずっと勿体ないことしてると思う。
折角生まれ変わったなら、その生を楽しまないと……ふと、アンスのことが頭に浮かんで、彼と出会えたことは幸せかも知れない。と、考えた。
ある意味アンスは博愛主義者だ。
一度懐に入れてしまったら、絶対に嫌いにならない。相手が離れたとしても思い続けてる。
そんな愛で包まれたなら、少しは考えて、感じてくれるかも知れない。
「穏やかな、普通の営みが大事なのよ」
ロアは溜め息を吐く。
「そうだね。その通りだと思う……」
うっとりうっとり、眠気が訪れる。
眠ってる場合じゃないのに……。
「いいよぉ。少し眠ったら?」
ロアが優しく言ってくれて、甘えるように、目を閉じた。
背にある硬い木の感触に温かみを感じながら。
泣き声が聞こえる。
しくしく
しくしくしく……
すすり泣き。
耳の奥に響いてる
誰が泣いてるの?
ゴメンなさい……
ごめんなさい―――……
謝る声がずっと木霊してる。
しくしくしく……
しくしく―――……
あぁ。ヴィクトルだ。
そう感じながら、ゆっくりと目覚めた。
風は変わらず気持ち良くて、私は幸せなんだろうな。と、漠然と感じながら。
「おはよぉ! ヴァロア。あのね。困ったことに、今行こうとしてたとこにはもうあの人居ないの。残り香だったみたいで、今来た王都に帰らないといけない」
どうやら私が眠っている内に、旦那様の転生した場所までロア一人で行って来たみたいで、がっかりと肩を落としていた。
「じゃあ、戻りましょうか!」
少し眠ったことで頭もすっきりとしているし、取り敢えず行動することが大事だと感じるから、直ぐ様馬に跨る。
「ヴァロア。お願いね……嫌な予感がするの」
耳元で囁くロアは、少し涙声だった。
「ええ! 絶対に、見つけてみせるから」
私と同じ名の祖の母は、旦那様を深く愛してる可愛らしい女性だ。
こんな可愛らしい人を泣かせるなんて、見つけたら叱ってやらなきゃ気が済まない!
……その切っ掛けを作ってしまったのは私の父親で、私も少なからずその理由の一つだったりするのだけれど。
うん。兎にも角にも見つけることが先決!
風のように走り抜け、夕刻辺りに王都に帰り着いた。
「こっち! こっちよ!!」
ロアは焦ったように誘導する。
そこは、暗い路地裏に続く道で、王都でもあまり治安のいい場所ではない。
「やっと、見つけた!!」
ロアが叫ぶ。それは悲痛な悲鳴。
「やだ! やだ! 死なないで!」
その声を頼りに暗がりに飛び込むと、そこには、顔だけが血だらけになった、小さな子どもの姿が見えた。
近寄って状態を診る。
右眼球は少し落ち込んでおり、鼻も曲がっている。唇は膨れ切れていて頬はどす黒く色付いていた。
顔が有り得ない程膨らんで丸い。
口元に耳を寄せると、微かに呼吸している。
手を取り脈を計ると、それは微かに動いていた。
けれど、これは、危ない。
慎重に、ゆっくりと抱きかかえると、治療院に向かう。
運の良いことに、ここから程近く、徒歩で行ける場所に治療院はあった。
私も世話になっている“癒しの力”で治す女性が開院した、本当に、小さな治療院。知る人ぞ知る、治療する人を選ぶ治療師。
数歩進んだ時、チャリン と、音が響いた。この子どもが手に握っていたらしいそれは、
「金貨?」
ロアが拾って確認すると、それはとんでもない価値のある古金貨であった。しかも三枚。
それで思い出す。
今現在、王都で問題となっている“古金貨の殴り屋”事件だ。
子どもばかりを狙う殺人鬼。
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