光輝く世界で別れて出逢う~世界樹の子どもたち~

なぁ恋

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本編

諦めない

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翌日、ロアを連れて騎士寮へと戻っていた。

そして、乱れたシーツ、そこにあるシミ、嗅ぎなれない臭いに固まる。

「これって、男性の、ムグッ」

ロアが不吉なことを口にする前に塞ぐと黙ってくれたので、熱くなった頬を叩いて、そのシーツを剥ぐ。

「あーー……コホン」

振り向くと、アンスだった。

「アンス?!」

「それは俺が洗っておこう」

その言葉に有難く差し出す。

「昨夜、休むよう言い忘れたと、こちらに来たんだ。そこで、殿下と顔を合わせた。……なんだ、殿下は当分お前の前には現れないと思う。」

その目が泳いでいる。

「その、衣服を全てオーダーメイドするらしくてな、その一着が出来なければ外に出ないと仰っている」

見るからに挙動不審なアンスに、はた、と、思い出す。
アンスは男性を恋愛対象としていて、好みは美しい顔。
なるほど。ポンッ と、手を打つと、

「はい。熨斗をつけて殿下はアンスに差し上げます」

「は?」

間の抜けた顔をしたアンスが、急速に赤い顔になる。

「や、な、ちが……」

「違わないでしょう? 殿下は美しかったもの。アンスの好みど真ん中でしょう??」

この上司はこと恋愛に対しては緩く、直ぐに顔に出るのだ。
それに、ちらりと首の付け根にを見つけた。

「そこに、マーキングされてますよ?」

トントン と、アンスの痕を、私の首で教える。
真実なら喜ばしい。
あんな凶悪な人物、私は要らない!
真っ赤になったアンスは、手でそこを押さえる。

「……ダメなんだよ。俺では……」
 
それは、切なく眉根を寄せる。

「殿下は、でないと」

ヴィクトル。その名を口にするアンスに驚いた。

「全てを教えて貰ったんだ。ヴァロア、お前は自分のことをちゃんと理解出来たか?」

アウローレンス殿下は、存外口が軽くあらせられるのか。否、アンスが受け入れたから伝えたのだと理解する。
アンスは、何事にも真っ直ぐで公平だ。
恋愛にはだらしないが、人間、誰しも長所も短所もあるのだから。

「……そうね。でも私は、正確にはヴィクトルじゃないのよ」

「ん? だが、殿下は確信していたぞ」

「正確には、私の中にヴィクトルが居るの。だから、私はヴァロアと言うエドガーとヴィクトルの娘」

金粉がすうっと落ちて来て、ロアが姿を現す。

「おわっ!」

アンスの悲鳴にロア喜んでる。

「初めまして、筋肉さん。私は妖精のヴァロア。ロアって呼んでね」

ちょこまかと飛び回り、私の差し出した手の平に落ち着く。

「それは……俺は、アンス=バルトだ」

頬を染めてロアをガン見するアンス。あぁ、この上司は綺麗なものと可愛いものが好きなのだった。

「うん。よろしくね! アンス。それでね、ヴィクトルは、本当に、まだ魂のまま眠ってるの」

今朝、出掛けに私の状態を教えてくれた。

ヴィクトルは、死する時、魂に傷を負ったのだと言う。
それは、祝福の花の願い叶える力を弾いたことで魂が傷付いたのだと。
それはそうだろう。精霊の力に抗ったのだから、

それを癒さなければならず、私の魂に包まれるようにして眠っているのだと、実感はないけれど、ロアが言うのだから間違いはないのだろう。

「そうか。だが、それでも、ヴァロアはヴィクトルには違いないと思うんだが」

「魂が二つあるんだよ? 全く別物だよ」

ロアが反論した。
私もそう思う。

「言ってみれば、孕んでるってことか? それじゃあ、産めばいいんじゃないか?」

「はぁ?」

素っ頓狂な声が出た。
ロアも、一瞬止まって、笑い転げた。

「おっもしろいこと言うね! ……けど、あながち間違ってないんだよね。だけど、まだ傷は癒えてないんだ。この状態で転生したら、弱い体に生まれてしまうよ」

ロアがすうっと宙を舞い、アンスの肩に座る。

「ね、アンスは殿下が自分を愛さなくても構わないの?」

最もな質問。

「構わない。俺は、俺が好きなやつには幸せになって欲しい。それだけだぞ?」

「それで、二度と会えなくても?」

「あぁ、寂しいけどな、俺の心にはいつも好きって想いが燃えてるから、それを燃やし続けるだけさ」

アンスは本当に心底そうであるように、大きな笑顔で言い切った。

「良い男だね。アンスは昔から」

出会った頃から変わらない男前。

「ほんと、良い筋肉ね」

ロア。まあ、確かに良い筋肉ではあるけどね。

それを聞いたアンスもアンスでにっこにこしてるよ。

「まあ、それじゃあ、数日休みをくれない?」

いい機会だ。
ロアの旦那様を探さなきゃだからね。

「ああ、構わない。取り敢えず、七日間としておくか?」

「うん! お願い……ところで、妖精見て何か思うことないの?」

悲鳴は上げたけど、後は普通だ。

「いや、殿下だって、子どもからいきなり成人したんだぞ、しかも、王族は確実に竜の家系だって判ってるし、妖精だって居るだろうと思うさ。何より、こんなに可愛いのに、幻なんてありえない」

肩に乗ってるロアの頬っぺを人差し指でくりくりしてる笑顔の筋肉。

「まあ、そうだよね」

私だって幻だと思わない。
夢だとも思わない。
今ある現状が現実。

「アウローレンス殿下は、私を諦めない?」

「あぁ、絶対だ」

アンスが断言した。

「例え、魂が違うって言ったって、ヴィクトルがそこに居るのは確実なんだろう? 竜は諦めないよ」

そうだろうな。と、思っては居ても、今はどうしようもないから、取り敢えず、出来ることをしよう。

「私、旅に出て来る!」

そう断言した。
全てはロアの旦那様を見つけてから考えよう。




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