12 / 56
本編
※竜のお遊び
しおりを挟む目前に金色の花が突如現れ、発光する。
くっ 両手で目を覆う。と、ヴィクトルが、出て行くのが気配で判った。
油断してしまった。
手を下ろすと、乱れたシーツが目に入る。
側にはヴィクトルが先程まで袖を通していた騎士服が無造作に置かれていた。
それを手にし、顔を埋める。
思い切り彼女の匂いを吸い込む。
甘やかな匂い。
ヴィクトルの……それだけで高ぶる。それだけで果てそうだ。
脳内が痺れて、
「ぅんっ……」
匂いだけで、本当に果ててしまって、苦笑する。
そうだな、この体はまだ清い。
上手く我慢が出来ないようだ。
逃げ出したヴィクトルは、誘導したように、自身を見つけるだろう。
それを想像するだけで……否、落ち着け。
明日を楽しみにしていよう。
リロイ家は男爵に戻り、ヴィクトルは私の婚約者となる。
私の姿に遠慮していたが、もう魂の年齢と同等の体に成長したのだから問題はない筈だ。
壁に掛けられた鏡の中の自身と目線が合う。
己でも、美しいと思う顔立ちと色。
体躯も、均等の取れた筋肉に、長身。
それなりに、満足だ。
開け放たれたままの小さな扉から外へ出る。風が裸体を撫で、心地よい。手に持ったままのヴィクトルの騎士服は持ち帰ろう。
二階から、そのまま地上に飛び降りる。
と、そこへ男が走って来た。
「誰だ?!」
剣を構え、私を威嚇する。
「私はアウローレンスだ」
「はぁ?」
まあ、判らぬよな。裸体の男が外を歩いていれば不審者扱いになるに決まっている。しかも、城内だ。
「第三王子アウローレンスだ」
再び名乗り、眼球に能力を乗せる。
竜の血族のみに現れる、縦長の瞳孔“竜眼”が現れている筈だ。
オッドアイに加え、これが有るから王族だとすぐに判る。
「はっ! すみません! アウローレンス殿下!」
すぐに剣を収め、敬礼する。
「名は?」
「はっ! アンス=バルト。第二第三王女様付き近衛隊隊長であります!」
「ではアンス、急ぎ私に何か衣服を持って来てくれ。急に成長したからな、元の服はダメになってしまったのだ」
「はっ!」
頭を垂れ、すぐに駆け出す。
ちらりと、私の手に握られた騎士服を一瞥したのを見逃さなかった。
アンス=バルト。
私と同じ程の長身、筋肉隆々の長たるに相応しい男だな。
顔は平凡。髪はエドガーを思わせる茶色で翠色の目の色。
だが、あれから、ヴィクトルの甘やかな匂いがほんの少し香って来た。
ヴィクトルはユーナセリアの護衛をしていた。成程、ヴィクトルの上司なのだろう。
そのまま立ち尽くし、ヴィクトルの騎士服に顔を埋める。
その甘やかな匂いは、それだけで興奮する。何度でも。
「あらあら」
女の声が聞こえて来た。
あぁ、嫌な女だ。
「貴方は……嫌だ、アウロなの?!」
第一王女である五歳年上の姉、ユースローゼだ。
夜間に、見れば男連れで、優雅に立っていた。
男は、婚約者殿か。
確か、又従兄弟である、竜の鱗を有した者だったと記憶している。
姉上の一歩後ろで頭を下げた。
「あら……」
私と同じオッドアイの目が、私の局部に落ちる。
「まあ。」
嫌な視線。だが、年上と言うだけで、滅多に逆らってはならない。その様な力関係。
元々、この姉上は、とても厄介な人物なのだ。
私が何も言わないのをいいことに、自身の犯した罪の殆どを私に擦り付けて来たのだから。
この姉上も、私よりは劣るが、濃い竜の血を有している。
それだけで、大抵の我儘は通る。
例え、人間を殺したとしても。
「ふーん。己の意思で成長したの? あぁ。あの、アウロがマーキングした女性騎士の為ね? いぃえ、その女を食べたいからわざわざ年をとったの?」
だけど、と、開けっ放しのドアを見上げ、ふふふ。と、手にした扇子で口元を隠し含み笑う。
「あらあら、逃げられてしまったの? 可哀想に」
扇子をパチンと閉じて、それで私の起立した局部を下から上へなぞる。
「初めてなのだから、優しくしなくてわ、ね?」
閉じたままの扇子の先端にぬるりと突き出した舌を当て、私の局部をそうしたように上から下へと舐り下ろした。
無駄に美しい見た目だ。
堪えたが、少し反応してしまった。
姉はそれで満足したように溜め息を吐き、扇子を開いてまた含み笑う。
「お待たせしました!」
タイミング良く、アンスが駆け戻って来た。
「あぁ、感謝する」
この苦痛から解放される。シャツを受け取ると、羽織り、
「では、失礼致します」
と、アンスを伴い、私室に足を向けた。
姉上は何も言わなかったが、背に視線だけは痛い程に感じていた。
で、だ。
何故か私室まで着いて来たアンス。
成り行きとは言え、もう帰っていい。と、下がらせればいいだけなのだが、その普通に見えて挙動不審なアンスの様子に、思い当たることがあり、遊んでやろうと思い至った。
未熟なあれも、鍛えられるかもしれぬしな。
この、白シャツだけを持ってきた辺り……恐らく、奴の私シャツなのだろう。肩幅が大きく、局部をスレスレに隠す程度の長さ……
扉の側で立ち尽くしてる奴に体を向ける。
「このシャツはお前のか?」
右手で、右側の襟を引っ張ると、局部がチラリと見える。
「はい」
「このシャツだけを持って来たのか?」
「下穿きなどは、サイズが合わないと思い……」
目線が泳ぐ、頬が赤く染まり、息遣いも多少荒い。
衣服が無ければシーツで代用でもよかったろうに。
「お前は男が好きなのか?」
ほんのお遊びだ。
分かり易い人間は嫌いではない。
「意中の相手には、相手をして貰えなかったからな。お前がこの熱を下げてくれるか?」
翠色の目に熱が籠るのが見て取れた。
なるほど、この体は、男にも魅力的と見える。
ヴィクトルには、早急過ぎた。優しくしてやらないとならなかったのか……ヴィクトルは、「初めてなのだ……」から。と、続く言葉が言えなかった。
何故なら、言葉を良いように解釈したアンスが飛び掛って来たから。
本当に、面白いな。
この度の人生は―――……。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる