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言霊のカミサマ
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しおりを挟むどちらにせよ、明日から長期休暇となる。
学校に来なければ、その熱も冷めるのでは無いか? と、傍観する事とした。
優月はこの事は何も気付いてはいなかった。なので、敢えて私たちも注意する事はしないでいた。
人界に残ると決めて、人と妖怪の間に立つ者と自らを位置付けてから、普通の生活を送る。
優月にはそれが精一杯といった様に見えた。
新しい生活に馴染むのに必死と言った所だったのかも知れない。
「休み何て無くていいよ!」
突然の生徒の叫びにそちらを見ると、優月の腕を掴んでいた。
「ずっと一緒に居られなくても、毎日見るだけでもよかったんだ。だけど、夏休みなんてっ───長すぎる」
あれは、優月の隣のクラスの#三菱__みつびし__。特に目立たない男子生徒だ。
何が起こっているんだ?
「そうよ! そんなの無くていいよ!」
「そうだよ。なんなら学校で暮らすってのもありじゃない?」
「そうか。そうすれば水先と離れなくてすむ」
ざわざわと、口々に叫び出す生徒達。異様な光景。
優月に目をやるとただ困惑していた。
生徒達は暴走する。
教員は押され野外に出された。
扉がしまる前、龍と優星と視線を交わす。
取り合えずは二人に優月を任せると念を送って、閉まって行く扉を見つめた。
保健医である理由から、体育館前での見張り役を買って出て内側を探る。
全ての窓にはカーテンが引かれ、様子が判らない。
「何故でしょうか? いったい、何が起きてるんでしょうか?」
一緒に待機している警備員が不安げに眉を潜めた。
「判らないな」そう言うしかなかった。
実際に、何も判らないのだ。
不安が頭を掠める。
優月は大丈夫だろうか?
人間には何も出来ない。と、高を括って居た。
胸が痛くなる。
不安に押し潰されそうになる。
だが、優月自身にも誰にも負けない能力がある。
“言霊使い”
自身の身に降りかかる火の粉を退ける術はある。
龍の夫婦も居る。
だが、胸が苦しい。
優月。
優月───……!!
あぁ、姿が見えないだけでも不安で堪らない。
池から出て、今まで殆どの時間を優月と過ごして来た。
学校でさえ、休み毎に保健室まで優月が会いに来、昼食を共にし……思えば、離れて居る方が少なかった。
優月の能力を知っていて、大丈夫だと解っていてのこの不安。
目の前で起こった事で、己の内で、圧し殺していた不安が頭をもたげる。
私以外の誰かに優月を奪われる。
それは、優月の心変わりも含めての不安。
私は、優月が居なければ生きては行けない。
だが、優月は私が居なくても誰かが傍に居る。
暗い闇が心を呑み込もうとする。
ざわりと、鳥肌が粟立つ。
「はぁ───……」
一瞬息が止まり、大きく声を息と共に吐き出す。
大丈夫。
私は、大丈夫だ。
言い聞かせる。
不安を、その闇を心に閉じ込める。
今は己の事よりも、優月の安全を第一に考えなければならない。
「大丈夫ですか?」
警備員が不安気に私を覗き見る。
どんな形であれ、こんな状況になれば尚更に、誰でも不安になる。
「大丈夫だ。校長らも会議をしている。解決の道はある筈だ」
取り合えず、どうなっているのか分析するのが先。
中が見えなくとも、何らかの形で探る事が出来る筈だ。
そう考えて、体育館内の構造を頭に浮かべる。
そして、水。水があればそれを媒体に出来る。
記憶を辿る。
トイレ……は扉が閉まっている。
そうだ。舞台袖にあった台に花瓶があって花も生けてあった。ならば水もある。
判らないより、解った方か良い。
人には判らぬ様、念を送る。
それは水を媒体に体育館内を写し出し、その映像は直接私の脳内に返って来る。
優月。無事でいてくれ!
*優月side*
強く引っ張られた。
「え?」
いきなり掴まれた腕を見る。掴んだ相手を見て首を傾げる。隣のクラスの三菱君だった。
声を掛けようとして口ごもる。目が血走ってて、恐怖で背筋に寒気が走る。
三菱君は小学校から一緒で仲が良かった。
だから、信じてたから、河童様の話をした。それなのに、嘘つき呼ばわりして、皆の中心になって僕をイジメて来た。姉ちゃんに助けられるまで。
あれからずっと話してなかった。
それが何で? 掴まれた腕が痛い。
「休み何て無くていいよ! ずっと一緒に居られなくても、毎日見るだけでもよかったんだ。だけど、夏休みなんてっ───長すぎる」
大きな声で叫ぶ。
言われた意味が判らない。
咳を切った様に話した事ない人までか僕の周りに集まりだし、口々に何やら叫び出した。
───……怖い。
怖いよ。
「ゆづ!」
「姉ちゃん!?」
「しぃ」
人差し指を立てて静かにって僕の傍に来た。
その時には三菱君の手は離れてて、遠く体育館の入口に目を遣ると、先生達が追い出される所だった。
そこには朗も居て、一瞬目が合った。
朗の瞳の煌めく星屑が瞬き、一瞬後には人波に見えなくなって、扉の閉まる音が体育館内に響いた。
解らない事が恐怖。
僕は姉ちゃんに手を取られて、皆と離れたステージに上がった。
「何が起きてるの??」
小声で姉ちゃんに訊く。
「んー……、実はね。少し前から生徒達の様子がおかしかったのよ」
「それを俺達は判っていた」
先輩が姉ちゃんの話を続ける。
「え? 朗も?」
「そうよ。実害は無いって思ってたから当人であるゆづには黙ってようって言ってたの。もうすぐ夏休みだから、皆落ち着くんじゃないかって考えてたの」
「落ち着くって、何が?」
僕は何も気付かなかった。
「本当に、気付いてなかったの?」
姉ちゃんが呆れた様に続ける。
「ゆづの周りの誰も彼もが、ゆづをまるで崇拝するみたいに見てたのよ。怖くなるくらい一途にね」
「意味が解らない」
「そうね。あんたは朗だけを見てたから」
言われて頬が熱くなる。
確かに学校に居る間、授業の合間の休み時間でも保健室に行ってた。
朗と居ると安心するし、やっぱり、好きな人の傍に居たいって言うか……。
姉ちゃんと先輩を見る。いつも二人一緒で羨ましい。
僕は、僕だって朗と一緒に居たいし、出来れば……結婚? したいし。
男同士だけど。
それがいつも悩みの種で、それを考える度にぶるりと体が震える。
そしていつもの様に自分の体を抱き締める。
そんな悩みなんて大した事ないって、自分に暗示を掛ける。
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