河童様

なぁ恋

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言霊のカミサマ

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どの世界も、
同じだけ愛しいのは、
それら全てが愛の結晶だから。
 
幸せであって欲しい。
幸せになりたい。

それが全て。
全てはそこから始まる。

本当の世界の始まり。
 

*********



 
*優月side*

右くんから訊く前から、
不思議と解っていた様に思う。
何が起こるか。
これからどうすれば良いのか。

決心は鈍らず、いつの間にか手に戻っていた天叢雲剣を握り締める。


背後で支えてくれる温かい朗。
彼は、朗は僕を正してくれる。
朗が居てくれるなら、僕は強くなれる。

「私も、行くから!」
姉ちゃんが、言った。
「もちろん、俺も行く。」
先輩も言ってくれた。
二人の間に先輩のお母さんがぐったりと抱き留められて居た。

先輩の念願は叶ったんだ。
まだ、意識は戻らないみたいだけど。
生きてる。
二人に近付いて、天叢雲剣で指先を切る。
流れ出た緑色の血液は、河童の万能薬。
先輩のお母さんの前で跪き、その唇に一滴落とす。

「大丈夫。大丈夫だから」

仄かに輝いた裸体。
裸の女性。
このままじゃ寒い。と、口を開く。

「「服を……」」

言葉が反芻する。
それは不思議な現象。

空気が揺らぎ、何もない所から、白い服が現れた。

これは……、
「言霊だ」
クロスが言った。
 

 
“言霊”
は、神の言葉。
抗えない言葉の力。

「“物質化”する程の言霊は、最初の神が持っていたものだ」

「最初の、隠れ神?」
頷いた優良が、クロスの後を続ける。
「この宇宙と呼ばれる空が生まれた時、一人、どこからか現れた神。私達の創造神、私達の始祖神。
その神から全ての神が造られ、神々の天地創造の後、初めての夫婦神で在る私達が国生みで島々を造り、子ども達が誕生したの」

宇宙に、この惑星が、生まれた……理由。

神様は、どこから来たのか?
疑問は多々あるけど、
「“神様の言霊”を僕が使ったって事?」

手に持った服を確認する様に握ると、確かに存在するものだと実感する。
実感出来ないのは、自分の存在。

胸の奥から、言い様のない不安が沸き上がって来た。

「優月」
朗の声が優しく僕を包み込む。
「朗」
それだけで不安は引っ込み、自信だけが、僕を満たす。
 
 
「妖怪は、私が産み落としたもの達だ。人とも、神とも、この世界の生き物は、元が繋がっている」
黄泉のイザナミが言った。

「この黄泉の国が引き受けよう。妖怪は私達の子なのだから」
黄泉のイザナギが言った。

二人の迷いない瞳は澄んでいた。

「誰も居ないこの国を、妖怪の棲みかにすると良い」

岩の連なる土地に二人で体を寄せ合い、しっかりと足を踏み締めて居る。
この地が、穏やかで、緑のある場所なら良いのに。

「「緑を……」」

緑があるなら、
岩場に滲む水だけでは足りない。

「「水を……」」

緑と水があるなら、美しい花もあると良い。

「「花を……」」

思いを口に、言霊にのせた。
それは瞬く間に起こる。

黄泉の二人の足元から、濃い緑の絨毯が広がり、岩場から水が溢れ出す。
水辺には色とりどりの花々が咲き乱れた。

目の前に広がる光景は、まるで夢の様で、だけど、現実だ。

僕の言葉は“現実”を産み出す。

見渡すと、ここはまるで違った世界になった。

「スッゴいじゃない!」
歓喜する姉ちゃん。

確かに凄い。
自分でも思う。
けどこれは、使い方を一歩間違えれば恐ろしい事になる。

ゾッとした。
 



 
拳を握る。

怖い。
怖い。だけど、これは、僕の一部だ。
何故か解らないけど、納得もしていた。

そして、もう一度今造った空間を見る。
そこには、驚きを顔に貼り付けた一同が居た。
驚きと畏怖が、見てとれた。

僕は、怖がられて居る?

「優月」
耳元で囁いて来た朗の声に我に返る。
「あ……」
名前を呼ばれただけで安心出来る。

「強すぎる力を怖いと思うのは自然な事だ。でも、それは優月の一部分。判る者は解っている」

「そうだよ。ゆづは優しい。それにやっぱり凄い。だけど、どんなあんたでも、私の弟だから」
姉ちゃんがにっこりと笑ってくれた。
「母を救ってくれた」
先輩が頷く。

「俺を助けてくれた」

が強く叫ぶ様に言った。

「優月は、私の可愛い孫だ」
    
優良が、が笑った。

「子ども達を連れて来ておくれ」
黄泉の二人が言った。

力がたぎる。
これは、心の力。
皆の思いが、皆の言葉が、僕に力をくれる。
 
頭上を見上げる。
そこに在る一筋の光は、岩戸の隙間。

クロスが手を翳すと、そこは音もなく開く。
先頭に右くんが飛び出した。
続いて僕と朗が、後ろには姉ちゃんと先輩が、先輩は腕に抱いたお母さんを、桃の樹の精霊に託した。
クロスと優良は最後に出て、岩戸は口を開けたまま、桃の樹の精が護りについた。

そして下界を見る。

人間界。人界。

この僕らが立つ龍羽神社の土地は、三途の川の残り香がうっすらと残ってた。
それに桃の樹の加護が合わさって、強力な結界が出来ていた。
負の妖怪は、入っては来れない状態にあった。
その代わりに、人界と妖界が交わり、壁に阻まれて守られていた均等が崩れた。

鬼が、妖が、人間を、イザナギを求めて襲っていた。
それを抑えて居たのは、座敷わらしの力。

「母さん!」
遠目にも判った。

妖怪たちに壊された町並みの中、僕の家の離れだけがその作りを留めていた。
おばあちゃんの張った結界に輪をかけて母さんの、座敷わらしの力で結界を張って、護っている。

そして、そこに妖怪が集まるのは、父さんが居るから。
クロスに還しても、イザナギの残り香が妖怪を惹き付ける。

幸い、殆どの妖怪が僕の家に向かって居た為に、外に隠れる人達は、どうにか無事らしかった。
 
 
そして、異様に暗い空。
空の暗さは雲が出てるとか、曇ってるとかそんなものじゃなくて、人界を呑み込もうとする妖気が上空に膜を張ってる状態なんだと判った。

足を踏み出す。
山を、駆け降りる。
そうして桃の樹の護りの中から飛び出した。

混沌の世界へと。
そして判ってる。
我が家へと続く道は、裏庭に在るって!

「「右くん、姉ちゃん、先輩、優良、クロス、朗と僕を、“河童様の池”の入口へ」」
神の言霊は、正確に使わなければならない。

瞬間、水中に投げ出される。
それは、二度目の感覚。

この池で、
僕は一度死んだ。
そして、生まれ変わった場所。
朗と出逢った場所。

くるくると回り変わる、水面の色合い。
手はしっかりと朗と繋がってる。
また、朗は僕をしっかりと抱き寄せて、一緒に水から顔を出す。

そこは妖気が視覚で見える程に空気が緊迫した状態で、小さな河童様の社と、池自体が自ら結界を造り、僕らを無事に出迎えてくれた。
 



 


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