河童様

なぁ恋

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御霊の焔

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燃えるのは躰なのか?
燃えるのは心なのか?
燃えるのは魂なのか?

答えはどこにあるのか?
或いは、
答えはどこにもないのかも知れない。


*********



黄泉の国。



*イザナギside*

ザワザワと、牢獄の黒衣が蠢く。
私の心の喜びに呼応してはためく黒衣は、一番私の感情を理解している。

と、わずかに繋がったままの視界から視えて来た事柄は、衝撃的で、だが、待ち望んで居た事。

自分の存在意義が、何故こうまでしてこの世界に閉じ込められて居たのか。
本当の意味が理解出来た気がする。
そして、何故こんなにもイザナミに惹かれるのか。
それは、イザナミは、元々私のもので、そして私はイザナギで在った。

喜びは恍惚とした甘い囁きと成る。

私が、真なるイザナギと成ったなら、この牢獄から抜け出せる。

それは、イザナミも同じ。



 
こちらに残って居たイザナミの抜け殻に、雷の子らが、しがみついて居た。

その様子が変わる。

「「あぁあああ───……」」

呻き、叫び、その躰から這い出し、六つの細い光へと変化し、絡み合い、イザナミとの繋がりを介して、あちらの世界へと飛び立った。
同時に、私との繋がりの糸も静かに引かれる。

「「フフフ……」」

口元が綻ぶ。
私はずっと、ここから抜け出す事を願って居た。
そして、囁く。

「「想いは、成就させてこそ意味があるのだ」」

それは直接“私のイザナミ”に届いた。
何故なら、私の一部は子らと共に彼女の内に居た。

眼を開けば、イザナミの指差す先に居る“イザナミ”が視える。
その神々しい光り輝く御霊の焔が視えた。

ざわつくのは私の心なのか、イザナミの心なのか?
目の前の“存在”を私の全てが求めて居る。

存在。
イザナミ。

どれだけ憎んで、それでも、求めて居たか……イザナミは気付きもしなかった。
私を、見ようともしなかった。
ただ一人だけを見つめて、

を追って私の前から消えた女。

は、イザナミの背後に存在して居た。

“それ”は、イザナギ。

イザナミが求めるイザナギ。
だが、私も、イザナギなのだ。
いや。私が、イザナギなのだ。

を取り戻せば、
イザナミは私を愛してくれるだろう。
そうすれば、私達が創造して来た世界は、正しく動き出すだろう。 

 
ざわつくのは私の心なのか、イザナミの心なのか?
目の前の“存在”を私の全てが求めて居る。

存在。
イザナミ。

どれだけ憎んで、それでも、求めて居たか……イザナミは気付きもしなかった。
私を、見ようともしなかった。
ただ一人だけを見つめて、

追って私の前から消えた女。

は、イザナミの背後に存在して居た。

“それ”は、イザナギ。

イザナミが求めるイザナギ。
だが、私も、イザナギなのだ。
いや。私が、イザナギなのだ。

を取り戻せば、
イザナミは私を愛してくれるだろう。
そうすれば、私達が創造して来た世界は、正しく動き出すだろう。 

 
*優月side*

黒龍の欠片を身に纏った黄泉イザナミの変化は、急速で驚くものだった。
黒龍を全て身に宿し、同時に額に棘の冠を被った黄泉のイザナミ。
そして、地中から這い出て来たものはイザナミの雷の子ら。それらは母にまとわり着いて炎と揺れる。

燃える炎が七色に揺れる。

優良の右腕に在る子を合わせると、八つの炎。

白龍の姿を思えば、その雷の子らは全て龍の姿をしてるんじゃないのかな?

八つの龍。
八つ首の大蛇。
ヤマタノオロチ。

日本神話の一つを思い出した。

まさか、と思うけど、黄泉のイザナミを包む炎は、見る見る内に個々の形に変化して、優良を追い込む。
優良の土色の炎も、それに呼応する様に形を変えて行った。

長い体躯を持つ龍。
その一つと七つが向かい合い牙を剥く。
 
その圧力は凄まじいものがあった。
そして見続ける事で気付く。黄泉のイザナミの背後に在る雷の子らの内に“影”小さな霞みの様なそれは、禍々しい光を秘めて居た。

弾ける様に脳裏に浮かんだ姿。
黒い衣を纏った一つ目の男。

その男が、両手を黄泉のイザナミのそれに重ねた。
男が持つ禍々しい力が、瞬時に黄泉のイザナミに流れると、爆発する様に黄泉のイザナミの力が増した。

男。
黒い衣の男。
それは黄泉の王。
優良の言った、イザナギの嫉妬から生まれた黄泉のイザナギその人。
 
 
黄泉のイザナギの視線は、優良の後ろに居るクロスに注がれていた。
その想いが聞こえて来る様で鳥肌が立った。
       
黄泉の二人は、を取り戻したがっている。
誰だってそうだと思う。
黄泉の二人は、真実を知った。知った上で、一つの決断をした。

自分達が二人に取って変わる事。

僕は、
優良が優良で、クロスはクロスであって欲しい。

優良のままでイザナミに、クロスのままでイザナギに。

───受け入れる。

黄泉の二人の事なんて考えてなくて、僕はただそうする事が正しいって思ってたんだ。
受け入れるだけで上手く行くって。
 
 
受け入れる。
自分の“負の部分”を。
それだけで良いって思ってた。
だって誰でも“負の部分”を持ってる。
目に見えるものじゃないけど、そうしたものを内に抱えて皆生きてる。

だけど、目の前の四人は同じ魂を持った別人格で……共存なんて考えてなくて……。

このままだと、破滅する。
   
、破滅して

が終わる。

怖い。
怖い。
怖い───……!!

僕の世界が、壊れる。

その恐怖は体を固くさせる。
心を冷たく凍らせる。

その時、温かい何かが僕に触れた。
それが何かすぐに解った。


「朗」

いつも傍に居てくれる人。
僕の拠り所。
僕の……。

「優月。どうしたい?」

朗が訊く。

「ただ……、皆が幸せになれる。そんな世界を創りたい」

世界は脆くて儚いものだから。
世界の破滅を現す様な目の前の光景。

朗は、僕を包む様に背後に居て、指を絡めて来る。

「皆が幸せになれる世界。
優月、世界はお前の想うままに創られる」

それはまるで暗示の様な言葉で……。

「世界は“カミサマ”が創造しているんだよ?」

そう。神様が全てを創造し、その通りに皆は演じて居る。

世界は、たった一人の想いで出来てる。
   
って、によって動いてる。

「優月。私達は“河童”だ。河童は癒しの力を持って居る。
それは、数多の妖怪が求め乞うた力」

河童の癒し。
僕が最初に願ったのは、河童様の薬。

ばあちゃんを助けて欲しくて河童様に願った。
そうして現れたのは河童の朗。
 




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