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空の彼方
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しおりを挟む躰の奥から沸き上がる熱。
不思議と期待する気持ちが膨らんで、それが内側から弾ける。
私と龍羽くんの繋がった部分から、まるで産まれるみたいに黒く長い剣が飛び出して来た。
それをしっかりと両手で握り体を起こす。
見た目より軽い剣に驚いた。
そして何よりもその底深い力に体が震える。
『優星、それは何だ?』
「うん。凄いよ。これで私も役に立てそう」
そして、今の格好に気付いて思わず笑えた。
『どうした?』
雷を蹴散らしながら訊ねる龍羽くんは、それでも余裕があった。
「怒らないでね。この格好、まるで“日本昔話”の“龍の子太郎”みたいだなって」
日本昔話。
あの不思議な世界観。
優しくて、残酷な物語。
『あぁ、確かに』
私と太郎の違いは、跨いだ箇所がまるでくっいてるみたいに離れない所と、これは物語じゃなくて、現実だって事。
龍羽くんは、私の思いを汲んでくれながら、雷を細かく砕き、躰で弾き、人々を護る。
私は、私の手の中に在る力を握り締める。
私が出来る事をする。
龍羽くんと一緒に。
頭上に剣を掲げる。
目の前には黒い龍。
その周りに在る雷雲が鈍く光った。
ゴロゴロ、グワンと、まるで龍の雄叫びみたいに音を立てる雷雲。
そこから放たれた雷が、私の動きに気付いたみたいにこちらに向かって来た。
光線みたいな幻の様な物でなく、形在る物体。
“雷”は確かに危ない。
けど、こんな感じに使われるなんて想像もしなかった。
まるで夢みたい。
目を閉じる。
見えるのは、ただの暗闇。
そこに射し込む白い光。
剣を持つ手が自然と動く。
上から下へ。
それだけで良かった。
温かい光が体を包み、左右に分かれ弾ける。
背後で爆音が響いた。
“雷”が消滅した。
目を瞑ってても判る。
龍羽くんの様に“壊す”んじゃなく、“消滅”させた。
「凄い……」
ゆっくりと、目を開ける。
眼に飛び込んで来たのは、黒雲に揺れる赤い二点の光。
それが白龍の眼光だと判った。
その刺す様な視線は、しっかりと私達を見据えて居る。それが殺意を持ったものだとすぐに判った。
怖い。
“たまゆら”は、その光に呑み込まれた。
だけど、“まゆら”はそれが怖いと解ってる。
だから、二度と捕まったりしない。
剣を握る手に力を込める。
無意識に震える手。その手に添えられた温かみが、私の全身を優しく包む。
龍羽くん。
龍羽くんの魂に優しく包まれて、私の怖じ気づいた心に再び勇気の火が点いた。
えぇ。私は龍羽くんのルージュ。
それが支えで、私の全て。
解る。
繋がりは、私を強くする。
生きる為の糧になる。
どんな事にも耐えられる。
龍羽くんと一緒に剣を握り締め対峙する。
荒れ狂う恐怖の中心に私は行く。
私が止める。
私達の足枷を外し、私達の未来を、私達の全てを護る為に前に進む。
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