97 / 118
空の彼方
4
しおりを挟むイザナミの記憶のイザナギ。
黒衣のイザナギは、私と同じ、負のイザナギ。
私はそのイザナギにさえ疎まれた存在。
そうだ。
影で在る私がどんなに足掻いても、影は影でしかない。
怒りが込み上げる。
今までの私は何だったのか?
怒りに満ちた胸が苦しい。
苦しい……憎い。憎いっ!
目の前の全ての者が憎い。
手に入らないなら、
全てを無に、
壊してしまえばいい!
憎しみは私を通して頭のに伝わる。
私の憎しみは頭のの目的など簡単にねじ伏せる。
目の前の何もかもを壊して、私が私で有っていい世界を造る。
そうすれば、私のイザナギも私を求めてくれる筈!
私は、私。
「「“イザナミ”は私だ!」」
*龍羽side*
白龍と対峙したまま事は進んでいた。
俺と優星は気を抜かず事態を静かに見ていた。
それは唐突に起こる。
簡単に行くとも思いはしなかったが、優良と話して居た黄泉のイザナミは、一気に内に秘めた闇を解放した。
「「“イザナミ”は私だ!」」
それは神声。
強い“願い”を籠めた言葉。
その神声は白龍を怒らせた。否、黄泉のイザナミの想いを身に受けた白龍は、自身の意思を無くし、あれの思うままに操られる。
黒い眼球が充血した様に赤に染まり、白い躰は黒く闇色に染まる。
「「此処を私の世界に変えるのだ!!」」
呼応する様に再び地響きが起こる。
それは黄泉のイザナミの足元から始まり、この神社の地を中心に周りの大地に広がった。
「「私は、私こそが、イザナギの愛するイザナミだ!」」
黄泉のイザナミは手に持った龍珠を高く頭上に掲げた。
気付いた時には遅く、止める間もなかった。
狂った白龍は躊躇する事なく、その龍珠を噛み砕き呑み込んだ。
その瞬間、
「きゃあぁっ───!!」
悲鳴が上がった。
愛しい優星の苦痛に上げた悲鳴。
「優星!」
倒れる優星を支え、何度も名を呼ぶ。
「優星!?」
ぐったりとした体。
それでもすぐに優星は顔を上げて微笑んだ。
「……平気、よ」
俺の硬い鱗の上に横たわっていた優星は、気丈に震える体を起こし、俺の大きな躰に跨り、力無い体を寄り掛からせる。
優星の前世の躰で出来た龍珠は、現世の優星の魂と少なからず繋がりがあった。
体の痛みなら想像も出来る、魂の痛みは河童でさえ治せないだろう。
「……止められるのは、きっと私達だけ」
決心した様に強い口調で言った優星が、俺の躰を抱き締めた。
その決意が触れた躰越しに伝わって来る。
白龍は龍珠の力そのものと闇を呑み込み黒龍と成り、空へ舞い上がり雷を落とす。
大地は黄泉のイザナミを中心に踊り狂い、世界を変え様としていた。
「私……イザナミとかイザナギとか、世界がどうとかなんて、自分の力でどうにか出来ると思わない……ただ、出来る事を、龍羽くんのお母さんを、解放する。それを頑張っちゃお?」
最初からの、俺の願い。
そうだ。
母の為ならこの身を犠牲にしてもいいと思っていた。
その気持ちは今も変わりはしないが、今は優星と共に生きたいと言う欲求が芽生えた。
強く願うのは、二人の女性の幸せ。
そこには俺自身も含まれている。
俺は、ただ、二人を大切に思い、護りたいだけ。
優星の言う通り、俺達の世界を護る為に俺は白龍を倒す!
「行こう。空へ!」
「うん!」
*優星side*
“龍珠”が黒く染まった白龍の大きな硬い牙に砕かれた。
私が砕かれた。
「きゃあぁっ───!!」
痛みに悲鳴が上がる。
痛い?
苦しい?
痛いのは体じゃない。
これは“魂”?
死んじゃうんじゃないかってくらいの痛みが私を包み込む。
「優星!」
龍羽くんが私の体を支えてくれて、その冷たい鱗に触れて我に返る。
私は、死んでない。
痛みは鈍く身体中に残ってる。けど、良い方に考えれば、白龍との微かな繋がりが断ち切れたって事。
「……平気、よ」
強く思うのは、止めなきゃいけないって事。
「止められるのは、きっと私達だけ」
白龍と対峙しなきゃいけないのは私達。
白龍は黒い躰をうねらせ、空に昇る。
黒く色付いた雲が青空を隠し、大地に雷が落ちる。
大地は黄泉のイザナミの足元からひび割れ、見知った世界が壊れ始めた。
“世界”
だけど、私にはそんな世界を救う何て大それた事出来そうにない。
確かめる様に龍羽くんに語る。
私が出来る事。
白龍を止める。
そして、龍羽くんのお母さんを助ける。
まずはそこから始めよう。
私の言葉を聞いて龍羽くんが大きな躰を起こし上空を見上げて頷いた。
「行こう。空へ!」
私はただ返事をするだけ。
「うん!」
私は龍羽くんの傍で龍羽くんと戦う。
それは生きる為。
大好きな人と大切な人と生きる為。
私はその背にしっかりと掴まり同じ空を見る。
龍羽くんが咆哮し躰を跳躍させ空へ飛び立った。
私は体の浮く感覚と、背中から抜ける力を感じる。
私の背中に羽根が生えた。そう理解した。
私は龍羽くんと一体化して、空へ舞う!
*優月side*
黄泉のイザナミの足元から大地が裂け、黒龍と化した白龍が飛んだ天空から雷が叫ぶ。
それは瞬く間の事だった。
優良と黄泉のイザナミが話していた。
元に戻る事が大事だと、僕は思っていた。
そうすれば全て丸く治まると簡単に思ってた。
だけど、
そんな簡単な筈がなかった。
二人の会話を訊いていて愕然とした。
前世が同一人物だったからと言っても、今の優良と黄泉のイザナミは、もう違う個体なんだ。
それなのに元に戻れば、なんて簡単に僕は言って……何の確証もないのに僕は、僕が今の事態を巻き起こした。
それに輪をかけて、白龍の龍珠が壊され姉ちゃんが一瞬苦しんだ。
けど、心配する先輩に強く宣言した。
自分の出来る事をしよう。って。
はっきりと聞こえた。
そして先輩の背中に跨った姉ちゃんは、白龍を追って空へ飛び立った。
自分に出来る事。
僕に出来る事。
それは何だろう?
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる