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空の彼方
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しおりを挟む空はどこから始まってどこに繋がってるの?
そんなの宇宙に決まってる!
でも行った事ある訳じゃないでしょ?
そうだけど……。
例えば違う世界に繋がってるとかね。
そうだったら面白いねぇ。
何気なく交わした会話。
いつだったか忘れたけど、妙に印象に残ってる。
*********
*優星side*
前世を思い出してからゆづは雰囲気が変わった。
それは当然にも思えたし、私もどこか変わったかもしれない。
ただの姉弟だった時は、小さかった頃は、夢だとか色んな話をした。
学校に上がってからはそんなに話さなくなったけど。
それでも一番身近で大切な存在だってのはいつまでも変わらない。
必要にかられて、懐かしく愛しい土地に足を踏み入れた。
再会した懐かしい魂が道案内してくれてた霧の中で、ゆづがいきなり気を失った。
それどころか心臓も呼吸も止まったと朗が叫んだ。
けど、私は何故か眠ってる様に見えた。
そして視えたのは、空へ飛び出したゆづの魂。
“空はどこから始まってどこに繋がってるの?”
ゆづの疑問。
昔二人で話した何気ない会話を思い出した。
本当にどこに続いてるのか?
こんな時なのに、ゆづは確かめに行ったんだって感じた。
空の彼方の宇宙とは違うどこかの世界に。
だってほら、すぐに息を吹き返して立ち上がった。
帰って来たゆづは……とても力強く、とても綺麗で、その言葉には力があった。
そして、その力を持って皆の目を惑わしていた霧を晴らし、道筋を照らし出した。
晴れた空には暖かい太陽があって、その光が降り注いでるみたいに、ゆづを金色に輝かせた。
輝き?
ふと見えたのは長い金色の髪。
この子は誰だろう?
私が見ているのはゆづ。
何故かゆづとは違う誰かに見えた。
目を瞑り、首を振る。
改めて視線をやると、見えたのはやっぱり私の弟、ゆづ。優月。
不思議な感覚に揺らつく視界。
腰に手を回され、龍羽くんに支えられたのが判った。
「優星?」
「うん。……龍羽くん。龍羽くんにはゆづはどう見える?」
変な質問だと自分でも思う。
「優月に見える」
「そうよね」
貰った答えに安心して、体を立て直す。
ゆづと朗は目前にある崩れた建物に向かって居た。
「目に見えるものが全てではないと思うがな」
龍羽くんが囁く様に呟いた。
それに応える前に、龍羽くんが足早に前に進む皆を追い掛けたから私も繋いだ手に引っ張られて後を着いて行く。
その建物から覗く黒い影。それは全ての光を拒絶しているみたいにまがまがしい気配を纏って居た。
それは黒い球体。
私の躰を雷が落ちた様に衝撃が駆け抜ける。
混乱はしていない。けど、この中にあるものを私は望んでいない。
この中に居るのは私の一部を持ったもの。
白龍。
「母さん……」
龍羽くんが呟いた。
目を凝らして暗闇を見ると、とぐろを巻いた白龍の中心に女性が眠る様に体を丸めて居た。
それがはっきりと見えた。
「眠って居る。それを起こしてどう対峙する?」
朗がゆづに訊く。
「受け入れるんだよ。元々の姿に返る。それが自然で幸せになる第一歩だから」
当たり前みたいにゆづは言った。
*優月side*
決意を口にして周りの皆の顔を見る。
その中の姉ちゃんに目が留まる。
姉ちゃんを思う。
僕と姉ちゃんの関係。
兎に角話をするのは楽しかった。
空想でもなんでも、姉ちゃんとは話していて楽しかったから。
でもそれは“男女”に分かれるまで。
姉ちゃんは女の子だからと髪を伸ばし始め、僕はばあちゃんが亡くなってから視力が悪くなり眼鏡をかけた。
姉ちゃんが一足先に学校へ上がると、互いの視野も変わって来る。
思う事も遊びも幼かったあの頃とは変わって来て、でも河童様の事でクラスで浮いてしまった僕を、毎日文句も言わずに一緒に登下校してくれて、何も言わなくても理解してくれてたのは姉ちゃんだけだった気がする。
それは無条件に受け入れてくれてて、姉弟って良いなって思えて、両親とは違う愛情を教えて貰った。
だから、
何があっても姉ちゃんの味方で、姉ちゃんも僕の味方なんだって強い絆を感じてた。
目前に居る黄泉のイザナミの、それを護る白龍は姉ちゃんの一部を有してる。
視線を姉ちゃんに戻すと、僕を見てた。
交わされた視線。
幼い頃みたいに解り合えた気がした。
頷いて、空を見上げる。
広がる青く澄んだ空。
空の先には何がある?
何があろうと、今の僕らには関係ない。
僕が見なけりゃならないのは地中。
そこに閉じ込められた“想い”を浮上させて成就させる。
長い片想いを成就させる事。
幸せを手にする事。
皆の、自分の……大切なのは、幸せと感じる事。
僕はずっと幸せだった。
それなのに、渇望するのは幸せになる事。
矛盾はある。
けど、
望む様に前に進む。
「姉ちゃんと僕で黄泉のイザナミを目覚めさせる。“閻魔帖”と“櫂”を使って」
僕が言葉にしたと同時に、姉ちゃんの手の平が光った。
水先の“櫂”は、代々そうであった様に姉ちゃんが継承した。
そして、僕の手の平には“閻魔帖”が握られる。
暖かい光が体を包む。
それは内側から溢れ出る僕自身の力の様で、不思議と恐れも不安もなく、全てを受け留める覚悟も出来て居た。
それは後ろに居る朗の存在が、
対の存在の様な姉ちゃんが傍に居るから。
「“閻魔帖”よ、道を開け」
光が真っ直ぐに黄泉のイザナミと白龍の黒い球体を照らすと、白い光の扉が形を成した。
「扉よ、開け」
姉ちゃんの言葉で櫂が回り、光の扉に重なって溶け入る。
全ての望みを叶える閻魔帖と、強い壁を、どんなものでも開ける櫂が抉じ開けたのは、未来への扉。
僕は無意識に朗の手を握ってた。
僕は前へ進む。
確かな世界と、未来を賭けて。
音もなくゆっくりと、光の扉が開く。
黄泉へと繋がる道。
希望と絶望と、
愛と嫉妬、
背中合わせの想いの詰まった“部屋”の入り口へ、足を踏み入れる。
「行こう!」
僕らの未来を手にする為に!
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