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二人の男
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しおりを挟む「決着をつける。それがどう言う形になるか正直判らない。
だが、もう放っておける状況でもない」
朗が言う事は皆が感じてる事だった。
母さんの目は元に戻ったけど、あの時の恐怖は忘れられない。
下手をすれば死んでいたかもしれない。
先輩を見る。
姉ちゃんの隣で頭を下げて辛そうで、先輩のお母さんの躰にイザナミが居るんだから、心配でどうしたらいいのか解らなくて途方に暮れてるんだよね。
優良は難しい顔をして話を聞いてた。けど動揺してるのが判る。
クロスの言動に驚いたんだろうな。
───イザナギになる。
なんて言ったクロス。
優良の彼氏になりたい?
誰かを好きになるって不思議な事をする。
ゾッとした。
それは、何でもしてしまう。って事じゃないかな?
そう考えたら、黄泉のイザナミが優良を狙う理由が気になった。
「何で黄泉のイザナミは優良を探すの?」
「それは、私が“イザナミ”だから」
優良が当たり前の様に答えた。
「今の私、優良は、魂の欠けた状態なんだ。それでも大部分を持つ私は不自由しないが、黄泉のイザナミは違う」
「魂の負の部分だから?」
「簡単に言えば、神の性質上完璧を求める気質がある。欠片では満足しないのだ。
黄泉のイザナミは、知能も魂の欠片程しかない筈だ。だから、私が必要。それに……」
一度口を閉じた優良が苦々しく公言する。
.......
「黄泉のイザナギは、私を求めて居る」
それは“閻魔帖”で視て解ってたつもりだった。
「あれは、あの存在も……“負”だから」
「負?」
黄泉のイザナミは優良の負の部分。
なら、黄泉のイザナギは?
「あれは黄泉に堕とされた神の子。
イザナギの“嫉妬”から産まれた彼の負の部分。
黄泉のイザナギもまた、私のイザナギなんだ」
言われた事の意味が判らず言葉が出なかった。
「イザナギの、負の部分?」
最初に口を開いたのはクロス。
「そうだ。神は醜いものが嫌いで、それを良しとしなかった。
現にあの頃のイザナギはおかしかった。
私達の子どもでも男と見れば嫉妬した。
母乳を与える事さえ嫌がった。
度を超した愛情。
その嫉妬心をイザナギから分離させた。それが名を持たぬ神の子“黄泉の王”と成った」
深く愛する事は決して悪い事じゃない。
それが狂気に変わると、それはもう悲劇。
「黄泉の王は、その強い神力を封じる為に、“獄衣”を着せられ黄泉に幽閉された。
幽閉される直前、その身から零れ出た私への想いが私を死に至らしめた」
産んだ炎に焼かれ死んだ。
その子どもはイザナギとの子ども。
嫉妬から生まれたイザナギも父親に違いなかった。
*クロスside*
「ニャんでそんな……」
知らなかった。
けど、知らないじゃすまない。
「イザナギに分身の存在の記憶はない。黄泉の王にもその記憶はない。それが最良と思ったからこそ、神のご配慮に感謝さえしていた」
優良の顔。
その哀しみに満ちた瞳は一人で耐えて来た事を窺い知るのに十分で、自分がどれだけ愚かだったか思い知らされた。
「だから、簡単に騙された……」
呟きは確信に変わる。
あの時視せられた幻影は、イザナミの醜い姿。
それは大した事ではなかった。
俺が耐えられなかったのは、黄泉の王とイザナミの睦み合う姿。
信じたかった。
けれども、信じきれなかった。
見たくなくて、逃げ出した。
その結果がイザナミとの決別。
迎えに行った筈が、別れる切っ掛けになった。
想いとは裏腹な結果。
「なんで神はそう潔癖なんだろうね」
突然口を開いた水先の父。
「だから人間が良かったんだニャ」
応える様に呟いた言葉に自分で驚いた。
「そうだね。なんで人間みたいに柔軟じゃないんだろうね。
人間もまた神の子どもなのにこうも違うと全く違う世界の生き物だと納得してしまうね」
この男は、見えない目で俺を真っ直ぐ見つめて話していた。
「クロス。貴方の魂は確かに“イザナギ”ですね。
いえ、僕には最初から解って居ましたが……」
思わぬ事を言われ驚いた。
「“イザナミ”は信じたくなくて見えていないのでしょうが、僕の弱視の瞳にははっきりと魂の輝きが見えています。
何故なら、僕の瞳には貴方の魂の欠片があるから」
息を呑む。
言われた事が事実なら俺は……!
「嘘だっ!」
叫んだのは優良。
「嘘だ!」
その声は震え、その瞳は哀しみを映していた。
完全に否定された。その言葉はそう言った響きを持っていた。
イザナミに拒絶された。
でも、それは当たり前で当然の様にも思えた。
俺は、
.
私は、大罪を犯したんだ。
今更、イザナミを求める資格はないんだ。
重く、重く伸し掛かる現実。
その重圧に耐えられない。
この切なさに、辛さに耐えられなくなって、私は目を閉じる。
私は必要ない。
..
私は、
..
俺は、猫なんだ。
...
化け猫なんだから───。
目を閉じると、気が遠くなって、意識がなくなって行った。
*優月side*
父さんが言った事も、優良が叫んだ事も、クロスがまた意識を失った事も、時間の流れが止まったみたいに一瞬で……。
優良がイザナミ。
クロスがイザナギ。
父さんの目にイザナギの欠片。
「父さんっ!?」
思わず声を掛けていた。
「うん。優月が訊きたい事も判るよ。クロスは意識を閉じてしまったみたいだし、優良も納得いかないかもしれませんね」
ふう。と息を吐いて、話を続ける。
「僕は水先に流れるイザナギの魂の全てを両眼に封じて産まれて来たのですよ。
それが何故か解りますか?」
優良が、皆が父さんを見る。
「僕がそれに気付いたのは自分の前世を知った時。
それ自体は優良も気付いていましたね。
けれど、僕の弱視の意味には気付かなかった。
イザナミとイザナギは相反する魂の持ち主。あくまでも夫婦であって交じり合う事はないのです」
父さんの言葉に疑問が湧く。
そもそも魂って何なんだ?
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