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龍牙咆哮
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しおりを挟む誰が邪魔しても、私を止める事は出来ない。
“土火”に閉ざされたこの世界に、ずっと居る訳にいかない。
「ねぇ、龍羽くん。私達は行かなきゃ」
目線を合わせて囁く。
瞬きした次の瞬間には、龍羽くんの瞳は白くなり、姿も淡く光り始めた。
「優星の思うままに」
頭を下げた龍羽くんが右手を水平に挙げて手の平を上にする。
その手の平に身体と同じ淡い光りが浮かび上がった。
それは、まるで光りの炎。
光りの炎は、そのまま弾け、私達の周りの土色の炎を弾き飛ばした。
「はあぁ~」
水中から出て息を吐けた感じで、思い切り深呼吸する。
そして、視線を感じて顔を上げると、皆がこっちを見てた。
「―――何て、無茶をする?!」
優良が目を見開いて驚いて居た。
「だって。狭い所、嫌いだし……」
本当に嫌い。
「私は龍羽くんのお母さん助けるって約束してたの」
って拳を握り力説する。
「私は、水先 優星。他の誰かだった時もあったけど、今の私は優星。
だから、私はあくまでも龍羽くんの“ルージュ”」
当たり前の事。
この数時間で前世を視た。それはそれぞれの物語があって、本当にあった事で……。
だけど、それは過ぎた出来事。
「私は私。他の誰でもないんだから、私の思い通りにするの!」
それはゆづにも言える事。
「前世の事で悩んだりするのは違う気がする。
私は龍羽くんが好き!
ゆづ。あんたは?」
ゆづを見て訊く。
朗は最初から答えを持ってた。
まあ、彼の場合は妖怪の立場だったから男女とかそんな常識なんて関係無かったから、なんだろうけど。
「関係……ない?」
何だか不思議な顔をしたゆづ。
「だって……僕は、」
それだけ言うと、隣に居た朗を見上げる。
「そうだね。好きだ。朗を“河童さま”と慕って来た頃から、」
ううん。と、頭を振り、
「助けて貰って、その姿を見た時から好きになってたんだと思う」
*優月side*
僕に向けられた姉ちゃんの揺るぎない瞳と、強く言い切った言葉に、何だか目から鱗が落ちた。
何度も自問自答して来た。その殆どが前世の“ゆうつき”が感じてた気持ち。
“閻魔の朗”を想う気持ちがどこから来たのか解らずに、その想いに翻弄された。
それは朗と出逢ってから死ぬまで続いて。
“想い”に答えなんて無いのにね?
想う人が居る。
.. ....
大事だと思える人が居る。“思い”は“想い”に変わる。
家族は最初から深い愛が存在している。
家族とは違う“愛情”が、生まれる気持ちは……ただ一人と巡り逢い、育つ想い。
“泉守道者”常に傍に居た家族の様な人だった。そこに育った想いが、“閻魔の朗”に出逢って訳も判らず花開き、“河童の朗”と出逢いゆっくりと向かい合う事になった。
問題は、今回は同性である事。
戸惑い、悩んだ。
けど……。
だけど、僕は、
「僕は、朗が好きだよ」
真っ直ぐに視線を向けた先に、河童の朗が居た。
揺るがない想いだと確信する。
「優月は、朗が好き」
朗の煌めく瞳が優しく細められ、長い黒髪が宙を舞う。
大きな体に抱き締められて、朗を感じて、涙が出そうな程の幸せ感に包まれた。
目も眩む幸せ。とはこう言う事かと思った。
冷たい体。でも心はほっこり温かくて。
僕は、朗が好き。
朗も僕を好きだと言ってくれている。
それで良い。
それだけで良い。
それが幸せ。
互いに想い想われ、それが自然で当たり前で……当然の事。
「ずっと、ずっと。求めてた。お前だけを、優月だけを」
二人から立ち上る桃の匂い。菊理媛の残り香。
震える魂。ゆうつきの喜び。
ただただ幸せを噛み締める僕。
三人は一人。
一つの個体。
僕は優月。
河童の優月。
「想いは成就した。
私はもう……何も怖くはない」
朗が僕の腰から抱き上げ、胸に頭を優しく擦り付けて来た。
その仕草が可愛くて、そっと頭を抱き締める。
朗の柔らかい黒髪から真水の匂いがした。その真水と仄かな桃の香りが溶け合って、体の奥から力が湧いて来た。
何でも出来そうな気がする。
うううん。きっと何でも出来る。
視線の先に居た姉ちゃんと目が合った。
心が通じ合った様に互いに頷いた。
そうだね。まずは、
「先輩の母さんの所に行こう。僕が、僕達がしなきゃいけない事だから」
「うん。行こう」
姉ちゃんが笑う。
釣られて僕も笑う。
危ない場所に行く筈なのに怖くない。
朗が傍に居るからかな?
皆が一緒に居るからかな?
狭い部屋に集まった皆の姿を、天井に近い場所から見渡す。
それぞれの顔が見える。
父さん母さん。
姉ちゃん、先輩。
優良、クロス。
朗の父さん母さん。
“絆”は“力”だと思う。
「そうだな。逃げてばかりじゃ居られない」
優良が両手を腰に当てて決心した様に頷く。
そこに初めて朗の母さんが綺麗な白布を優良に掛け、素早く腰に赤い紐でリボン結びする。
「これでよし。女の子がいつまでも裸体で居るなんて許しません」
にこやかに言い、ぽんぽんと頭を撫でた。
「あぁ。忘れていた。
ありがとう。母者」
白い着物を撫でて嬉しそうに微笑む優良は、まだ幼い顔をしていた。
「ああ嬉しや。初めて母と呼ばれた」
と、朗の母さんが優良を抱き締め喜んだ。
いきなり赤ちゃんから少女に成長した娘を、前世を話した優良を、そんな事に捉われない態度で喜ぶ彼女も、紛れもない母親なのだと感心した。
僕も、母親だった。
そんな思いを振り払う様に頭を振る。
「救けに行くよ!」
力強く宣言した。
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