河童様

なぁ恋

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龍牙咆哮

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優星に母さん。

愛しいものを全て奪われてしまったら、俺は―――狂ってしまう!

この人間らしい感情を持てた事は幸なのか不幸なのか解らない。


産まれた時、18のその姿と精神年齢は比例していた。
母の恐怖も状況も、自分の立場も理解出来ていた。

だが実質、俺を育ててくれたのは、人間の思考を育ててくれたのは、今は亡き祖父だった。

母の父親。
龍羽神社の神主。

俺を見て、母の状態を見て、一目で何が起こったのか理解し、行動した。

能力者であった祖父は、母をその場に封じ―――現在その封じを俺が引き継いだ―――誰も入れない様にした。
一族に俺の存在を簡潔に説明し、現在までの道筋を作ってくれた。

そして、“龍羽”の名をくれた。

「龍の羽根。お前は龍よりも上を生く者になりなさい。
名はその人となりを表すものだ。
お前は人間として生きるのが定め」

母の壊れた様を、女性に対しての自分の立場を、人に与える優しさと、己に課す厳しさとを教え、唯一俺を普通に扱ってくれた。

俺の人間味を作ってくれた。
久しく思い出しもしなかった祖父を想い、留めていた息を吐き出す。 

 
彼は強い人間だった。
その血を受け継いでいるのだ。

人間は何よりも強い精神を持っている事を知っている。

祖父を思い出した事で、冷静さを取り戻し、右腕に温かさを感じて顔を上げる。

優星が心配げに俺を見ていた。

「大丈夫?」
おずおずと訊ねる。
腕に触れた温かみ。
..
温度が解る事に更に意識する。
優星と出逢い、俺の全てが変わった。

以前は沸々とした不安や憤りで自分は負の者。
妖怪側に在ると考えていた。
だが、やはり、人間側が自分の在るべき場所だと強く意識した。

「大丈夫だ。優星は俺の、“龍羽のルージュ”なんだ。
白龍の奴の元には行かせない」

優星の瞳を見つめ、その手を取り宣言する。

「優星は、俺の唯一無二の乙女だ」

何があってもこの手を離しはしない。
 
 
 
「それはプロポーズ?」

目を輝かせた優星が満面の笑みで訊いて来た。

「そ、れは……」
「冗談よ」
にっこりと笑みを浮かべた優星。
俺は……。

「いや、ずっと一緒に居たい」

それを約束出来るのなら、人間の男女の交わす婚姻と言う形を取ってもいい。

取ったままだった優星の手を握り直し、その輝く瞳を見つめる。
逃げられない様約束したい。

「結婚してくれ」

言葉に力が有ると俺は知っている。

「な。きょ……」
「龍羽と呼んでくれ」

真っ赤に顔を染めた優星が、口をぱくぱくさせて絶句してしまった。
何か、間違ってしまったのだろうか?

「何とも、正直で真っ直ぐな男だね」
後ろに居た水先の父が口を開いた。

「結婚は、一緒に居られる約束だろう?」

「そうだね。僕達もそうして幸せだ」

自分の為に転生した座敷わらしを捜し出し、結婚した者の姿。

「俺は、優星が欲しい」

正直な気持ちを言葉にする。
今まで優星がそうであった様に。

 
*優星side*


いきなりのプロポーズ!
驚きと、喜びと、焦りが内混じりになってパニックになる。

確かに本気半分でプロポーズ? 何て訊いちゃったけど。
私の手を取り私を真っ直ぐに見る響夜くん。

龍羽って呼べ。何て、男らしくてキュンッて来ちゃった。

ああっもちろん。って口を開いた時、

「取り敢えずは“お付き合い”から始めたらどうだい?」

父さんがいつものにこやかな顔を私達二人の間に覗かせた。
まるで邪魔する様な感じ。

「いや。形にしたいんだ」

引かない響……うううん。龍羽くんが父さんに視線を向けて、一度、眼を見開いた。
繋いだ手に一瞬力が籠もって、ゆっくりと離される。

? 私側からは見えない父さんの顔。明らかにそれを見て動揺してる龍羽くん。

「陽太くん。邪魔しない」
これだから男親は。って、笑みを浮かべた母さんが父さんを引っ張って離してくれた。

「龍羽くん?」

私の呼び掛けにハッとした龍羽くんが、

「人間の父親とは、強いものだな」

にっこりと私を見た。
嬉しそうな寂しそうな不思議な笑顔。

 
離れた手を今度は私が握り取り、
「私の答えはもちろん、イエス! お付き合いでも婚約でも結婚でも、どんな形でも私の相手は龍羽くんだけよ!」

はっきりと言葉にすると、それは真実で、幸せに胸が高鳴る。

「龍羽くん。大好きよ!」

気持ちのまま抱き締めた。
額が、額の鱗が龍羽くんと共鳴する様に響いた。

それは涼しく美しい音色で、心に、身体に、自分の全てに響き渡った。


そして、心の深い底に在る、魂の部分に触れた。

鼓動が一度大きく弾けて、身体が跳ねる。



「しまった!」

優良の声が響いたと同時に、胸の一点が熱く燃える様に疼き出した。

「居場所が知られた」
言った優良が私に右手を翳した。

そこから生まれた揺れる炎、土色の火龍。
その炎は私の全身を包んだ。熱くはなく、周りから遮断された。
龍羽くんとも弾かれて、切ない。

「やだ! 龍羽くん」
 
でも、胸の一点の熱は消えていた。
 
 
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