河童様

なぁ恋

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仄暗い焔の先に

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「話がそれてるよ!」
真っ赤になった優月が叫ぶ。

「あぁ、鬼の事だったか?」
脱線してしまった。
余りにも突飛な話が続いたので流しそうになった。

「優月はまた夢を視る。
そこから妖気の居所を突き止めよう」

視たものが本当ならば、それはまた対策を練らなければならない。

「助けに行ったとしても、命を落とす事になるのはごめんだ」

優月の元に帰れなくなるのも。


優月が両親に文句を並べ立てている。

その身姿も、話し方も、声も……全てが愛おしい。

そうか。私は優月が傷付くのを見たくないのだ。

だから、今の状況が気に入らない。
夢を視るのは私ではなく、優月だから。

危険な事をさせているのが辛い。

そう思ったら堪らなくなり、優月を背中から抱き締めていた。

優月の怒号と、私の顔に飛び、張り付いた化け猫の鳴き声が部屋に木霊した。
 



どんなに考えても私には優月が必要。

なら、護れば良い。
何者にも傷付けられない様、私の腕の中で……。

「優月……好きだ」

今はこの想いを伝えるだけが精一杯だが。
 
 


*優月side* 


「朗……助けて」

暗いそこはとある地下に在る洞窟。
長い黒髪がその岩壁に綺麗に編み込まれ、美しい肢体は大の字に自らの髪の毛で絡め縫い込まれていた。

岩壁。
その壁は鈍色で仄かに発光して居た。
それは大きなゴツイ岩壁?

否。
    ....
女の髪は鈍色の躰に巻き付いて居た。

その鈍色の肌を持つモノは煙の様に揺らぐ黒い長髪が腰まで伸び、長い髪は顔を隠し、高い鼻だけが突き出ていた。
そしてその頭上には真っ直ぐに伸びた白い角が三本。

「助けて……」

鈍色の鬼に背後からいだかれる様に捕らえられている女の顔は美しい。だが、その瞳に生気はなく、唇だけが機械的に動いていた。

『そうだ、呼べ。さすればそなたを、あの者達を解放してやろう』

そう言った鬼の髪の奥に隠れた瞳が白く光る。
それは発光する躰と同じ光。

『呼ぶんだ。ずっと……新たな“河童”が我の元へ来るまで』

女は首をうなだれ、ただ唇を動かす。

「ろう……朗……ろ……う」

その生気の無い両の瞳から涙が零れた。
 
 
 
それは“悪夢”
 
 
 
 
*********



「あぁ―――!!」

声の限りに叫ぶ。
恐ろしさに身体が震え、哀しさに涙が零れる。

「優月!」

朗の声。その“温かみ”を感じて徐々に落ち着いて来た。

「朗……」
震える身体を朗に押し付けた。

少しして、幾分か落ち着いて、今視た事を正直に話す。






身体を発光させる鈍色の鬼。
それに囚われた朗のお母さんの状態。

あれは……
「一体化されてるニャ」
クロスが呟いた。

「どう言う意味?」

「鬼は死にかけて居て死にたくニャくて河童を躰にくっつけてるニャ」

確かに、そう見えた。

「朗?」

辛いのは朗だ。
僕の背中に回された腕に一瞬力が入る。

「河童。“妖気の匂い”を覚えたから後を追えるニャ」

「クロス偉い!」

朗に抱き締められたままの状態で脇に来たクロスの頭を撫でる。

「……朗?」

僕の頭は朗の肩に押し付けられていて、僕が今クロスにした様に頭を撫でられた。

「怖い思いをさせてすまなかった」
「大丈夫だよ」

だって、朗が傍に居ると判ってたから。だから平気だった。
いや。正直怖くて今も身体は震えてる。けど、しっかりと朗が支えてくれてるから。

“好きだ”

そう言われた事を思い出して頬が熱くなる。

何度も言われる言葉。
 
 
朗の力になりたい。

情に絆された訳じゃないけど、非力な僕がそう思えたのは朗が裏表なく真っ直ぐに僕へ伝えて来るから。

“好きだ”

言われる度に、何故か力が湧いて来た。

朗の背中に腕を回して抱き返す。

水に近く、実際に触れたら冷たい朗の身体が温かく感じるのはどうしてかな?

「助けに行こうよ!」

密着していた身体を離した朗が、僕の顔を覗く。

「怖くはないのか?」

驚いた様な複雑な表情を浮かべた朗が訊く。

怖い?
さっきもそう言われた。
でも朗の傍に居ると、不思議と恐怖心が薄らぐ。

「怖いよ。でも、朗のお母さんのが怖い思いしてると思うんだ」

「私も怖い。
それでも行くと言うんだな?」

誰かが助けに行かないと助からない命もある。
僕は黙って頷いた。

「俺は怖くニャいからな!」
クロスが二股尻尾をピンと立てて言い切った。

可愛いクロス。
僕はその本質を解ってる。

クロスは強い。

「三人で頑張っちゃおうね!」

そう言ってそれが当たり前の様に朗を抱き締めた。



仄暗い、
揺らぐ焔の先にある場所へ。
“仲間”を助けに行く! 
 
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