河童様

なぁ恋

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人間と妖怪と生

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*朗side* 


「うらやましい?」

そう言った優月がこちらを振り返り目が合った。

「“想い”はどこから来るんだろうな?」

「想い?」

おうむ返しの優月の真っ直ぐな視線がしっかりと私を見つめる。

「正直言うと、私は優月に呼ばれて目覚めたんだ」

「え?」

「10年前のこの時刻頃だ。必死に祈る優月の声が聞こえた」

それはゆっくりと身体の感覚の目覚めを誘い、眠って居た事実を一瞬で忘れさらせてしまったのだ。

「思い出した。私は父を見送った後、徐々に眠りに入ったんだ」

それは何故か?

「水先の話を聞いている内に思い出した」

この場所この離れ。それに、天井の傷。

「父はやはり、母を探しにこちらに来たんだ」

それもやはり、想う気持ちが為せる業だと今なら判る。
 
 
眠った後、水を通して自分に話し掛ける声があった。
それはまるで子守唄の様に淡々と口づさむ声で、河童の“いろは”も眠りながら聞き学習した。

「それって、おばあちゃんかも」

優月が興奮した声で起き上がり話し出した。

「おばあちゃんはいつも池のほとりで歌ってたんだよ!
僕はずっと傍に居たから覚えてる」

優月も近くに居たのか。

「さらわれたって朗のお母さん……僕のひいおばあちゃんの従姉妹だったって母さん言ってたね」

「血族」

「“河童様”と親戚!」

身を起こし、優月の目線に合わせて話す。

「何か興奮しているな」

解るような気はするが。

「ん~……。一日だよ。一日で色んな事が起こって……母さんは座敷わらしだったし、父さんは目がほとんど見えてなくて、姉ちゃんは龍の先輩と大変で。
僕は河童に成った」

一気にまくし立て深呼吸する。

「そして、クロスは可愛い」

自分の横で丸まっていた化け猫の頭を撫でると、小さく溜め息を吐いた。
 
 
「ニィ……」

寝惚けた化け猫が小さく鳴いた。
この状況下でよく眠れる。

「混乱するのも判る」

月明かりが障子を明るく照らし、畳に影を作る。

「私の代わりに混乱しているのか?」

捕まった母を、それを追い掛けた父を。

「優月の母の話で確信したんだが、私達河童は自分の契約者、呼出人が亡くなると人界には来れなくなるんだ。
父が居なくなったのは、先の契約者である節子が亡くなると、母を探す事が出来なくなるから帰って来なかったんだ。
あくまでも推測だが、否。父は母を探して居た」

自分の命こそ危険な世界に身を置いてまで、何故そこまでして母を探そうとするんだ?

「朗のお父さん、すっごくお母さんの事愛してたんだね」

愛?

「“愛”とは何だ?」

優月は首を傾げて、困った顔をした。

「それは、ごめん。正直よく解んないよ。
“好き”が沢山増えたら“愛”に成るんじゃないのかな?」

優月の事を想って過ごした日々を思い起こす。
朝、優月の声で目覚め、夕、優月の話を聞く。
それが、とても楽しく幸せで、迎えに行くのが待ち遠しかった。

これは、好きな気持ち。
愛なのだろうか?
 
 
*優月side* 


「私は優月を愛している」

「え?」

はい?
何か聞きなれない言葉が朗の口から零れた。

「私は優月が好きなんだ」

朗を見る。
冗談だと思った。

けど、僕を見る瞳は、朗の瞳のキラキラ光る星が冗談じゃないと、無言で語ってる。

姉ちゃんや母さん達にやけにこだわると思った。
だから変な学習しちゃったんだ。

それに、
ずっと一人できっと淋しかったんだ。

―――って思うけど、真剣な朗の視線が、痛い。

そんなに暑い訳じゃないのに、汗が吹き出す。

何かヤバイ空気感。

「キスをしても良いか?」

はいぃ―――?!

あ。心臓がバクバク言い出した。

朗が自分の布団から抜け出して、こっちに来る。
そんなに離れてないからすぐ傍に来た。

朗の顔。
整った顔立ちに綺麗な長い黒髪。
……息が掛かる程に朗の顔が近付いて、逃げる事が出来なくて。
身体が言う事聞かなくて。

朗の綺麗に輝く瞳に圧されて、ギュッと目を瞑る事しか出来なかった。
 
 
ふさふさしたものが唇を擦る。
目を開けるとクロスが僕らの間に居て、二股尻尾が朗と僕の唇を隔てていた。

「ニャぁにやってんだニャ」

止めていた息を大きく吐く。安堵して肩から力が抜けた。

「好きだから“キス”をしようとしていた。邪魔をするな」

見るからにムッとした朗がクロスを睨んでる。

「はぁ~。お前は世間知らずだニャ」

溜め息と言葉を同時に吐いたクロスが、僕の膝に腰掛け身体を伸ばして朗を見上げた。

「第一に、同性でキスニャんてしないニャ。
第二に、普通は人前でするもんじゃニャい」

右眉端を上げた朗が本気で驚いた顔をした。

「好きならしても良いじゃないか! 人前? お前は寝ていたぞ。それに“人”じゃない」

見た目の大人っぽさが嘘みたいに駄々っ子みたいな朗の姿に、堪らず吹き出してしまった。

「何だ?」

朗が拗ねた顔をした。

何だか人間らしい表情をする朗を愛おしく感じて、
「僕も朗が好きだよ」
考えなしに口にしてしまっていた。
 
“後悔先に立たず”って言葉があったのを思い出したのは、柔らかい唇が重なった後だった。

ファーストキスが、男。

姉ちゃんみたいにセカンドまで……何てなりません様に。と願いつつ、意識が遠退いて行った。
 
 
 
 
 
 
今まで思った事なかったけど。


生きる事って、
愛する事と比例して居るって思った。


愛するものが居るのと居ないのじゃ全然違う。


大好きだったおばあちゃんが居なくなってから、どこか心にぽっかりと穴が開いたみたいだった。

けれど、それを埋めてくれたのは河童様。

朝夕と河童の池にキュウリを届けて話をする。

それがどんなに心の支えになって居たか。

小学生の時、同級生に河童様の事を話してものすごく悪く言われた。

いじめられた事実より、河童様を……僕が想う河童様、朗を悪く言われた事が許せなかったんだ。






これって。
“好き”な気持ち?

好き=恋?

“恋”?








これは悪夢かもしれない。

次の日、目覚めて最初に思った事。
 
 
 
 
 
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