22 / 118
人間と妖怪と生
4
しおりを挟む「父さんが視力が弱いのは何となく判ってると思うけど」
そりゃ分厚い眼鏡をかけてるからね。
「本当は、ほとんど見えてないのよ」
「「え?!」」
僕と姉ちゃん同時に声を出してた。
「歩き初めて解ったのよね。見てて危なっかしくて。だから“右くん左くん”が生まれたの。優太くんの視力を助ける為にね」
右眼左眼って事だと解った。
「助かってるよ。色んなモノが視えるからね。だからこそ、璃世と再会出来た」
嬉しそうに目を合わせる二人の年齢差は15もあった事を思い出した。
「母さんわね。優良の導きで人間に生まれ変わったのよ」
「簡単に言ってるけど簡単な事じゃないよね? 僕は河童に成ったみたいだけど、人間から妖怪に出来るのは河童だけだと訊いたし。ましてや妖怪から人間になんて……」
「正確には“人間から妖怪”には“鬼”になら恨み辛みが強ければ成る事がある。動物からは妖怪に化けるけど、人間は鬼に成る。これは心が壊れて邪悪に成る事だから救いがないわね。
でも河童が変化させるのは人間の性質のまま仲間にする事だから、これが出来るのは河童だけなのよ」
それに、と続いた話は“座敷わらし”も元は人間で在った事。
「だから、“生まれ変わる”には、自分の血筋でないといけなかった。母さんは長い年月放浪してた。だから元は北の大地の生まれだと知らなかったのよ」
母さんの実家は北海道。南に近いここに住んでた父さんがスキーツアーに行って出逢ったと聞いていた。
「璃世の分身である右くん左くんが居たからね。再会自体は簡単だったけど、人間に生まれ変わった訳だから、僕の事忘れてる可能性もあったから気が気じゃなかったよ」
でも?
「一緒になる為に妖怪で在る事をやめたの?」
「そうね。私は優太に出逢う為に水先家に辿り着いたみたい。
本当にね、産まれてすぐ好きになったんだもの」
頬を赤くする母さんは綺麗だと思った。
「赤ちゃんに恋したの?」
姉ちゃんが笑った。
「そう言う貴女もませた子ね。右くんが教えてくれたわよ。年上の響夜くんにえらく積極的だったわね」
うっと、言葉につまった姉ちゃんは強かった。
「格好良いと思ったのよ!」
「母さんは可愛いと思ったの」
女二人で目を合わせて次の瞬間には微笑んだ。
「そして今の私は、そこそこの霊力を持ったただの人間。まあ、座敷わらしの時の分身である右くん左くんは、小さな座敷わらしとしてそこそこの妖力を持ってるから、立場としては両方の間に居ると言った所かしらね」
「水先家の理想系だね」
父さんが隣に座る母さんの肩を抱き寄せた。
「水先家って、河童様の反対で、妖怪を人間にする力が有るって事?」
単純に考えるとそうなるよね?
「そうね。だから代々河童と縁を持ち続けたの。
遠くて近い存在だったから」
何だか頷けた。
その時、繋がれたままだった朗の手がギュッと僕を掴んだ。
「何?」って朗を見上げると、例えるなら捨てられた子犬みたな顔をして、いきなり抱き締められた。
「……朗?」
びっくりして、それでも震えている朗に気付いて抱き締め返し、伸ばした手で背中を擦る。
「何? どうしたの?」
「人間に戻れるかもしれないって判って、不安になったんじゃない?」
姉ちゃんが当たり前みたいに言った。
「何で不安になるの?」
さっぱり判らない。
「婿にも出す事になるのかな?」
父さんの呟きに母さんが吹いた。
「当人同士の気持ちによるわね」
「どう言う意味だよぉ?!」
タイミングよく出前が届いた。と、父さんは離れを出て母屋に向かった。
離れでテーブルを出して皆で肩を並べてお寿司を食べた。
朗も普通に食べてたから“河童”も何でも食べられるって判って安心した。魚だからかな?
僕の横でクロスも美味しそうに食べてた。
困った事に、朗があれから横に張り付いて離れない。何でか不安らしい。
でもさ、
「人間に戻るなら赤ちゃんから生まれなおさないといけないんだろう?
僕は今のままで居るから安心してよ」
大きくきっぱりと言い切った。
朗は驚いた顔してすぐに綺麗に微笑んで、何だか子犬を安心させる為になだめてる母犬の気分。
で、夜も更けて、何故だか僕は離れで布団並べて朗と一緒に寝る事になっていた。
もちろん、クロスも一緒に。
「長い一日だったなぁ」
僕の部屋には先輩が泊まる事になって“龍の宝珠”について話し合う様に両親に言われたんだ。
「姉ちゃん。何考えてるんだろ?」
自分じゃ無くなるって言われても、好きだから珠に成っても良いなんて……よく判らない。
「私はうらやましく思った」
朗が小さく呟いた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
貴方の事を心から愛していました。ありがとう。
天海みつき
BL
穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。
――混じり込んだ××と共に。
オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。
追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
浮気性のクズ【完結】
REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。
暁斗(アキト/攻め)
大学2年
御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。
律樹(リツキ/受け)
大学1年
一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。
綾斗(アヤト)
大学2年
暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。
3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。
綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。
執筆済み、全7話、予約投稿済み
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる